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IIJ.news Vol.171 August 2022
どんなことでも関連動画がアップされ、誰でも簡単に参照できる時代になった。
今回は、筆者の「米作り」における“新たなチャレンジ”についてレポートする。
IIJ 非常勤顧問
浅羽 登志也
株式会社ティーガイア社外取締役、株式会社パロンゴ監査役、株式会社情報工場シニアエディター、クワドリリオン株式会社エバンジェリスト
平日は主に企業経営支援、研修講師、執筆活動など。土日は米と野菜作り。
先日、同居人の学生時代の友人が、小学生の息子を連れて軽井沢に遊びに来ているというので、夕食をともにしました。ちょっとシャイな男の子だったのですが、「学校でどんなことしてるの?」と話題を振ってみると、なんと「YouTube係をやってる!」と嬉しそうに答えるではないですか。「ええっ? それ何?」と突っ込むと、母親の方が「昔の学級新聞みたいなもので、クラスの様子とかを動画に撮って編集してYouTubeに上げているんです。先生ができないから、うちの子がやってるんです!」と得意げに解説してくれました。さらに「もしかすると将来の夢はYouTuber?」と男の子に尋ねると、ちょっとはにかみながら、うなずくではないですか。ああ、もうそういう時代なんですね。前回紹介したギタリストの友人も、最近は英語でYouTubeのレッスン動画を作り始めたそうで、今の子どもたちはこうやって世界との接点を広げていけるんだなぁと、ちょっと感動しました。 たしかに筆者も何か実践的な知識を得ようと思ったら、書籍よりもYouTubeに動画がないか探すようになっています。音楽系ならば、楽器ごとにさまざまなテクニックの解説動画を見つけられますし、農業だって、理論的な解説から実践編まで、たくさん映像があります。特に今年は、前回ご紹介したように、新しい田んぼの立ち上げをやったので、YouTubeをはじめネットから得た豊富な情報に大いに助けられています。 新しい田んぼは、旧中山道の追分宿から国道一八号を挟んで南側に広がる田園地帯(農業振興地域)にあります。追分という地名は、もともと中山道から北国街道(善光寺に向かう道)が分岐する地点だったことに由来しています。古くから交通の要所で、宿場が栄え、すぐ隣には「御代田町」という町があるくらいで、稲作も盛んだったことがうかがえます。景観も素晴らしく、田んぼの北側には浅間山が聳え、また南側は緩やかな斜面になっていて、田園風景を一望に見下ろすことができます。そしてその向こうには、信濃鉄道の高架線路が横たわっていて、ちょっとレトロな雰囲気の列車が時々警笛を鳴らしながらガタゴトと行き来する姿も見ることができます。プロなのかアマチュアなのかよくわからないですが、重そうな望遠レンズのついた一眼レフを首から下げた写真家たちが、被写体を求めて時々やってきます。彼らもきっとInstagramやYouTubeなどに画像や映像をアップしているのでしょう。 そんな素晴らしい土地柄にもかかわらず、筆者より少し若い田んぼのオーナーさんは「農業はやったことがない。お義父さんが一人でやっていたのでよくわからない」とおっしゃる造園士さんで、基本的に自由にやらせていただけるのですが、わからないことはネットの情報などを頼りに試行錯誤している状態です。
圃場は一反ほどお借りしたのですが、夫婦二人だけでやるのは大変なので、近所に住む、東京のIT系企業に務める友人を誘って二家族でやることにしました。今回の追分の田んぼでは、以前にも何度か紹介したことがある「お布団農法(水稲布マルチ直播栽培)」はやらないことにして、普通に苗を調達して田植えをしています。「普通に」と言っても、友人が自然農派ということもあり、農薬や肥料を使わずに、その土地の地力を活かす方法です。ただ、完全な自然農だとシンドイので、必要に応じて機械を使ったり、米糠などの有機物を入れたりはしています。 お布団農法をやらなかった理由は、布マルチ代がそれなりにかかるのと、一度普通のやり方でやってみたかったからです。ただ、お布団(布マルチ)を使わないと、放っておくと草がボーボーと生えてくるので、なんらかの方法で除草をしなければなりません。 有機農業で除草する方法としては、「田車」という、回転する網状の金属の車輪で稲の畝の両側の土を掻くようにして除草する器具を使ったり、自動車用のチェーンを数センチくらいに細かく切って、それらを細長い木の板に打ち付けて簾のようにして、チェーンの先で田んぼの表面を掻くようにしながら草の芽を掻き取るチェーン除草器など、いろいろな方法があります。これらのやり方もネットで映像が見つかります。ただ、動画を見ていると、どちらも使うのは大変そうで、田車は一畝ずつ全ての畝にかけてやらないといけないので、何十回も田んぼを往復することになりますし、チェーン除草器は自作が大変そうなので、何かもっと良い方法はないものかと、さらにネットで情報を探してみました。 すると、松本市にある公益財団法人自然農法国際研究開発センターのサイトに、農林水産省の補助事業として平成二四年に作成された『有機栽培技術の手引(水稲・大豆等編)』というドキュメントを見つけました。しかも国の予算で作ったものなので、無料でPDFをダウンロードできるではないですか! さっそくダウンロードして読んでみると、有機の稲作の各ステップがかなり詳しく網羅的に書かれており、とても勉強になりました。特に「この文書は信用できる!」と思ったのは、「お布団農法」についても紹介しているところです。しかも長所と短所がきちんと分析されていて、筆者がここ何年かお布団農法をやってきた経験に照らし合わせても、とても納得できる内容でした。 さて、このドキュメントの除草の項目を読んでいくと、「竹ぼうき除草」という聞いたことのない除草方法が写真入りで紹介されています。除草器の作り方も簡単そうで、竹ぼうきを二本用意して、ほうきの竹の枝の部分をバラして簾のように横に並べて、それを木材二本で挟んで固定し、その木材と竹でできた簾に、ほうきの柄の部分の竹を括りつけて引っ張れるようにすれば完成です。 使い方はYouTubeに映像がいくつかありました。竹の枝の先端が田んぼの土に刺さるように置いて、二本の竹の柄を引っ張って、土の表面を竹の簾で引っ掻くようにしながら田んぼを往復すれば、発芽したばかりの草の芽を竹ぼうきで掻き出すことができます。さっそく真似してやってみたところ、実に具合が良いではないですか! 竹製なので軽いし、引っ掻いても稲が抜けることもなく、しかも雑草の芽をしっかり掻き出すことができました。そんなこんなで、初めてのフツーの稲作は、今のところ雑草に呑まれることもなく順調に進んでいます。 ちょっと失敗したなと思うのは、せっかく初めてのチャレンジだったにもかかわらず、作業に夢中になってしまい、その様子を動画に撮っていなかったことです。今回大いにネットに助けてもらっているので、我々も「ぼくたちはこうやりました」と解説動画を作って、ネットに還元するべきでした。今年、米が収穫できたら、来年は筆者もYouTube係になって、ちゃんと世界に向けて情報発信したいと思います。
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