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IIJ.news Vol.172 October 2022
IIJ テクノロジーユニット シニアエンジニア
堂前 清隆
IIJの技術広報担当として、技術Blogの執筆・YouTube動画の作成・講演活動などを行っています。これまでWebサイト・ケータイサイトの開発、コンテナ型データセンターの研究、スマホ・モバイル技術の調査などをやってきました。ネットワークやセキュリティを含め、インターネット全般の話題を取り扱っています。
インターネットで利用できるドメイン名には、「.com」「.jp」「.みんな」など、さまざまなものがあります。これらは「トップレベルドメイン」(TLD)と呼ばれます。ドメインの利用者が実際に利用するのは、トップレベルドメインの次のセカンドレベルの名前を指定する「example.com」や、サードレベルの名前を指定する「example.co.jp」になります。このようにドメイン名は、トップ/セカンド/サードといった階層構造で表されます。
「トップレベルドメイン」と書くと、いかにも一番上の階層のように見えますが、実はこの上にもう一つの階層があります。それが「ルート」です。ルートとは日本語で「根」という意味で、文字通り全てのドメイン名の根っこにあたります。ドメインの仕様上、「ルート」は「文字が何もない(空文字列)」であると定義されています。普段目にすることはほぼありませんが、「www.example.com」のようなドメイン名は、TLDの右側を「.」で区切ってルートを表す空文字列を連結するので、「www.example.com.」と表すのがもっとも厳密な表現となります。
この階層構造は、見やすさや国などの属性を表すためだけでなく、ドメイン名の情報を管理するサーバとも対応しています。例えば、「example.com」というドメイン名の情報を管理しているサーバ(DNS権威サーバ)がインターネット上のどこ(どのIPアドレス)にあるかは、その一つ上の階層の「com」のDNS権威サーバが管理しています。そして「.com」「.jp」「.みんな」などのトップレベルドメインのDNS権威サーバがどこにあるのかを管理しているのが、「ルートサーバ」です。インターネット上でドメイン名を指定して通信をする際は、最初にこのルートサーバへの問い合わせが行なわれます。ルートサーバがどこにあるかという情報は「ヒントファイル」というファイルにまとめられて、配布されています。ネットワークの管理者はこのヒントファイルをダウンロードして、DNSの問い合わせを行なう「キャッシュサーバ」にあらかじめセットしておきます。
そんなルートサーバですが、アルファベット一文字でA~Mまでの名前がつけられています。A~M、つまり全世界にたった13しかルートサーバが存在しないの? と驚かれた方もいるかもしれません。その理解は半分は正しく、かつては「Aルートサーバ」と言えば、まさにある一台の特定のサーバを指していました。しかし、インターネットの利用が拡大し、ルートサーバの重要性も増したことから、現在は「Aルートサーバ」と呼ばれるサーバが世界数十箇所に配置されており、どれも同じ機能を提供しています。同様に他のルートサーバも複数の場所に配置されており、現在はA~Mを合わせて1500を超える場所でサーバが稼働しています。
ところで、ルートサーバはドメインの情報を管理する最上位のサーバだと書きましたが、技術的にはどこかの誰かが勝手に「ルートサーバのようなサーバ」を作ることもできてしまいます。そのようなサーバや階層構造を「オルタネート・ルート」と呼ぶこともあります。オルタネート・ルートは、現在のインターネットとはまったく別のドメインを作ったり、正規のドメインと同じ名前で異なる情報を設定することもできます。もちろんそんなことをすると、インターネットが大混乱に陥ってしまうので、インターネットの運用に関わるコミュニティはオルタネート・ルートに否定的です。
これまでにいくつかの団体が自分たちの作った「オルタネート・ルート」を普及させようと試みたことがあります。その背景には何らかの主義主張があったり、金銭目的があったりなどさまざまなようですが、今のところインターネット上で大きな影響力を持つには至っていません。
オルタネート・ルートが影響力を持つためには、正規のルートサーバを示すヒントファイルをオルタネート・ルートのものに置き換える必要があります。これには各ネットワークの管理者が手を動かさなければなりませんが、ほとんどのネットワークでヒントファイルの置き換えは行なわれませんでした。ネットワーク管理者がそもそもオルタネート・ルートの存在を意識していないか、あるいは認識していても快く思っていなかったことが理由のようです。
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