林氏
デジタルコンストラクションプロジェクトでは多くのパートナー企業に参画してもらっています。その中の1社として、企画構想段階における最適なIT技術選定などのコンサルティングや、プロジェクト推進の課題解決支援などをお願いしているのがIIJです。IIJの担当者には、常々「役割分担やチーム編成が難しい」という人財の悩みを相談していました。
すると2023年春にIIJから、「DX人材アセスメントのツールを作ったので、使ってみませんか」と声をかけてもらいました。
林氏
DX人財の適正評価や育成ポイントが見えるようになると伺い、チーム編成を決める指標になればよいと感じました。Webテストを受検することで、DXへの適性や伸び代などをAIが分析し、レポートを提供してくれるというものでした。WebテストにはITテストとDXテストがありますが、30分もかからずに終わるものです。この回答をAIエンジンに通すと、DXに取り組む役割の中で必要となるマインドやコミュニケーションといった特性を数値化し、マーケティングで使われるイノベーター理論の分類に当てはめてくれます。好奇心を持ち積極的な「イノベーター」「アーリーアダプター」、中立的な「マジョリティー」、保守的な「ラガード」のどこに分類されるかが示されます。さらに育成ポイントについてもレポートで指摘してくれます。
林氏
想像を掻き立てられながらも、AIエンジンが導き出す分析結果に納得できるのか、正直半信半疑でした。それでも、人財の適正配置について課題を感じていましたし、IIJのツールを使うことで、より良い人財配置ができるようになるならばと、アセスメントの実施を決めました。
IIJによれば、テストはオリジナルで作成したもので、特徴ができるだけ明確に出るようにチューニングしたものだと聞きました。AIにより的確に分析でき、一方で受検者の負担にならない設問数に絞り込んだということでしたので、IIJ DX人材アセスメントソリューションのテストの実施自体に大きな負担はないだろうと判断しました。
林氏
建設DX推進部の2つのグループから40人ほどが参加しました。私がグループ長を務める住宅系施工グループは施策を考えて生み出すグループで、施工事業所展開グループはその施策を戦略的に展開したり、システムや運用の課題を解決しながら施策を成長させていくグループです。役割が異なる2つのグループでテストを受けました。2023年6月までにテストを実施し、7月までに結果のレポートを受け取りました。
林氏
私もテストを受けたのですが、この程度の簡単なテストからAIがどう分析するのだろうと興味を持ちました。レポートを受け取ってみると、各個人の適性評価やイノベーター理論の分類で表現されていて、私の感覚にハマる部分がかなりありました。育成ポイントも、例えば「上層部へのレポート力を強化する必要がある」など具体的に指摘されています。これまでも何となく感じていた各人の特性などを、数値化、見える化してもらったと感じました。
レポートには、結果の解説もあります。全体的にテストの点数が高いことや、ITテストの点数が高いことは、必ずしもDXの「考える」部分への適性にはつながらないといったことを教えてもらいました。
林氏
建設DX推進部の多くのメンバーは、建設に関わる技術者として経験値を積み上げてきた人財です。IIJ DX人材アセスメントソリューションの結果から、他業種と比較するとIT面でのスキルに特徴が見えたり、イノベーターやアーリーアダプターが足りないことを相対的に見たりすることができました。メンバー全員がDXに関する知識や意識を上げて、組織力を向上しなければならないことを指摘されたと感じています。
林氏
今回のIIJ DX人材アセスメントソリューションの結果は、現在の位置づけの可視化ということで各人にも伝えました。レーダーチャートによる表示で個人が弱い領域も客観視できます。レポートには、「これからこの分野の知識をつけると、イノベーター理論のこの分類に移動できますよ」といった人財育成の指標としての育成ポイントも盛り込まれています。人事評価につながるものではありませんが、面談をすると皆もおおむね納得してくれて、次の成長のために「この知識レベルを向上させていこう」といった前向きなヒントをもらえたと感じているようです。そして、組織全体がイノベーター理論の「イノベーター」や「アーリーアダプター」に寄るようになると、DXの推進力が上がるだろうという意識付けができるようになりました。
林氏
DXを推進するチームや個人としての強みや弱みが可視化されたと思います。チームづくりなどで次に何か新しい手を打つときに、今回の結果を参考にできるだろうと感じています。今の組織力を見せてもらったという印象です。次回の受検については未定ですが、再度受検することがあったら、それぞれが育った結果がどのようにレポートに表れるのかが楽しみです。
林氏
現在進めている施策は、今よりも良く早く安くを目指した「守りのDX」です。しかし、これからやらなければならないのはIT技術を活用することで不可能を可能にして、業務プロセスや組織を見直してコスト構造を変革する「攻めのDX」だと思います。IIJ DX人材アセスメントソリューションの結果を受けて、「攻めのDX」を提供できるようなチームづくりにチャレンジしていきたいと考えています。IIJ DX人材アセスメントソリューションの結果、私たちには技術的なリテラシーが不足していることが分かりました。IIJには、高度な技術やとりわけ映像関連の知見を持った専門家として判断軸を提供してもらって、一緒にこれから先のDX推進の方向性の整理をしてもらいたいです。
※ 本記事は2023年8月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
建設DXを推進する上で組織づくりに課題
大和ハウスで取り組む「建設DX」はどのようなものでしょうか。
大和ハウス 林健人氏
大和ハウスでは、デジタル技術を活用して、各業務の省力化や自動化につなげることで、労働環境の改革を図ることを目指した「建設DX」を推進しています。その具体的な取り組みが「デジタルコンストラクションプロジェクト」で、2019年7月にスタートしました。ものづくりを起点としてDXを推し進め、建設業界に広がる活動に発展させていくことを目指しています。取り組みの1つが建設現場の見える化の推進です。定点カメラや業務アプリ「物件ポータルサイト」の利用を通じて、映像を含むデジタル情報が共有・蓄積されています。
デジタルコンストラクションプロジェクトの現在の状況を教えてください。
林氏
施工現場の可視化、低層物件向けの物件ポータルサイト開発及び利用促進など、デジタルツールを施工現場で活用してもらっています。デジタルを活用する価値をうまく伝えられないこともあり、施工現場にフィットさせるハードルは、常々高いと感じています。
建設DXを推進する上で、どのような点を課題に感じましたか。
林氏
DX推進のためには、将来像を「考える」、仕組みを「作る」、現場に「広げる」といったステップが必要です。それぞれのステップに適切な人財をこれまでの経歴やDX推進に関与した実績から判断してチーム編成をしてきました。ただ、個人の特性や向き不向きをこれまでの経験から培った感覚値で判断していたことから、感覚に依らずに人財ごとの特徴を把握し、DX推進に適したチームづくりや組織づくりをすることが必要だと感じていました。
ステップごとの適性には、どのような特徴があるのでしょうか。
林氏
例えば、新しい施策を「考える」必要がある場合、実現したい将来像や実現するためのストーリーを描ける人、新たな経験や知識を基に実現したい将来像を柔軟に変化させ、ストーリーを膨らませられる人が適任です。一方で、膨らんだストーリーを実現可能なものに整理して、戦略的に実現可能なストーリーに落とし込める人も重要になります。企画をして「考える」には前者が、作り上げたものを「広げる」には後者が適しているだろうと考えます。少ない人数のチームでDX推進の成果を上げるためには、人財をバランス良く役割分担する必要があります。