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無限の可能性。石垣市のGIGAスクール構想

児童生徒向けの1人1台端末*1と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備する。今、全国の小・中学校では急ピッチでその環境構築が進められています。本記事では、文部科学省が打ち出した「GIGAスクール構想」の実現に向け、沖縄県石垣市の教育委員会と真喜良(まきら)小学校の取り組みや子供たちの変化について伺いました。

快適なネット環境の整備

石垣市の小中学校では、2014年に整備されていたインターネット通信環境を2021年末に増強されたと伺いましたが、利便性は向上しましたか?

左:石垣市教育委員会 主任 比嘉氏、右:石垣市教育委員会 ICT支援員リーダー 西垣氏

比嘉氏:現在はすべての市立小・中学校で児童生徒が1人1台の端末を使って快適にネット利用ができています。土台となるネットワーク回線の構成をしっかり作り込んだおかげで、石垣市は児童生徒のインターネット活用率が、県内でも高いレベルとなりました。
また以前は、学校でネットへの接続にトラブルが生じるとわたしたちが学内環境へVPN接続をして、障害機器を特定し、原因究明まで行っていたため、日中の半分以上をその対応に追われる日もありました。しかし、今はネットワーク状況や機器の状態が全て一覧で確認でき、トラブル対応への負担が大幅に軽減されています。

西垣氏:以前はネットで調べものをするには、パソコン室の利用可能日に専用端末を予約して使っていましたが、回線が混み合っている日は、通信中のアイコンがクルクル回り続けて作業が進まない、というレベルでした。
今は知りたいことを知りたいタイミングで調べられる。これを小学校1年生からできることは、学びの場において大変な進歩だと思います。

「ネット環境の整備」では、どのような点を重視しているのですか?

IIJ 沖縄支店 技術課 大濱 勝軌

大濱:

品質・安定性の確保
各学校へ専用線*2を引く方法が品質的には一番なのですが、費用が高い。さらに石垣市は、山あいの学校など地形的に新規に回線工事を行うことが困難な地域もありました。そこで、既存のNTT西日本フレッツ回線を利用し、比較的安定性が確保されるIPoE方式*3というものを採用しています。
インターネット上の全ての端末やWEBサイトが利用する通信方式は、これまで使われていた方式(IPv4)から、新しい方式(IPv6)へ移行が進んでいるのですが、世の中にはまだIPv4にしか対応できていないWEBサイトが数多く残っています。実はIPoE方式では、IPv6未対応のWEBサイトへはアクセスができないのですが、IIJネットワーク内の通信設備が各学校からのアクセスを中継することで、それらへもアクセスできるようにしているのです。
安全性の確保
実はIIJのネットワークを介す利点は他にもあります。IIJのネットワークでは、コンピュータウィルスなどのインターネット上の脅威から端末等を守る仕組みをあわせて提供しているため、インターネットの手前で子どもたちの端末を防護することができています。
さらにIIJのネットワークとインターネットの間で、WEBフィルタリング設定が可能となっていて、教育委員会側で小中学校の端末を一括で管理し、有害サイト系のカテゴリや不要なアプリケーションから守っています。

比嘉氏:運用方針を考える上で私は、必ず機器が壊れることを前提にしています。むしろ壊れた際の復旧時間をいかに短縮できるかに焦点を当てています。
過去には、接続機器を収容していたBOXにヤモリが侵入し機械がショートしてしまい、2~3日ネット利用ができなかったということもあったため、今回の刷新では、獣害、潮風による塩害、台風や落雷など石垣市ならではの課題についても対策を話し合いました。

石垣市立 真喜良小学校 前三盛(まえみつもり)校長

前三盛校長:地域特有といえば、石垣市ではまだ自宅にネット回線が引かれていない子もいる。そういう子たちが家庭でみんなと同じようにタブレットを使って宿題ができるよう、オフラインでも利用が可能な設定を組むなど、様々な工夫を取り入れました。

教育現場へICTを浸透させるには

設備面の環境は用意できた。次は人の配備ですね。先生方の反応はいかがでしたか。

前三盛校長:突然学用品の1つとしてタブレットを渡されたものの、やはり「何をしてよいのかわからない」というのが正直なところだったと思います。先生方は板書による授業の進め方でずっとやって来られたため、意識改革も必要でした。まず「子どもたちの未来にとって、タブレットやパソコンは必需品なんだ」と。 他県や世界との情報格差が生まれがちな離島の子供においては、タブレットによって、彼らと同じスタート地点に立てるのですから、もうこれ以上のメリットはない。昨今言われている「主体的・対話的で深い学び」と「個別最適な学び」や、多様性にも対応ができる。そんな様々なメリットを伝えて理解してもらってきました。教える側がやる気にならなければ活用は広がりませんからね。今までの授業で教員が身につけたやり方に加えて、新たに取り入れてみて頂く。そこで良さに気づいた先生たちが徐々に増えていっているかなと感じています。

子どもたちの反応はいかがでしたか。

西垣氏:デジタルネイティブなんて言葉があるくらいで、実際怖がっているのは我々大人側だけなんですよね。先生方もはじめは「使い方がわからない」、「どう授業に取り入れてよいかわからない」と利用へのハードルが高かったのですが、「とりあえずやってみましょう!」と勧めてみると、子供たちの方がどんどん「ここを押したらどうなるかな」と進んでいく。わからない子には、わかる子がサポートしてあげている。
タブレットを使って、これまでにはなかった活躍の場ができる子もいる。ICTの利用は、いろんな子に「光があたる場」が増えてきているように感じています。

比嘉氏:西垣さんはじめICT支援員が担う役割は本当に大きいです。
物事を始める時、科学的な「大丈夫」を示してあげると同時に、心理的な「大丈夫」も必要と考えています。私はこれを“安心安全”と呼んでいます。 GIGAスクールにおける先生や子どもたちにとっての「安全」は利用したいときにはいつでも利用できる。「ちゃんと繋がるかなぁ」なんて心配をしなくてよいこと。「安心」はICT支援員が常に寄り添い、機器の操作で何か問題があれば、すぐに対処してくれる環境のこと。この両輪をずっと大事にしてきたところです。
そして今や、先生も子どもたちもどんどん自信をつけて活用が進み、ICTを前提とした授業運営が多く見られる様になりました。

休み時間や家庭でもタブレットの利用を許可されていますが、うまくいっていますか?

西垣氏:休み時間のタブレット利用の可否については、事前に学級で話し合いをしている場面も多く見られました。読書や運動、会話の量が減るのではという意見も見られました。しかし「使ってみたい」という意見の方が多かったため、試しに自由に使ってみてもらったんです。
すると日が経つにつれ元の姿に戻っていきました。遊ぶ子は遊ぶ、本を読む子は読む。タブレットを使う子は使う。どこかに偏るのではなく、選択肢の1つとして位置づけられたようです。

比嘉氏:導入当初はテレビなどの影響もあり、チャット内でのいじめを懸念する声も学校から寄せられ利用を制限していた時期もありました。しかしネットの活用が進むにつれ、子どもたちからも保護者からも、相談事や事務連絡など様々な用途でチャットを求める声が高まっていきました。
そこで、利用制限を緩和すると同時に、児童生徒が使っている端末は私物ではなく公のもの(=ログ管理などもされている)という意識付けを行いました。
今後もフィルタリングや各種制限については一度決定したら終わりではなく、試行錯誤しながら変更していくことになると思いますが、大切なのはどのような方針で運営しているのかを、しっかりと情報発信していくことだと思っています。

前三盛校長:ネットは情報をコンパクトに仕入れることに長けたものなので、活字離れが多少起こるのは否めないと思います。ただ、膨大な情報を摂取してそれを活用する、という意味では世界は広がっていると考えています。昔は膨大な情報が手に入ってもそれを整理分析したり、まとめたりするのも一苦労でしたよね。今は情報の先へ先へと進んでいきながら、ICTツールでまとめていくと、自分の想像をも超える結果が待っていたりする。そういう感覚に出会えた子はどんどんのめり込むんじゃないかなと思いますね。

実際の活用方法

実際に小学校ではインターネットをどのように活用されているのですか?

前三盛校長:デジタル教科書が導入されている教科、例えば英語は発音を何度も聞けたり、単語の意味を調べることができたり、算数では図形を立体的に確認できたり、社会でも映像コンテンツを見たりと大きく様変わりしていますね。

西垣氏:まだ紙の教科書を使っている教科でも、例えば、タブレットを使って調べ、その情報をグループワークでパワーポイントにまとめてクラウドにアップし、スクリーンに映して発表するなど、ICTの活用はどんどん増えていっています。また例えば「逆上がりをするコツ」を事前に検索して、体育の授業で実践してみる。さらにその様子を録画したものを見ながら振り返り学んでいく。交流学習では、ネットで繋いで海外の子どもたちと生の会話をするなど、プログラミングの授業だけがICT教育ではないと実感しています。

今後のICT教育

今後の課題はありますか。

前三盛校長:現場はどんどんネットの活用を促進していくと思います。文部科学省も来年度からは、全児童生徒にデジタル教科書の配布を進めていきますし、ますますネット回線の負荷が増えると思いますので、安定して使える環境は必要不可欠だと考えています。

大濱:2025年にはCBT*4も本格化し、デジタル教科書を使う教科もどんどん増え、小中学校から国の学術情報ネットワークであるSINET*5へも接続できるようになるという話もありますよね。石垣市のみならず、日本全国の小中学校で今後数年のうちに利用する通信ネットワークの容量は桁違いに増えていくでしょう。
今回、実際にインターネットを活用している子ども達の姿を見学させていただけて、誇らしい気持ちになりましたし、素直に感動しました。今後もあらゆる環境や利用の変化にも対応し、安定したネットワークをお届けしたいなと思いました。

子どもたちにはどうインターネットを活用していってほしいと思いますか。

西垣氏:ネットには、離島からなかなか見聞きできない場所や物事を見られる動画など学びのコンテンツも多い 。その多くの情報の中から、子どもたちが興味を抱く「何か」を見つけるきっかけになれば嬉しいです。先生方は「使わせてあげなきゃいけない」「授業でやらなきゃいけない」ではなく「便利にして行くんだ!」「ICT活用が上手な子供たちにはリトルティーチャーとして参加してもらって、一緒に授業を運営していこう!」という気持ちで接していただければ、ICT教育は進んでいくのかなと感じています。

比嘉氏:私は「思う存分やりきる」ことを体験してほしいと思っています。
時間の限られた授業での取組みは「もう少し時間が欲しかった」と感じることがあると思います。インターネットがあれば、家でも 公園など青空の下でも続きができます。さらにインターネットには、様々な先人の知恵や経験の情報があります。自分自身の学びをより深めるため、学びのパートナーとしてどんどん活用してほしいです。

(*1) 端末:パソコンやタブレットなど

(*2) 専用線:特定の企業や組織に対して専用の通信回線を用意して、安全性の高い通信を行うための仕組み

(*3) IPoE方式(アイピーオーイー方式):NTTフレッツ網からインターネットへ接続するための新しい接続方式のひとつ。通信遅延などが発生しにくく、大容量の通信が可能で、回線混雑に強いとされている。

(*4) CBT(Computer Based Testing): コンピュータを使った試験方式。

(*5) SINET:国立情報学研究所が提供・運用を行う国内最大の学術情報ネットワーク。従来は大学や研究所での利用に限定されていたが、現時点では一部の学校や、教育委員会に開放されている。令和6年度中に、全国の小学校・中学校へも開放される予定。

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