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社長対談 人となり 日本生命保険相互会社 代表取締役会長 筒井 義信 氏

IIJ.news vol.167 December 2021

各界を代表するリーダーにご登場いただき、その豊かな知見をうかがう特別対談“人となり”。
第22回のゲストには、日本生命保険相互会社代表取締役会長の筒井義信氏をお招きしました。

日本生命保険相互会社

代表取締役会長

筒井 義信氏

1954年、神戸市生まれ。京都大学経済学部卒業。77年、日本生命保険相互会社に入社。企業保険業務課、東京調査第一課など企画系のキャリアを歩む。さらに、特別法人営業第二部、秘書部秘書役、市場開発部次長兼広宣課長など本社のさまざまな部署で経験を積む。99年、長岡支社長に就任。その後、企画広報部長、取締役総合企画部長、取締役専務執行役員などを歴任。2011年、代表取締役社長に就任。18年、代表取締役会長に就任し、現在に至る。

株式会社インターネットイニシアティブ

代表取締役社長

勝 栄二郎

5人兄弟の末っ子

勝:
ご多忙のところ、本日はありがとうございます。さっそく始めさせていただきます。
ご兄弟が多いとうかがっておりますが、どのようなご家庭で幼年期を過ごされましたか?
筒井:
出身は神戸で、男ばかりの5人兄弟でした。昔は子沢山の家が多かったですが、それでも5人兄弟は珍しかったですね。
勝:
男ばかり5人ですか!私も3人兄弟です。
筒井:
勝社長は何番目ですか?
勝:
真ん中です。
筒井:
私は末っ子です。
勝:
お母さまは子育てなど大変だったのでは?
筒井:
基本的には自由放任で、細かいことを言われた記憶はありません。末っ子でしたが、甘やかされるといったことはなく、どちらかというと(兄たちに)抑えつけられていました。
勝:
そうでしたか。
筒井:
ですから、兄弟のなかでの自分の居場所を常に考えていました。私は〝ポーカーフェイス〞を自認しているのですが(笑)、子どもの頃から「取っつきにくい」と言われていました。
両親の子どもに対する接し方が、その後の私にも濃厚に受け継がれたのでしょう。働くようになった時、「部下に任せる」、どんな内容であれ「人の話を最後までよく聞く」という姿勢が身についたのは、家庭環境が影響しているように思います。
勝:
自主性を重んじるということですか?
筒井:
そうですね。ただ、「任せること」と「無責任」とは違うので、「任せたことに対する責任」は、上司が負わないといけないですね。
勝:
なるほど。
筒井:
岸田(文雄)総理が「聞くことの重要性」を説いていますが、たしかに「人の話を聞く」ことほどむずかしいものはなく、自分でもかなり意識してやっています。
勝:
自分を抑えることも必要ですか?
筒井:
おっしゃる通りです。言いたいことが100あっても全て正しいとは考えず、口に出すのは、せいぜい7割程度でしょうか。
勝:
学生時代の思い出や印象的な出来事などはありますか?
筒井:
大学入試で一浪したことです。当時は一期校・二期校という区分けがありましたよね。(現役の時)二期校の大学には合格したのですが、高校の3年間、スポーツに入れ込んだこともあって、勉強に関しては「不完全燃焼」だったので……。
勝:
スポーツは何をなさっていたのですか?
筒井:
バスケットボールです。それで、浪人してしっかり勉強し直すことにしたのです。両親からは叱られましたけどね(笑)。
浪人の1年は「浮き草」のような日々でしたが、あとから振り返ると、そういう時期も必要だったのかなと感じます。
勝:
バスケットボールはチームスポーツですが、個人競技より、チームスポーツのほうがお好きですか?
筒井:
そうですね。ボールを扱う団体競技が得意でした。中高はバスケでしたが、小学校では野球をやっていましたので、全て団体競技ですね。個人で競うより、集団のなかで自分を活かしていく、あるいは、組織のなかで自分のポジションを見出していく――子どもながらに、そんなところに魅力を感じていたのかもしれませんね。
勝:
今でもスポーツはご覧になりますか?
筒井:
はい、スポーツは全般的に好きです。
勝:
日本生命さんは、スポーツ振興に注力されていますからね。
筒井:
特に野球と卓球に力を入れています。

吉本新喜劇から学ぶ話術

勝:
会長職を全うされる日々はご苦労も多いと思いますが、ストレス解消法やご趣味などはありますか?
筒井:
正直なところ、趣味に関する質問がいちばん困ります(笑)。いわゆる「ワーカホリック」なので、趣味といえるような趣味はなく、文字通り「仕事が趣味」という人生をおくってきました。ゴルフはやりますが、私の場合、ラウンドより、専ら「19番ホール」からが本番です(笑)。
勝:
(笑)
筒井:
休みの日には、歴史・時代小説を読んだり、家内の買い物につき合ったりしています。ゴミ出しもするんですよ。こう見えて、家内想いなのです(笑)。
勝:
良いご家庭ですね。
筒井:
あと、関西出身なので吉本新喜劇が大好きでして、週に一度の深夜放送は必ず録画して、週末に楽しんでいます。大阪の笑いは東京では受けなかったりしますが、彼らが持っている「ボケとツッコミ」の呼吸は、人前で喋る時に非常に参考になります。
勝:
それはどういった点ですか?
筒井:
「間」の取り方です。同じことを話しても、間の取り方で伝わる印象がまったく違ってくるのです。
勝:
よくわかります。小泉(純一郎)元総理のお話を聞いていて感じたのですが、小泉さんは歌舞伎がたいへんお好きだとうかがっておりまして、まさに「間」の取り方が歌舞伎そのものなのです。
筒井:
それは興味深いですね。
勝:
ちなみに、私も「趣味は何ですか?」と尋ねられたら、「仕事です」と答えています。
筒井:
そうですか、同じですね!
勝:
いえいえ、私の場合、「好きな時にしか仕事をしない」というだけのことなのです。
筒井:
(笑)

「運命の出会い」を経て日本生命へ

勝:
日本生命への入社を決めた理由は何ですか?
筒井:
当初、日生についてそれほど多くのことを知っていたわけではないですし、そもそも第一志望でもなかったのです。
勝:
そうだったのですか。
筒井:
ある日、大阪で就職活動を終えて、神戸の実家に帰宅する際、阪急電車の三宮でたまたま途中下車しましてね。すると駅前に日本生命神戸支社があり、「会社説明会」と掲示が出ていた。それで「ちょっと話を聞いてみようかな」というくらいの気分で入ってみたのです。
勝:
どうなりましたか?
筒井:
面接を受けたらとんとん拍子で進み、最終的に入社することになるのですが、その理由をひと言でいえば、「面接官とフィーリングが合った」、そして「こういう人たちとなら、一生、働いてもいいかな」と思ったためです。
勝:
まさに「運命の出会い」ですね。
日生さんの社風はどんな感じなのですか?
筒井:
ほかの会社を知らないので私の実感になりますが、「自由闊達」といいますか、仕事上でも、飲み会などの場でも、役職や年齢に関係なく「モノを言える」雰囲気は、昔から変わらないと思います。
勝:
筒井会長と相性が良かったのですね。
筒井:
まあ、私のような取っつきにくい人間を受け容れてくれましたからね。
勝:
とても良い会社ですね(笑)。
筒井:
ありがとうございます。
もう一つ、「対話」を大事にしている点も日生の社風だと思います。そのための仕組みづくりにも熱心で、職場での「上下」、「横方向」、「現場との対話」―― そうした種々の対話の実現には、少し大げさに言うと〝神経質〞なくらい気をつかっています。
勝:
コロナ禍以降、対話の機会が減っているのではないですか?
筒井:
おっしゃる通りでして、通信手段を介したデジタルコミュニケーションが増えて、リアルな対話が減っています。デジタルをフルに活用したとしても、コミュニケーションは総体的に不足していると感じています。これは、我々のような業種にとって死活問題でして……。
勝:
お客さまとの対話は、リモートだと限界がありますね。
筒井:
はい。特に新しいお客さまにリアルでお目にかかることは、たいへんむずかしくなっています。仮にデジタルベースでお話が進んだとしても、どこかのタイミングでリアルな対話に切り換えなければならず、目下、デジタルとリアルのコミュニケーションのあり方・融合の仕方について懸命に模索しています。

「飲みュニケーション」の効用

勝:
生命保険の仕事には、時にお客さまの人生に踏み込むことも必要になると思いますが、そのための教育は社内で施されているのですか?
筒井:
そこはまさに生命保険業の本質ですが、例えば、教科書や研修を通してその内容を浸透させていくだけでは限界があると思います。もちろん明文化された素材から学ぶことも多いですが、まずは現場に入って、先輩や同僚から指導してもらい、実際にお客さまと接するなかで学んでいくのが原則だと考えています。
勝:
筒井会長はこれまでに、企画、渉外、広報宣伝、秘書、さらには支社長など、幅広いキャリアを積まれてきましたが、新しい環境に順応するコツなどはありますか?
筒井:
ざっと12、13の職場を経験してきましたが、新しい職場に入るとまず、そこで働いている上司や同僚と〝馴染み〞をつくるよう心がけてきました。要は、業務の中身より、人間関係ですね。そこを最初に地ならししておくと、仕事のほうは自ずとついてくるのではないでしょうか。
勝:
それは「人を活かす」ということですか?
筒井:
もちろんそれもありますし、反対に「活かしてもらう」面もありますね。相互効果です。
特に「飲みュニケーション」は、絶対に断らなかったです。根っから飲むことが好きだというのもありますが(笑)、資料をつくっている最中、字を書いている途中でも、声がかかれば、すぐにいく!
「飲みュニケーション」から得た経験は、非常に大きかったと感じています。飲み会の大半はたわいもない雑談ですが、それが後々いろんな場面で活かされたという経験を何度もしています。
勝:
皆で雰囲気を共有するということですか?
筒井:
そうですね。まさにこの記事のタイトルである「人となり」を互いに理解し合う―― これが「飲みュニケーション」の最大の効用ではないでしょうか。
勝:
ちょっと立ち入った質問になりますが、「この人は苦手だな」と思うような人がいたら、どうされますか?
筒井:
そこはポーカーフェイスのありがたいところでして(笑)、「嫌だな」と感じてもそれが表情に出ないのです。ある種の「平衡感覚」というのでしょうか、これは〝強み〞だな、と30代頃から意識するようになりました。

「不払い問題」を機に

勝:
これまでのキャリアのなかで特に印象に残っていることなどありますか?
筒井:
リーマンショックや東日本大震災など社会を揺るがした事象もありましたが、生命保険業に関わることとして、保険金・給付金の「不払い問題」―― 我々からすると「支払い問題」―― はたいへん大きな出来事でした。
勝:
はい、ありましたね。
筒井:
我々の事務手続きのミスや、(給付金を請求できるケースなのにお客さまが請求していなかったり、そもそもご存じなかったことに対して)こちらからもっと積極的に調査・案内すべきであるという「請求案内活動」の不足などが要因でした。
そして、延べ8000人を動員して診断書などを徹底的に点検したところ、42万件超、金額にすると約134億円の不払いがあったことがわかりました。
勝:
それは大変な作業でしたね。当時、筒井会長はどのような役職だったのですか?
筒井:
総合企画部長でした。
あの一件を通して、我々の業務が新規にご契約していただくことに傾注していて、支払いなどを含むアフターケアが後回しになっていたことや、それらがシステム化されていなかったことが問題視されました。さらには、経営のガバナンス体制にも指摘がおよび、改めて社業全体の見直しに取り組みました。個人的にも、これがいちばん記憶に残っています。

仕事に「魂が入る」

勝:
経営者、あるいはリーダーにとって、どのような要素がいちばん重要だとお考えですか?
筒井:
自分が完璧とはいきませんが、端的にいうと「人徳」だと思います。経験・知識ももちろん大切ですが、そういった直接的なことではなく、一人の人間が醸し出す人望や見識のもとになる「人徳」がリーダーには不可欠だと考えています。
勝:
日生さんには7万人の社員がいらっしゃいますが、筒井会長はご自身の考えをどのように伝えているのですか?
筒井:
不特定多数の社員を相手にした場では、なかなか伝わりにくいと考えたほうがいいかもしれませんね。しかし、こちらがそう思っていると熱意も失われてしまいます。そこで、私がいつも念頭に置いているのは「リーダーには〝言葉〞しかない」ということです。
話をする時、まず意識するのが「キーワード」を織り交ぜることです。キーワードなら、ロジックに頼らなくても、心に届きますからね。もう一つは、先ほど申し上げた、話す際の「間」の取り方です。単調な話し方ではなく、「間」を十分にあけながら、抑揚をつけたり、スピードを変えたりすることで、伝わり方もかなり変わってきます。
勝:
「人徳」の中身について、少し具体的に教えていただけますか?
筒井:
肝心なのは「ブレない姿勢」ではないでしょうか。信念を持つことはもちろん大事ですが、変化に対応できないのでは困ります。つまり「ブレない」といっても同じことを繰り返すのではなく、その時・その場の経営環境を織り込みながらも、「この人の言うことは首尾一貫しているな」と感じさせるスタンスです。
勝:
筒井会長の経営哲学を表した言葉などはありますか?
筒井:
インタビューなどで「座右の銘」を聞かれた時は、いつも「時勢」という言葉を挙げています。世の中の「流れ」を意識する、それはつまり「流れに乗る」、「流れに抗する」、(岸に立って)「流れを見る」など、さまざまな「流れ」に対する接し方があり、その都度、身の置き場を考えながら意思決定することの重要性に対する、私なりの深い想いを「時勢」という言葉に込めています。
勝:
素晴らしい言葉ですね。
先ほど印象に残った仕事についてうかがいましたが、今度は「ターニングポイント」になった出来事をご紹介いただけますか?
筒井:
平成11年に新潟県の長岡支社長として、初めて営業の現場を経験した時ですね。それまでは本部に長くいましたので、営業のことはほとんど知らない状態での赴任でした。 長岡での2年間は、営業職員の姿を現場で見て、それまで「お客さま本位」といっていた自分の言葉がいかに表面的で、中身がともなっていなかったのかを痛感しました。そして私自ら、お客さまのもとに足を運んでお付き合いするなかで、ご成約いただき、そのあとも長くご支援させていただくことが、生命保険業の基軸なのだと実感しました。これは本部にいたままでは、得られなかったことです。
長岡のあと、再び本部に戻ったのですが、そこでさまざまな意思決定を下す時、現場での体験が思い浮かぶのです。現場の視点を常に意識するようになりました。
勝:
現場で働く職員と、その先にいるお客さまの存在、その両方を考えるということですか?
筒井:
その通りです。そこは一線でつながっているのですが、まずお客さまがいらっしゃって、その手前に営業職員がいる。当然、現場の職員を抜きにお客さまのことを考えても実がこもりませんので、職員の「雇用」を守ることは最重要課題になってきます。
勝:
長岡での経験を機に、会社や仕事に対する考え方に大きな変化があったわけですね。
筒井:
仕事に「魂が入った」というのでしょうか。会社の将来、そのなかで自分が果たすべき役割について、それ以前は漠然としたイメージしかなかったのが、あの頃から「それだけではつまらないのではないか」と思うようになりました。
勝:
それはつまり「会社を背負って立つ」覚悟のようなものですか?
筒井:
そうですね。たいへん口幅ったいのですが、私は適度な野心というものはあったほうがいいと考えておりまして―― 自分の将来のポジションを見据えながら、仕事をしていこうと思うようになりました。

これからの日本のために

勝:
コロナ禍が収束したのち、日本経済はどうなるでしょうか? どんな変化が生じるでしょうか?
筒井:
社会システムの「デジタル化」は引き続き進むでしょうし、加速して進めていかないと、日本の国際競争力が低下してしまいます。デジタル庁にも期待が寄せられていますが、企業活動のみならず、国民の利便性・安全性を考慮しても、デジタル化は必須だと思います。
もう一つ注目したいのは「ESG(Environment Social Governance)」(企業が持続的な成長を続けるうえで取り組むべき三つの要素。企業活動の指標にもなる)です。こちらも政官民が一体となって推進していかないと、世界に対抗できなくなる。その定着に向けては、我々一人ひとりに意識改革が求められていると思います。
勝:
コロナ禍を機に世の中の変化が加速しており、感覚的には10年先の社会を今、我々が生きているように感じます。それゆえ、社会の将来像もなかなか見えづらくなっていますね。
最後に若者へのメッセージをお願いいたします。
筒井:
今の若者なら、激しい時代の変化もたくましく乗り切ってくれると思います。そこで、私があえて言いたいのは、日本がこれまで受け継いできた社会の規律や仲間との連帯を今後も守っていってほしいということです。変わっていくものと、変わらないものを峻別して、変わらないもの―― それは守るべき「風土」と言ってもいいと思いますが―― も大事にしてほしい。
あと一つ、昨今のような時勢のなかで、今一度、「対話」を重視してほしい。先にも述べた通り、些細な雑談ができなくなったり、これまで人との対話から得ていた新しい発想や思考の広がりがなくなりつつあるのではないかと危惧しています。それにともない共感や信頼も希薄になりかねない。よって、若者には意識的に〝フェースツーフェース〞で人と接する機会を持ってほしいです。
勝:
人が成長する時は、社会や他者との関わりのなかでこそ自己を確立し得るので、自分の成長のためにも周囲との接点は大事ですね。
筒井:
まったく同感です。
勝:
本日はたいへん有意義なお話をうかがうことができました。ありがとうございました。


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