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AI × インターネット AI(人工知能)、そしてインターネット

IIJ.news Vol.177 August 2023

巷ではChatGPTが話題となっているが、本稿では人工知能やインターネット、ディープ・ラーニング、さらにはそもそも「知能」とは何なのか?など、昨今の生成AIブームを少し広い視野から深掘りしてみたい。

執筆者プロフィール

IIJ技術主幹

三膳 孝通

小誌でも、とうとう流行りの「AI(人工知能)」を取り上げることになりました。最初に本稿を書くにあたって、2つほど、筆者の立ち位置を述べさせていただきます。

1つ目は、筆者はAIの専門家ではありません。あくまでもインターネット業界に身を置くものとして、最近のAI(特に「生成AI」と呼ばれるもの)の動向をどのように受け止めているかに主眼を置きながら、開発というより、活用という視点から論じてみたいと考えています。よって、AI技術について理解が十分でなく、不正確な記述があったとしても、ご容赦いただけるとありがたいです。

2つ目は、現在のAIを取り巻く状況は――激しい開発競争による急速な性能向上、多くのツールの登場による利活用の拡大、各種社会的課題の顕在化とそれに伴う規制に関する議論……等々、執筆時点(2023年7月)の内容が瞬く間に変わってしまっても、まったく不思議ではありません。出きる限りそのようなことがないよう努めますが、これだけの激変が起きていると、不確定さが含まれてしまうかもしれません。その点、どうかご理解ください。

生成AIブーム

「ChatGPT」に端を発した最近の生成AIブームは、今後も急速に広がっていくでしょう。なぜなら、それは圧倒的に“便利”だからです。

従来の検索エンジンは、自然言語を解析して、インターネット上に広がった膨大な情報空間から関連する情報を探し出していました。それだけでもインターネット以前に比べると、情報へ到達できるスピード・機会や対象となる情報の量は爆発的に増大しました。その反面、多くの情報を無秩序に(それは欠点であると同時に利点でもあるのですが)入手できるようになり、再度、手元で情報の整理を行なう必要がありました。

一方、対話型AIは、キーワード検索ではなく、自然言語で問い合わせることができ、回答も利用者が望むような整理された自然言語で返ってきます。これにより、いわゆる日常のちょっとした疑問の解決だけでなく、プログラミングに関する支援など、インターネット上に散逸しているIT技術のエキスパートな知識を活用するといったことが可能になっています。

ほかにも、画像生成AIや音声合成AI、さらには音楽や動画などの生成も、かなりの精度で“らしい”ものができるようになっています。これは(誤解を恐れずに言うなら)自分の望むものが、技術の習得なしに、ある程度の品質で得られるということです。つまり、圧倒的に“お手軽”で“便利”なわけで、これで流行らないはずがありません(笑)。

では、実際のクオリティがどの程度なのか?という点に関しては、正直、まだ一定の「知能」を感じさせる程度であり、いわゆる専門家の代わりができるようなレベルではありません。より高い品質を求めるなら、もっと多くの正確な教師データを学習させればいいという考えもあるでしょうが、それだけではない何か“壁”のようなものも存在しているように感じます。

また、生成AIに関しては、教師データとして使われた元情報の所有者の権利をどう考えるのか、生成された情報をどのように取り扱うのか、不適切な利用を防ぐにはどうすればいいのか……等々、急速な普及に伴う多くの課題も出ており、世界中で議論が行なわれていることは、メディアなどの報道を通してご存じだと思います。ここではそうした課題には深入りしませんが、生成AIを今後、広く・安全に利活用できる環境を整備していくことは必要不可欠であり、そのための議論と社会的な合意形成が非常に大切であることは改めて表明しておきたいと思います。

人工知能とは

AIは「Artificial Intelligence」の略語ですが、現状では「ディープ・ラーニングを使った生成AI」のような狭義の人工知能を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。よって以下では、人為的に知能を模倣する人工知能とは、どういうもので、今なぜ、こういう状況になったのかということをざっと見てみましょう。

コンピュータが登場した当時から、コンピュータに人工的に知能を持たせることが試みられてきました。プログラムに従って処理をするという動作自体、プログラムに特化された知能を持つ人工知能と言えなくもないですが、そもそも「知能」の定義が曖昧なのです。この問題をめぐっては、機械が人間的かどうかを判定する「チューリング・テスト」が考案されるなど、過去にもいろいろ議論されてきました。

おそらく“人工知能っぽい”と最初に認識されたのは、AI将棋のようなゲーム用のプログラムではないでしょうか。当初のAIは、特定分野のモデル(例えば将棋)の勝敗に関する意思決定を記述した計算にもとづくものでした。要は、人間の知識をルール化して実装する方法で、チェスや将棋のような簡潔かつ限定的な世界においては一定程度、通用しましたが、より多機能な用途に拡張するのは困難でした。当時は、まだコンピュータの処理能力の問題もありましたが、そもそも複雑な問題をモデル化することや、知識をルール化することは、現在の人間にとっても難題なのです。

一方、脳の動きをモデル化して知能を実装しようという試みも行なわれてきました。「ニューロ・コンピューティング」という技法で、脳の動きを模倣したプログラムを作成し、そこに学習データを投入して教育(ここではあえてこの言葉を使います)することで、問題解決の能力を取得させようとするものです。これは一定の評価を得ましたが、実際の利活用では画像認識など必要十分な学習データが存在するか、もしくは現実的な処理能力に限られた分野に特化されていたように思います。

ところが、コンピュータの処理能力の急速な高まりや、インターネットのような広大な情報空間の登場により、さらに高度な人工知能の実装が可能になってきました。現在の人工知能を支える技術はいろいろありますが、その最たるものが「ディープ・ラーニング(深層学習)」と呼ばれる、分析をより綿密に行なうことができる技術です。

人工知能としてのディープ・ラーニングという技術の進歩、GPUの処理能力など現実的な計算能力の向上、インターネットやIoTを介した豊富な学習データの流通が、近年の急速な人工知能の発展を支え、さまざまな分野で活用が進んでいます。

COLUMN
人工知能の利活用

対話型AIが話題になっているので、最近は影が薄くなっているかもしれませんが、実はAI技術はさまざまな分野で多数活用されています。特定分野に精度の高い学習データが豊富に存在し、利用が拡大するにつれてより学習効果が高まるような用途においては、十分実用的な能力を発揮できるようになっています。

例えば、自然言語解析、音声・画像認識、ネットショッピングのレコメンド機能など、インターネット上にある多種多様なサービスで、すでにごく自然に使われています。将来的には、スマートフォンの音声認識やカメラの画像処理、自動運転技術や気象予報などへの利用拡大も見込まれています。

今ではほとんどの機器・製品がソフトウェアで制御されているのと同様に、多くの製品のあちこちにAI技術が使われています。AIは、もはや特別な技術でもなんでもなく、汎用的な技術として、我々はその利便性を享受しています。

インターネットと人工知能

先述した通り、インターネットの登場は、人工知能の高度化に非常に大きな影響を与えました。では反対に、人工知能はインターネットにどのような影響をおよぼし、変化を生じさせているでしょうか?

インターネットの広大な情報空間には、人工知能にとっての貴重な学習データが集積されており、膨大なコンテンツにアクセスするという利活用は、今後も増大していくでしょう。ただし、コンテンツの提供者にとって、望ましくないアクセスが出てくることが予想されます。こうした問題については、ニュースサイト、動画投稿サイト、SNSなどでさまざまな対応が行なわれています。つい最近も、TwitterがAI対策として利用規約を改定しました。

安全性についての懸念もあります。画像生成AIの精度が向上したことで、フェイクニュースのような事実ではない情報がインターネット上に流布するといった問題が実際に起きています。また、フィッシングメールなど悪意ある情報の生成にAIが使われるといったことも起きているようです。残念ながら、優れた先端技術は悪意ある行動に先んじて使われることがあり、AIにもそれが起きているのです。

もちろん悪いことばかりではありません。例えば、インターネットのセキュリティを高めるためにAIを活用するといった技術も開発されています。未知の攻撃をAIで検出できるようにしたり、セキュリティ問題の解決をAIが支援するといった試みがそれに当たります。AIによる攻撃にはAIによる対応がもっとも効果的というのは一理ありそうです。

さらに想像を膨らませると、インターネットそのものがAI化することも考えられます。知能の定義にもよりますが、入力に対して単に出力するだけのモデルが知能でないとするなら、情報の集合体であり、情報処理の仕組みを備えているインターネットが、その知識でもって全体的な行動を決定するような知能を獲得する!なんてことも起こるかもしれません。

知能、そして学習

改めて「知能」とは何でしょうか?人間が知能を持っていることは、前提として間違いないでしょう。ある種の能力だということは理解できますが、具体的にどのような能力かというと、非常に不明瞭で頼りない見解しか持ち合わせていません。よって、人工知能はどんな知能なのか?という問いも定義次第ということになります。

AI技術を使っていれば人工知能と呼ぶことはできるかもしれませんが、それだと知能を定義したことにはなりません。そもそも人工知能が、本来の「知能」の可能性にはまだ到底およばない、と言えます。ちなみに、もし知能が情報量や処理能力だけを指すのであれば、すでにコンピュータは人間の能力を超えています。だからと言って、人間以上の知能を持っているということにはなりません。以前からなされている、AIが人間の知能を超える「技術的特異点(シンギュラリティ)」の議論も、あまり感情的にならず、冷静に論じられるべきでしょう。

次に「学習」についてですが、どうも学習というのは、教師の“あり/なし”で区別して考えられることが多いようです。大雑把に言えば、教師“あり”とは、問題と正解が存在しているケース、教師“なし”は、正解が存在しない、もしくは問題自身も存在しないケース、のようです。個人的には、前者は教育、後者を学習、と呼ぶのが相応しい気がしています。言い方を変えれば、教育とは「いかに正確に正解にたどり着けるか」という能力を鍛える方法であり、学習は「いかに適切な問題設定ができるか」という能力を鍛える方法ではないでしょうか。そういう意味で、現在の人工知能は、まだ教育という教師“あり”の学習がメインで、提供される能力も問題解決にフォーカスされているようです。

対話型AIにおいても、問題の設定や正解の提供は人間が行なっていますし、それ以外の曖昧な状況においては、まだ十分な能力を発揮できていません。これがつまり、先に書いた“壁”ではないかと思うのです。もちろん、今後の技術革新により、この“壁”も越えられる可能性はありますが、それまでは冷静な認識と議論が必要だと考えます。

道具を“うまく使いこなす”

生物の神経細胞は、情報伝達に電気信号を使っています。各種センサからの情報をデジタル信号に変換して行なうコンピュータの情報処理は、我々の身体が目、耳、鼻、口、皮膚、内臓といった各器官からの情報を単一の電気信号に置き換えて伝達しているのと類似しており、先人の技術開発における卓見には驚きを禁じえません。もちろん細かい処理の仕方は異なりますし、もしかしたら量子コンピュータなどがそうした仕組みを飛び越える可能性はあるように思います。その時は人工知能もまた新たな局面を迎えるのかもしれません。

人間が社会を営むなかで、あたかも社会という集団に知性が生じているように見えるのと同様に、コンピュータの集合体であるインターネットにも知性を感じるようになるかもしれません。それをどのように受け止めていくのか、その技術をどのように使いこなしていくのか、今後、試されているように思います。

技術はあくまでも“道具”です。電卓を使うことで計算を速く正確に行なえるようになったように、AI技術を使ってより効率的に問題解決ができるようになっていくのは自明で、そのために必要な道具を適切に使い分けることは必然と言えるでしょう。

AI技術とどう付き合っていくのかを考える際、これから折にふれて出てくるであろう「生成AIに監査・認証制を」という議論がいいキッカケになるかもしれないと筆者は考えています。「なんとなく危なそうだから使わない」ではなく、「いかにうまく使いこなしていくのか」が重要になってきます。本来、科学技術は人を不幸にするものではないはずです。

さて、本稿をAIに入力したらどういう評価になるのでしょうか?(笑)新しい技術とまずは付き合ってみて、そのうち試してみたいと思います。

COLUMN
生物と知能

人間以外の生物は「知能」を持っているでしょうか?たぶん、いくつかの動物には知能がありそうです。植物にはあるでしょうか?何らかの生体反応はありますが、知能と言えるかどうか……。昆虫は?個としてはなさそうですが、集団としてなら知能を持っているように見えることもあります。では、ウィルスは?そもそも生物と言えないかもしれませんが、生物との相互作用において何らかの“意思”が感じられるかもしれません。しかしそれは知能でしょうか?

  1. ChatGPT(Chat Generative Pre-trained Transformer)は、OpenAI社が2022年11月に公開した人工知能チャットボット。膨大な情報を学習した言語モデルがベースになっており、ユーザの質問に洗練された対話形式で答えることができる。爆発的な人気を誇り、リリースから2カ月で1億人のユーザを獲得した(日本のユーザ数は世界第3位)。

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