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コラム|Column

バックボーンはこうして延伸される

2014/08

IIJが国際展開する上で欠かせないのが“バックボーン延伸"である。
ここでは、現場ならではのエピソードを交えながら、延伸作業の一端を紹介する。

2013年にロンドンデータセンターを立ち上げ、米英、日英間の回線が開通するなど、私達は海外でのバックボーン延伸を積極的に行なってきました。その後もシンガポール、香港とバックボーンを延伸し、現在に至っています。今回はシンガポール、香港へのバックボーン展開を含め、IIJバックボーンの国際展開についてご紹介します。

IIJバックボーンの国際展開

IIJは現在、米国、英国、シンガポール、香港と日本以外の四ヵ国にバックボーン設備を展開しています。私達がバックボーン設備を海外展開する際には、「場所、回線、運用・保守、接続性」の4つの点に注力しています。ここでは、海外におけるバックボーン設備の展開と、各ISPとのピアリングについてお話したいと思います。

まず「場所」選び、すなわちバックボーン機器を設置するNOC(Network Operations Center)の選定ですが、これは、主要なISPやキャリアが集まっている場所が候補地になります。なぜなら、そこに接続したい回線キャリアやISPがいないと、接続コストがあがったり、ピアリングに関しては、お目当てのISPと接続条件が合わずに接続できなくなってしまうからです。私達は、IIJの条件に合った各国のデータセンター事業者と調整・選定を行なっています。

次は「回線」、特に各国を結ぶ国際回線についてです。海外の回線事情は日本とはまったく異なり、回線断の頻度は日本に比べて高くなっており、私達には想像できない理由で回線断が発生することもあります。例えば、計画メンテナンスを失敗したり、海底区間で漁船が光ケーブルを引っかけたり、ケーブルが盗難にあったり……理由は様々です。よって、設計段階で運用条件や冗長構成について各キャリアと協議し、主系・従系が同時に回線断しない構成など、IIJが求めるレベルの回線を導入しています。その甲斐あって、現在までクリティカルなバックボーン回線障害は発生していません。

3つめのバックボーン設備の「運用・保守」は、「運用・保守」とひと言でいっても、各国・地域によって異なります。今までのノウハウを生かすことはもちろんですが、データセンターやバックボーン機器の選定時に現地へ赴き、ベンダの保守責任者と話すなどして問題点を解決します。また、運用開始後に実施したメンテナンス・障害対応を現地ベンダとともにレビューし、改善を続けています。

最後は「接続性」についてです。バックボーン設備の接続性を向上させるためには、展開先で各ISPとのピアリングを実施する必要があります。ISPとのピアリングとは、ISPが物理的に相互接続を行ない、そのうえでBGP(Border Gateway Protocol)というルーティングプロトコルを使って、お互いの経路情報を交換し合うことです。そして、その経路情報に従って、お互いのトラフィックが交換されます。

接続形態には、直接接続するプライベートピアと、IXP(Internet eXchange Point)経由で接続するパブリックピアがあります。プライベートピアは、特定のISPと太い回線でつなぎたい場合の接続形態であり、パブリックピアは、多くのISPとつなぎたい場合の接続形態です。

ところで、ISP同士はどのように接続されるのか? と思った方がいらっしゃるかもしれませんが、答えは簡単です。

一般にISPにはピアリング担当がいまして、カンファレンス、電話、メールなどで担当者と連絡しながら交渉します。交渉が成立すれば対等な関係で双方のオペレータが接続作業を行ないます。もちろん、交渉が成立しない場合もあります。理由は様々ですが、だいたいのISPは相手のISPが自分達と同等規模ではないと判断し、有償での接続(もしくは別のサービスの購入)を勧めてきます。このように、実はアナログなやり取りを繰り返したうえで接続が決定されるのです。

こうした取り組みは、バックボーンを海外展開するうえで不可欠であり、一つ一つ検討プロセスを経て判断しています。

バックボーン費用を湯水のように使えるなら、作業も簡単に進みますが、そのようなISPは皆無でしょう。そうしたなか、私達は大切なお客さまのトラフィックを安定的かつ効率的に運べるよう、日々、設計・構築・運用を行なっています。

シンガポール、香港へのバックボーン延伸

皆さんは、IIJバックボーンのアジア展開について、どのようなイメージをお持ちでしょうか? 私はこれまでバックボーンを展開してきた地域(日本、米国、英国)とアジア展開については一線を画する、と捉えています。

過去に A-Bone(IIJ が設立した株式会社アジア・インターネット・ホールディング(AIH) によって1996年1月に運用を開始した、アジア太平洋地域を接続する国際インターネット回線網)でアジア各国間を直接つないでいましたが、実を結びませんでした。そこで今回は、ネットワークとビジネスのアジア展開における再チャレンジであり、国際展開の節目になるプロジェクトと位置づけています。

アジアには、政治・経済などの分野で急速な発展を遂げている新興国も多く、たくさんの日系企業がそうした国々へ進出しているため、再チャレンジを試みるには十分な土俵と言えます。そして、このプロジェクトの成否が、今後のIIJバックボーンの国際展開の を握る、と考えています。

こうした思いを胸に、私達はシンガポール、香港へバックボーンを延伸しました。その際、先述した4点(場所、回線、運用・保守、接続性)には特に注意を払い、今年三月に無事開通し、今も安定運用しています。

今後も続く延伸作業

構築作業の苦労話を少しご紹介します。ロンドン構築時にはかなり苦労したので、このたびは準備期間を十分とりました。しかしながら、蓋を開けてみると、構築直前まで一部モジュールが届かなかったり、チャイニーズニューイヤー(中国の春節)を理解せずにスケジュールをアレンジしてしまい、一部構築スケジュールを再調整するなど、海外での構築のむずかしさを痛感しました。

私達は、香港ローカル及びシンガポールを含む東南アジア諸国とローカルトラフィックを交換するために、お目当てのISPとピアリング交渉を進めていました。そして、シンガポールは Equinix-IX、香港はHKIX(Hong Kong InterneteXchange) という、もっともISPが集まっているIXに接続しました。そして現在も接続性の向上を目指して、IIJが希望するISPと接続交渉を進めています。

私達はこうした取り組みを継続しながら、今後もバックボーンの海外展開を進めていきます。

IIJ ネットワーク本部 ネットワークサービス部 河野 誠

本記事は、弊社広報誌のVol.123 (2014年8月発行)に掲載されています。
Topics 加速するIIJの国際展開「バックボーンはこうして延伸される」
IIJ ネットワーク本部 ネットワークサービス部 技術開発課長 河野 誠
https://www.iij.ad.jp/news/iijnews/2014/pdf/vol123.pdf