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コラム|Column

中国の今と日本企業の対中ビジネス戦略(全4回)

最終回:これからの中国で日本企業が取るべき戦略

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2017/04/03

2016年6月8日にIIJ本社で「中国クラウドソリューションセミナー」を開催しました。本稿では、中国経済分析の第一人者である中国ビジネス研究所 代表の沈 才彬先生が、本セミナーでご講演された内容を、全4回に渡ってお届けします。

※本記事内の情報・データは2016年6月時点のものです。
※記事中のデータはすべて各種データより、沈先生が独自に作成されたものです。

日本企業が取るべき戦略

中長期的には中国経済は要注意の時期に入ります。こういう中国経済に対して、日本企業はどういうビジネス戦略を今求められているのでしょうか。私から次の6つの提言をします。

まず1つ目。中国を世界の工場として活用してきた日本企業の中国ビジネス戦略はもう終わり、これからは世界の市場として中国を活用しなければなりません。自動車業界でいうと、中国はもうすでに世界最大の市場ですし、日米の主要メーカーで今中国に進出していないメーカーは存在しません。ですから中国国内でどれだけシェアを取れるかは、世界各国の自動車メーカーにとっては死活問題です。また観光業界においても、中国は世界最大市場になりつつあり、日本企業はビジネス戦略をしっかり転換していかなければいけません。

2番目の戦略ですが、まず図1をご覧ください。2000年から2015年までの15年間で、中国の産業構造における第2次産業つまり製造業のシェアが大きく下がっています。ところが、第3次産業つまりサービス産業のシェアが急速に拡大しています。また、図2を見ると、今外国投資はサービス業に集中していることがわかります。2015年、第2次産業に対する投資は横ばいですが、第3次産業は17%あまり増加しています。これから日本企業は製造業からサービス業への戦略シフトが必要であり、製造業も輸出向けから中国国内向けにシフトをすべきでしょう。

図1:2000年中国経済の産業構造
(GDP全体=100%)

2015年中国経済の産業構造
(GDP全体=100%)

図2:2015年中国実行ベース外資の内訳

それから3番目として、中国のニューエコノミーに注目することが必要です。先ほどお話したように、オールドエコノミーの時代は終わりました。これからはIT・AI・バイオ・レジャーなどのニューエコノミーの時代です。中国のネット通販大手アリババをご存知だと思いますが、2015年、アリババは「独身者の日」と言われている11月11日のわずか1日で、ネット通販の売上げで1兆7,000億円を記録しました。日本の百貨店大手三井伊勢丹ホールディングスの年間売上は約1兆4,000億円ですので、たった1日でアリババが日本の百貨店大手の1.4倍稼いだことになります。ネット通販は中国で消費が急拡大していることの表れでもあります。また他の例を挙げると、世界第2位の通信会社ファーウェイ(華為技術)は昨年、研究開発費に92億ドルと費やしました。これは85億ドルを研究開発に投資するAppleを超える金額です。ファーウェイの任正非CEOが今心配しているのは、これから人工知能をもったロボットが大きく進化して、人件費をはじめとする生産コストが大幅に削減され、日米欧がリードし、中国が産業空洞化に陥る恐れがあるということです。工場がどんどん中国から撤退し、日米欧は再び新しい産業化の時代に入る、これは中国が1番恐れていることです。ですから、人工知能ロボットは中国が注視すべき分野です。

4番目は「3つの現地化」です。部品の現地化、研究開発の現地化、それから人材の現地化、現地化がなければ中国ビジネス戦略は成功するはずがありません。

5番目は、日本企業の強みと弱みをしっかり認識することです。日本企業の強みは、信頼性、安全性と品質です。中国の観光客による爆買いが起きていますが、日本で爆買いされた商品の大半が、中国で生産されています。それでも中国人が日本で商品を買う理由は信頼です。日本の製品は信頼性と安全性が高く、品質も高い、これが日本企業の強みです。では弱みは何でしょうか。それは意思決定のスピードの遅い、コストが高い、それから自己陶酔です。自己陶酔の典型的な失敗例は新幹線、それから家電です。日本の新幹線は世界ナンバー1と言われてきましたが、実は今、中国の新幹線が世界の半分を占めていて、日本の最大の脅威は中国です。家電に至っては、すでに日本企業は中国勢に完敗しています。ですからやはり自己陶酔はあってはならないです。

最後の提言は、チャイナ・リスクを念頭にして危機管理を強化することです。平時のときであっても、常に有事のことを念頭において、リスク管理をしっかりしなければならないと思います。(完)

沈 才彬(シン サイヒン)

株式会社中国ビジネス研究所代表

(株)中国ビジネス研究所代表のほか、中国ビジネスフォーラム代表、多摩大学大学院フェローを兼任。1944年、中国江蘇省海門市生まれ。81年、中国社会科学院大学院修士課程修了。三井物産戦略研究所中国経済センター長を経て、08年4月より多摩大学・同大学院教授。15年4月より現職。主な著書に『中国の超えがたい9つの壁』『大研究! 中国共産党』『検証 中国爆食経済』『今の中国がわかる本』『中国経済の真実』などがある。