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コラム|Column

本コラムもおかげさまで第6回、最終回を迎えました。これまでお読みいただきありがとうございます。筆者は2018年3月の農林水産省主催の農林水産・食品分野における研究成果の知的財産マネジメントと人材育成フォーラムにて、パネラーとして参加してまいりました。そこで、最終回はASEANの農業事情についてお話ししてみたいと思います。
農業は人間に無くてはならない食品に直結する重要な産業ですから、ASEAN各国も当然、力を入れています。
最近、日本でもIoTを用いて生産性を向上させる、高齢化が進む農業従事者を支援するツール、これまでのJAと連携した農業事情から、企業体を組んだり直販を進める農家等、形態は大きく変わりつつあります。またこの日本の技術を海外に展開できないかと、農業機器メーカーもASEANビジネスを開始しつつあります。

日本の農業の競争力

筆者はタイやミャンマーで月の3分の1程度を過ごしていますが、最近、両国でも日本産業のプロモーション・イベントが多く開催されており、中でも日本の農・水産物・食品輸出促進の展示会などのイベントが頻繁に開催され、アピールする光景をよく見かけます。特にタイでは、日本製品を輸入販売している場面によく遭遇しますし、日本食レストランでは日本から輸入した食材が献立のメインとして並んでいます。
それでは日本の農業製品、食品は世界で競争力があるのでしょうか。 現在、日本の農林水産物・食品の輸出額は年々上昇し、2019年には1兆円に達すると言われています。この数字だけ見ると絶好調のように思えます。しかし、2015年の数字ではありますが、農林水産物・食品の輸出額1位のアメリカは1449億ドル、そして2位のオランダは、886億ドルです。1ドル110円で換算すると、日本は67.7億ドル程度であり、1桁異なります。よって数値だけ見ると、日本の国際競争力はまだまだといえます。

それでは日本の農林水産業の国際競争力を高めるにはどうしたら良いのでしょうか。
そのアプローチとしては3つ考えられます。一つは、日本の農林水産物そのものの輸出を促進すること、二つ目は加工製品の輸出促進、もう一つは技術を輸出することです。
日本は以前、エレクトロニクス製品の国際競争力が非常に高かったといわれています。例えば、オーディオ製品は各国に輸出され、ソニー・ブランドは世界を席巻しました。しかし、日本の労働賃金が高騰、製造工場を海外に移転し、かつデジタル化の加速とともに、世界の各社が開発設計・製造できるようになると、日本製品の国際競争力は急速に低下しました。また、生産技術力、製造技術力も製造工場が日本から新興国に移転したことを背景に、低下し続けています。数年前にタイの製造工場が洪水に見舞われた際に、一時的に日本に工場を戻そうと各社が取り組みましたが、各社とも日本工場の生産技術力が低下しており、結果的にタイ人の生産技術者に来日してもらわないといけないという場面が多数ありました。
今後、FTA:自由貿易協定(Free Trade Agreement)やEPA:経済連携協定(Economic Partnership Agreement)の締結が加速すれば、ますます苦しい立場に追い込まれるのはいうまでもありません。よって、技術力やサービス力で価値向上を図っていくことが求められるわけです。
これから農業技術を輸出していくのであれば、技術力やサービス力で価値向上を行っていく必要があるのはいうまでもありません。栽培方法・技術でビジネスをするのはもちろん、栽培データの分析、資材の輸出・タイアップといったサービスと知財による合わせ技が必要と思われます。現地人材育成の教育ビジネスやテキストの知財で儲けるといったことも良いかもしれません。

ASEANの農業の現状

それでは、ASEANの農業の現状について考えてみましょう。
ASEANは以前のコラムでも述べたように、先進国、中進国、発展途上国つまり、GDPでセグメントするとわかりやすいです。

  • シンガポール、マレーシア、ブルネイといった国々が先進国
  • 中進国はタイ、インドネシア、最近はベトナムもこちらに入れても良いかもしれません
  • 発展途上国はミャンマー、ラオス、カンボジア、フィリピン

といっていいかと思います。

  • 先進国はマレーシアのゴムやココナッツ/パームやし以外は、商業・鉱工業が主要産業
  • 中進国はタイ、インドネシアの自動車製造業を除けば、ほぼ農業が主要産業

です。食品業は全ての国で活発に行われています。
各国共通なのは、温暖な気候を利用した米とココナッツ/パームやしが栽培され、米は二毛作または三毛作、ココナッツ/パームやしはプランテーション・スタイルです。

ASEANの農業事情・機械化は全体的に遅れている

ベトナムの農業風景
ハノイ・ノイバイ空港横であっても、
人海戦術で米を育てている
→近い内に収入格差が激しくなり、
農業の担い手がいなくなるので
機械化が早急に求められている

各国で共通なことは、農協のような団体は少なく、また、農民は非常に貧しいことです。機械化もあまり進んでいないのが現状です。ASEAN全般でまだ、植民地の名残を引きずっており、未だに所得格差が大きいのです。今後、自由主義化が進めば農民の生活も良くなる方向へ向かうはずです。しかし、まだまだ時間がかかると思います。

日本貿易振興機構アジア経済研究所資料:コメの流通構造と輸出制度

日本貿易振興機構(ジェトロ)のアジア経済研究所発行の情勢分析レポートのベトナムのコメ生産、輸出に関する現状を見てみましょう。

  • 農家で生産するコメのうち、販売に回るのは全国平均で3分の1程度
  • 多くの農家は、自家消費用(食事、家畜の餌等)で消費し、余剰米が籾の形で販売されている

主な問題点は、

  • 生産から消費(輸出)まで多くの流通経路が存在し、その度に流通マージンが発生している
  • 流通過程で13%ものコメが失われている
  • 特に精米加工が半加工(籾・玄米)と仕上げ加工(玄米・白米)に分断され、結果として、精米技術への投資を妨げている

また、

  • ベトナムの輸出米は、タイの輸出米に比べて、含水量が多く破砕米の混入率が高いため、品質は低いと評価され、輸出価格もタイ米に比べて20~30%安価であるため、輸出しても利益が少ないとのことです

ASEANの農業技術・サービスの輸出に向けて

先進国、中進国では、流通業、大型レストランチェーンを核に、植物工場の建設が、既にスタートしています。これは国民の生活レベルが向上し、外食は屋台からレストランへ、流通業はコンビニやスーパーマーケットといったモダントレードにシフトしつつあり、安全・安心な食物にニーズがシフトしていること、流通の効率化、運びやすい食材ニーズに理由があるといえます。タイではCPグループ、グルメマーケット(高級スーパー)、大戸屋、セブンイレブンといったモダントレードが幅を利かせるようになってきました。また、ロジスティクスが良くなってきた中進国でも大きさの揃った野菜が求められ、ロシア向けのザボンのむき身のパッケージング販売といった付加価値をつけた商品の輸出もスタートしています。後進国でも欧米レベルの安全衛生を目指した食品工場の建設も一部で開始され、筆者もミャンマーでローカル食品会社の新工場立ち上げを支援しています。上下水道の環境整備も始まり、有機農業も一部スタートしているため、今後は農業問題と環境問題、水問題はセットで考える必要がありますが、地方に行けば行くほど、農薬、パームやし滓(かす)の処分方法、灌漑用水の整備が遅れているのも事実です。
以下は、ミャンマーの農業風景です。

野生に近い茶畑
→日本の自動刈り取り機は使えない
→日本の茶畑のように整列させる技術が欲しい

中国製のトラクターは一部で使われている
→ここにセンサーIoTが簡単につけられると良い

輸送手段は脆弱
→共同配送ニーズもあるかも

雨期は水没する土地、家屋有り
→耕作地は井戸水を使っている
→水の効果的利用もソリューションとして考えたい

  • 野生に近い茶畑は、日本の自動刈り取り機は使えないので、日本の茶畑のように整列させる技術が欲しい
  • 中国製のトラクターが各地で使われている。しかし、新しいトラクターを導入するのではなく、このトラクターにセンサーIoTが簡単につけることはできないか
  • 輸送手段は脆弱なので、共同配送ニーズもあるかも
  • 雨期は水没する土地、家屋が多い。耕作地は井戸水を使っているので、水の効果的利用もソリューションとして考えたい

といったことが垣間見られます。
ASEANは先進国、中進国、発展途上国とセグメントし、それぞれのビジネスプランを考えることは重要なのは前述しました。それぞれの潜在ニーズを探るためには、時間をかけて現場を観察しないと、ビジネスチャンスはなかなか見つからないと思われます。そのためにはリサーチャーは現地に住むぐらいの意気込みで考えることが必要ですが、マーケッターやリサーチャーがASEANに赴任するという話はあまり聞かないのも事実です。
また、現地にあった価格設定も重要ですが、単品・製品ビジネスだけでなく、ビジネスプロセス全体を見据えた中長期的ビジネスプラン/モデル/ソリューションとROI(Return On Investment)の検討+プロトタイピングによる先行提案が重要、つまり、

  • ビジネスモデル/ソリューション・食住農のセットでビジネスを考えて行きたい
  • ローカルで戦える、提案できる日本人の育成とローカルメンバーの協業、技術トランスファーが基本

と思われます。そのための日本人のグローバル人材育成は必須です。
今後、日本が親日の方々が多いASEANでビジネスを成功させるためには、製品+サービス、技術のセットでのビジネスプランを構築すること、そのためにも三現主義でビジネスに取り組んでいきたいものです。

※本文中の会社名、団体名、肩書きは連載当時のものです。

野元 伸一郎

元 株式会社 日本能率協会コンサルティング(JMAC)シニア・コンサルタント
グローバル開発革新センター センター長

現 みらい株式会社 統括ディレクター

北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科 博士後期課程修了。専門は開発設計マネジメント革新/イノベーション、技術ロードマップ、開発プロセス革新、プロジェクト・マネジメントでコンサルティング、研修等を推進。
2012年から2016年3月までASEANビジネスを拡大するためJMA HoldingsにてAEC(ASEAN経済共同体)発足以降を見据えたビジネス企画推進を行う。
現在はJMACでASEANの日系企業だけでなく、ローカルの企業・団体の研修やコンサルティング業務に携わるほか、様々な分野でのビジネス支援、研究、事業化に従事している。