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人と空気とインターネット 気質診断テスト

IIJ.news Vol.178 October 2023

昔から「性格診断」なるものが行なわれているが、そもそも「人格」とは、どのように形成されるのか?
また、そこから導き出される行動のパターンにはある種の法則性が存在するのか?

執筆者プロフィール

IIJ 非常勤顧問

浅羽 登志也

株式会社ティーガイア社外取締役、株式会社パロンゴ監査役、株式会社情報工場シニアエディター、クワドリリオン株式会社エバンジェリスト
平日は主に企業経営支援、研修講師、執筆活動など。土日は米と野菜作り。

飽きっぽい性格

自分は本当に飽きっぽい性格で、1つのことをずっと続けるのが極めて苦手なんだな、と最近しみじみ感じています。人と競争するのも大嫌いなので、同じことを他の人が始めると、違うことをしたくなります。大学受験も、現役の時は東京の大学を志望しましたが、見事不合格だったため、同じところを再受験してもつまらないからと、関西の大学に志望変更しましたし、住むところも子供の頃を除くと、だいたい2〜3年ごとに引っ越ししています。今、住んでいる軽井沢の家がいつの間にか10年を超えて、人生最長記録となっていることに先日気がついて、かなり驚いています。歳をとったということでしょうか?でも基本的には、事程左様に1つの場所で同じことをじっと繰り返すのが苦手な性格のようです。

また、筆者はロジックより直感を信じて動く人間で、例えば、就職の時、内定式に出席した会社には入らなかったのですが、その理由は、内定式で祝辞を述べたカリスマ経営者と、そこに集まっていた内定者たちを見て、「合わない」と感じたからでした。それ以上の説明はできないのですが、「違う」と思ってしまったのだから、仕方ありません。そそくさと逃げるように帰って、翌日、人事担当者に内定辞退の電話を入れました。あとから振り返ると、多分それが正解だったのだと思います。そうでなければ、インターネットの会社の立ち上げに参画することなどなかったのですから。ちなみに、昔はよくIIJの内定式で挨拶をさせられたので、ある時、良かれと思ってこの話を内定者の皆さんに披露したことがありました。そうしたら、それ以降、内定式には呼ばれなくなりました(笑)。会社が大きくなると、仕方ないのかもしれません。

なぜこんなことを書いているのかというと、もちろん、原稿がちっとも書けないからです!以前ならこういう時は「米作り」のことを書いたりして、お茶を濁していましたが、それにも飽きてきたというか、そもそも米作りに飽きてきている自分を感じる今日この頃なのです。結局、何かをやり続け、極めるタイプではなさそうです。

IIJは昨年12月に30周年を迎え、その後立ち上がった業界のあちらこちらで30周年の記念行事があるのですが、基本的にそういうものはつまらないので出席しません。本当に困った性格だと思います。そういえば、IIJができてから5年くらい経ち、新卒社員を採用するようになった頃、「性格診断テスト」を受けさせているというので、試しに三膳さんと一緒に受けてみたら、かなり酷い結果が出て、当時の人事部長から「あんたたち、今なら不採用だわ」と冷たく言い放たれました。でも、それをかえって嬉しく感じた筆者は、おそらく変人なのでしょう(笑)。誰かが決めた何らかの規格に自分が合致していないということが、この上なく誇らしく感じられたのでした。もちろん、生きづらいことも多く、だから頻繁に居場所を変えたくなるのかもしれません。

気質テストから見た日本企業

今年になって、筆者が最初に勤めた会社であるリクルートの同期から「面白い話があるので参加せえへんか?」と誘われて、我々より少し年上で、今は企業向け人材紹介・人材育成ビジネスを手がけている先輩のウェビナーに参加しました。

すると、自分がなぜ変人なのか、よくわかりました。その先輩が開発した教材は、米ワシントン大学のクロニンジャー博士が考案したパーソナリティ理論をベースに作られているそうですが、その骨子は、「人格」とは、生まれながらに持っている「気質」と、後天的に獲得する「性格」によって決まるというものです。「気質」は先天的で、あとからはほぼ変えられず、それを後天的に調整するのが「性格」だというのです。また「気質」は、「ドーパミン」「セロトニン」「ノルアドレナリン」といった脳内伝達物質が引き起こす「情動」に左右され、ドーパミンは新奇性追求、セロトニンは損害回避、ノルアドレナリンは報酬依存の傾向をそれぞれ持っており、この3つのパラメータの組み合わせで、人の情動のタイプが分類できるのだとか……。さらに、その情動のタイプは、それぞれの脳内伝達物質の受容体の数により遺伝的に決まっているので、あとからは変えられないというのです。

こうした理論をもとに気質をテストで測定して、さまざまな企業において特定の気質を持った人材の分布を調査して、人事戦略のアドバイスなどを行なっているのだそうです。例えば、新奇性追求のドーパミンや、損害回避のセロトニンがたくさん出るタイプは、新しいヘンなものに直面してもリスクを顧みず、楽観的に飛びつきやすいため、そうした行動パターンがイノベーションにつながりやすく、新規事業開発に向いている、といった具合です。報酬依存のノルアドレナリンがドバドバと出る人は、起業家などに向いているので、イーロン・マスクなんかは間違いなくこのタイプでしょう。

興味深かったのは、多くの日本企業で測定した結果を総合すると、日本企業には慎重かつ生真面目で完全主義的な気質の人の割合が多かったという点です。言い換えると、ドーパミン受容体の数が少ない人が多いということです。一方、アメリカ人を同じようにテストすると、情熱家や冒険家、理想家的な気質の人の割合が多く、これは、ドーパミンやノルアドレナリン受容体の多い人がたくさんいるということです。つまり、日本人はアメリカ人とは異なり、気質的にイノベーションには向いていないのです。だとすると、アメリカで流行っているものをそのまま日本に持ち込もうとしても、すんなりとはいかないわけで、IIJがインターネットの立ち上げの時期にたくさんの妨害に遭って苦労したのも、こうした気質の違いが一因としてあったのかもしれません。最近、流行りのDXも然り、といったところでしょうか。

昨年、本連載でも紹介した「コッターの変革の8段階」についても、この点に注意する必要があるでしょう。1段階目の「危機感を生み出す」はいいとしても、2段階目の「変革主導チームを築く」は相当な注意が必要だと思います。このチームに、社内少数派の変革に向いた「ヘンな奴」をいかにして起用するか、それと同時に、周りにいる慎重で生真面目な「普通の人たち」による妨害をどう阻止するか――この2点が、日本企業が真の変革を成し遂げるうえで重要な鍵となるのではないかと思います。


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