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インターネット・トリビア ダークウェブ・ダークネット

IIJ.news Vol.175 April 2023

執筆者プロフィール

IIJ テクノロジーユニット シニアエンジニア

堂前 清隆

IIJの技術広報担当として、技術Blogの執筆・YouTube動画の作成・講演活動などを行っています。これまでWebサイト・ケータイサイトの開発、コンテナ型データセンターの研究、スマホ・モバイル技術の調査などをやってきました。ネットワークやセキュリティを含め、インターネット全般の話題を取り扱っています。

インターネットの安全・安心やサイバーセキュリティの話で時々「ダークウェブ」という用語が使われます。新聞などでもたまに見かけますが、実は、この言葉はかなり曖昧に使われており、人によって違う対象を指していることがあります。お互いの認識がずれたまま、会話がかみ合ってない場面に遭遇することもよくあります。今回は「ダークウェブ」が指す対象について紹介します。

非技術系の記事で「ダークウェブ」が登場する場合、かなりの割合で「アングラな情報を扱っているWEBサイト」を指しているように思われます。アングラにもいろいろありますが、いわゆるゴシップや公序良俗に反する話題もあれば、不正に持ち出された個人情報や禁止薬物など法に触れる話題を扱っていることもあります。ただ、扱っている情報がアングラなだけで、技術的には何の変哲もないWEBサイトのことがほとんどで、「闇サイト」や「裏サイト」と呼ばれることもあります。

別の文脈では、グーグルなどのWEB検索サービスでは見つからないWEBサイトを指して「ダークウェブ」と呼ぶことがあります。こうしたWEBサイトは「検索拒否」の設定をすることで、一般的な検索サービスに情報を収集されるのを防いでいます。ですが、「検索拒否」は紳士協定に基づく仕組みですし、絶対に検索で見つけられないというわけでもありません。また、検索を拒否している以外は普通のWEBサイトなので、人に聞いたりSNS投稿のリンクをたどれば、誰でも普通にアクセスできます。こうしたWEBサイトを「ディープウェブ」と呼ぶ場合もあります。

それ以外に、通常のインターネットからアクセスできない秘密のネットワークに存在するWEBサイトを指して「ダークウェブ」と呼ぶこともあります。例えば「匿名アクセスソフトウェア」として知られている「Tor」は、インターネット上にTor利用者だけがアクセス可能なネットワークを構築しており、そのなかにWEBサイトを設けることができます。普通のブラウザを使っているだけではアクセスできないため、まさに「ダークウェブ」という雰囲気があります。しかし、最近はTorも有名になり、誰でもソフトウェアの設定さえすれば参加できるので、実はそこまで閉鎖された世界でもありません。

Torはもともと匿名性を確保するために開発されたこともあり、アングラな情報が集まりやすい傾向がありました。そういった理由で「アングラサイト」と印象がかぶりがちなところがあります。

ここまで紹介してきた「ダークウェブ」と混同されがちな用語に「ダークネット」があります。ネットワークやセキュリティの技術者は「ダークウェブ」と「ダークネット」を明確に区別しています。

インターネットでは通信相手を識別するのにIPアドレスを使います。いろいろな理由から、ある範囲のIPアドレスが使用されていないことがあります。技術者がいう「ダークネット」が指すのはこうしたネットワークです。

ダークネットは本来、未使用のIPアドレスなので、ここに向けた通信が行なわれることはないはずです。しかし、実際に観測してみると、ダークネットに向けて正体不明の通信が飛び込んできます。実はこうした通信を分析することで、インターネット上で飛び交うサイバー攻撃の一端を観測できるケースがあります。セキュリティの研究のため、ダークネットの観測を行なっているプロジェクトが日本にもいくつかあります。

いずれも、普通にインターネットを使っている限りはあまり関わらないタイプの用語です。もし話題に出てきた時は、文脈を読んで解釈してみてください。


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