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コラム|Column

日本企業が中国でビジネスをするには中国のクラウドを利用しなければいけないケースが多い。特に中国の顧客情報を扱う場合は、2017年6月1日に施行された「中国網絡安全法(中国サイバーセキュリティ法)」により、中国で得た個人情報は外に出してはならないことから、中国のサーバーでやりくりしなければならなくなる。中国網絡安全法については、過去の記事「中国網絡安全法(中国サイバーセキュリティ法)で何が変わるのか」を参照されたい。

2019年、中国のクラウド産業市場は7兆円規模を目指す

中国のクラウド市場は、易観(analysys)によると、2017年は672億元、日本円にして1兆752億円と1兆円を超える規模となった。2016年と2017年ともに世界のクラウド市場増加率を上回る前年比30%を超える増加となっている。

政府目標としては2019年までに、クラウド産業市場規模目標を4300億元(約7兆円)と定めている。これは政府による2019年までのクラウド産業発展について記した「クラウドコンピューティング発展三年行動計画(2017-2019年)」によるものだ。ここに向かって政府も支援を行い、クラウドコンピューティング産業を伸ばしていく。クラウドに強い企業を育成するだけでなく、教育機関でのクラウド専門家の育成や、外国の専門家や企業との連携も支援していくとしている。

また政府のクラウド産業成長支援政策では2015年に国務院が発表した「関于促進雲計算創新発展培育産業新業態的意見」というものがある。クラウドの処理能力やセキュリティの強化やクラウド関連の法整備に加え、クラウドを利用した電子政務などのアプリケーションの開発などが挙げられている。様々な政府計画が意味するところは、まずは区切りの2020年をめどに確実にクラウド産業を伸ばしていく。またクラウドに強い人材が育成され、クラウド業界のつながりが強化され、クラウド関連の法律が整備されていくというわけだ。

中国巨大IT企業のBAT3社の動き

2011~2015年の第十二次五か年計画の中からクラウド産業のテコ入れが行われた。2012年に発表された、2015年までの新興産業発展計画「第十二次国家戦略性新興産業発展五か年計画」において、クラウドは重点プロジェクトの1つとなった。クラウド業界でリーダー的企業を輩出すべく、北京、深セン、上海、杭州、無錫の五都市をモデル都市としてモデルプロジェクトをすすめた。北京には百度(Baidu)や青雲や天成があり、杭州には阿里巴巴(Alibaba)が、深センには騰訊(Tencent)、上海には中立(UCLOUD)がある。BAT3社(百度、阿里巴巴、騰訊)はクラウドにおいても世界に通じる企業となり、百度はAIで、阿里巴巴はビッグデータで、騰訊はコンテンツ配信などで、その次のステージに向かっているのが現状だ。

様々なクラウドサービスが
中国では開発されている
(写真は阿里巴巴雲栖大会会場)

IaaS型の大手は上記の阿里巴巴(阿里雲)、騰訊(騰訊雲)、百度(百度雲)ほか、キャリア大手の中国移動(移動雲)や中国電信(天翼雲)、それに独立型のUCLOUD(中立)、QINGCLOUD(青雲)、TEAMSUN(華勝天成)が挙げられる。特に阿里巴巴の阿里雲(アリババクラウド)は中国を代表するクラウドサービスプロバイダーとなっている。中国でどんな新しいクラウドサービスが登場しているか。そのトレンドや中国のクセのようなものを把握するのであれば、たとえば杭州で開催される阿里巴巴の雲栖大会を見てみるのは一つの手段だ。一般でも事前予約で参加することが可能だ。

IIJのクラウドサービスIIJ GIO CHINA

中国でのシェアこそ大きくはないが、IIJも中国でクラウドサービスIIJ GIO CHINAをリリースしている。また日本からも中国からもそれぞれアクセスが早いので、中国にサーバーを置きながらも比較的高速にアクセスできることが魅力のひとつ。また日本企業らしく、サポートが日本語英語中国語の三か国語に対応しているのが魅力的だ。

ちなみにIIJ GIO CHINAのページを見ると、中国電信(チャイナテレコム)と中国聯通(チャイナユニコム)間でインターネット通信が遅延するという「南北問題(中国語で「南電信北聯通」)」を解決しているという。もっとも中国電信も中国聯通も手をこまねいているのではなく、積極的にこの南北問題の解決に向けて動いている。10年以上前なら、ダウンロードサイトでも「電信内のサーバーからダウンロードするか、聯通内のサーバーからダウンロードするか」など指定できたが、もはやそうした問題は現在においては小さいものとなっている。

独身の日” 双十一セール“に時限的にクラウドサービスを追加する

中国の11月11日の双十一セールが特にそうだが、ピーク時の利用が平常時に比べ非常に大きいという問題がある。ピーク時には不足するスペックの仮想サーバーであれば平常時はいいが商機となるピーク時で落ちるし、またピーク時でも落ちない仮想サーバーならば平常時に余剰となりコストがかさむ。

双十一は阿里巴巴系の天猫(Tmall)がその中心となるが、天猫に続く京東(JD)や蘇寧(Suning)はもちろん、小さなECサイトも、旅行予約サイトも、サービス販売サイトも双十一の波に乗るべく双十一キャンペーンを出す。中国の消費者もここぞとばかりに、11月11日の前に、ネットサーフィンの中で欲しい商品を見つけ出す。消費者にとって買い時のチャンスなのだ。したがって特にECサービスを抱える各大手ネット企業のクラウドサーバーは処理のピークを迎える。しかもその処理量は毎年上がっている。

こうした中で、時限的にピーク時前後にクラウドを追加で借りて仮想サーバーを強化するという手法をとる中国のネットサービス運営者がいる。ECサイトを抱える企業のクラウドサーバーは、商戦期での処理能力に不安があるため、中国と全く影響のないAWSをはじめとした海外のサーバーを時限的に借りるという中国のネットサービス運営者もいる。物理的に異なるサーバーをひとつの仮想サーバーにまとめることは可能であるため、同じ企業のクラウドサービスを追加することはもちろん、違う企業のクラウドサービスを追加することも可能である。

IIJ GIO CHINAは月単位での利用が可能だ。そしてそれをピーク時だけ時限的に利用するユーザーがいるときく。まさに双十一でのECサイトでの処理負担増による影響を回避するためにかもしれない。



山谷 剛史

1976年東京都生まれ。中国アジアITジャーナリスト。
現地の情報を生々しく、日本人に読みやすくわかりやすくをモットーとし、中国やインドなどアジア諸国のIT事情をルポする。2002年より中国雲南省昆明を拠点とし、現地一般市民の状況を解説するIT記事や経済記事やトレンド記事を執筆講演。日本だけでなく中国の媒体でも多数記事を連載。