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ぷろろーぐ 環境を変貌させてきたツケ

IIJ.news Vol.171 August 2022

株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長 鈴木幸一

言うまでもないが、ユーラシア大陸の西の端にある欧州から見れば、日本はファーイースト(極東)である。日本とは、海を隔てた隣国の中国も、欧州から見れば、遠くにある東の国のはずだが、ユーラシア大陸の東に位置する広大な国なので、極東といった表現は似つかわしくないのだろう。

7月の半ば、欧州に出張をした。ロシアのウクライナ侵攻が収まらず、日本からの欧州便はロシア上空を飛行できない。欧州に辿り着くには大変な長旅になっている。どんな経路を辿るにしても、長時間のフライトを覚悟しないといけない。私はドバイ経由で往復したのだが、ドバイ空港でのトランジットの時間を含めると、ほぼ一日を費やして、やっと欧州の都市に着くのである。そのうえ、日本の政府は慎重というか、帰国にあたっては、72時間内での検査で「ネガティブ」の証明がないと、帰国便には搭乗できない。

海に囲まれた日本は、特殊な存在として長い歴史を持つことができた国である。中国との関係においても、朝鮮半島が緊張感のある厳しい歴史を乗り越えてきたのに対し、日本は元の襲来に脅かされた経験があるだけである。しかも、中東に至るまであれほど広域にわたってユーラシア大陸を席巻したモンゴル帝国だが、日本に対する元寇は、「神風」という言葉を残した暴風雨によって、侵攻をはばまれている。

日本にも「戦国時代」はあったが、ユーラシア大陸の歴史とは比較しようがないほど、小さなものだった。もちろん規模にかかわらず、戦いがいつも悲劇を生むことは言うまでもないが、日本における戦いの歴史はユーラシア大陸におけるそれとはまったく異なる。

最初にミーティングのあったミラノに着くまで、22時間もかかったこともあり、空いた時間ができた。ふと、30数年ぶりにジェノヴァに行く気になった。駅から20分ほどのところにある漁村の小さな入り江を思い出したのである。近くの道路で降りて、入江まで歩いて10分もかからなかったのだが、気温は40度近く、歩いて行くうちに頭が朦朧としてきて、暑いだけ。入江に着いた頃には、折角の風景を眺める気力もなくなっていた。こんな風景だったかなあ。暑さで熱病のようになった脳は、がっかりしただけである。ミラノのホテルに戻って、スマホで撮影した写真を見ると、それなりの雰囲気があるのだが、その漁村にいたあいだは、ひたすら熱に浮かされて、呆然としていた。

フランスに行っても、熱波に襲われた。「ボルドーも5年後には、暑さでワインなどできなくなる」。知人の言葉も投げやりである。この暑さを招いた責任は、豊かさ、快適さを追求するために、科学や技術を発展させた人間なのだから、今度は、その科学や技術で自らを救うほかないと、暑さに呆れて、他人事のような議論をしてしまう。

動植物は生き延びるために、自らを変化させることで環境に順応してきたのだが、人間はより快適な生活への欲望を満たすために化石燃料中毒になることで、自らを変化させず、環境を変貌させ続けてきた。その結果が、現在の気候変動を招いたのだ。異常な暑さの下、そんな話をしながら飲み続けたのだが、深夜まで気温が下がることはなかった。


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