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インターネット・トリビア スマートフォンの電波を確保する 周波数再編と共用

IIJ.news Vol.168 February 2022

執筆者プロフィール

IIJ MVNO事業部 事業統括部シニアエンジニア

堂前 清隆

「IIJmioの中の人」の1人として、IIJ公式技術ブログ「てくろぐ」の執筆や、イベント「IIJmio meeting」を開催しています。エンジニアとしてコンテナ型データセンターの開発やケータイサイトのシステム運用、スマホの挙動調査まで、インターネットのさまざまなことを手掛けてきました。

2021年末から翌年1月にかけて、アメリカで「5Gスマートフォンの電波の影響で飛行機が運航できなくなる」という騒ぎが起りました。アメリカの空港周辺の話ではありますが、日本からアメリカに向かう便も影響を受け、日本のニュースなどでも話題になっています。結局、アメリカの携帯電話会社が5G電波利用開始を遅らせ、そのあいだに航空機メーカが対策することになり、大きな混乱は回避されました。

今回の騒ぎの原因は、飛行機が離着陸の際、地面との距離を測るための電波高度計で使用している電波と、5Gで使われる電波の一部が近い周波数を利用していたことです。5Gの電波が飛行機の電波高度計に干渉し、高度が正しく計測できなくなるという懸念が指摘されました。日本でも同じような懸念はありましたが、2018年に検討が行なわれ、飛行機に影響しないかたちで基地局が設置されることになったため、アメリカのような騒ぎにはなっていません。

そもそも飛行機の電波高度計に使われているのと近い周波数を5Gで使わず、ほかに使われていない周波数を使えば良かったという指摘もあるでしょう。しかし、今の社会ではさまざまな用途で電波が利用されており、未使用の周波数はそうそうありません。実は、今回問題になった電波高度計に限らず、スマートフォン・携帯電話に新たに割り当てられた周波数は、それまで別の用途に使われていた周波数であることがほとんどです。

日本でスマートフォン向けに割り当てられてきた電波を見ると、4G用ではTV放送、テレビ局の中継回線、ワイヤレスマイク、タクシーなどの無線、なかには自衛隊が利用していた周波数もあります。これらの周波数は、もともとの利用を終了してもらう前提で、その「跡地」をスマートフォン用に割り当てました。

こうした電波の用途の変更は、有識者による議論をもとに総務省が「周波数再編アクションプラン」として策定しています。終了対象となった用途では免許の更新(再免許)が行なえなくなり、免許の期限が切れると、その時点で利用終了となります。

ただ、免許の有効期間は一般に5年間であり、有効期限切れを待つだけではなかなか用途の転換が進まないこともあります。そのため、近年のスマートフォン向けの周波数再編では、「跡地」を利用する携帯電話会社が費用を負担して「終了促進措置」がとられています。例えば、終了対象になったワイヤレスマイクでは、新しい周波数用の設備への買い換え費用を携帯電話会社が負担するなどしています。

ここで挙げた4G用に割り当てられた周波数では、従来の用途での利用を完全に終了する方式がとられています。それに対して、5G用に割り当てられた周波数では、従来の用途での利用を完全に終了させるのではなく、互いに影響のない範囲で共用する方式がとられました。これらの周波数は、冒頭に紹介した飛行機の電波高度計や人工衛星との通信で利用されています。そのため、空港や衛星通信設備の近くに5Gの基地局を設置しないという対策がとられています。

さらに、今後スマートフォン向けに割り当てが予定されている周波数では「ダイナミック周波数共用」と呼ばれる方式が検討されています。例えば、屋外でのテレビ収録に利用する中継用無線は、収録時以外は使っていません。そこで、対象の周波数がいつ使われているかを管理するシステムを用意し、その時間帯以外はスマートフォン用に利用しようという方式です。これにより、既存の利用者の無線設備を入れ替えないまま、スマートフォンでの利用も可能にすることが考えられています。

周波数再編はスマートフォンに限った話ではなく、全ての無線利用に適用されます。ですが、スマートフォンを含めた携帯電話網の用途拡大、通信需要の増大を背景に、再編のなかの“台風の目”的な位置づけになっているように思われます。


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