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IIJ.news Vol.170 June 2022
各分野で進められている「脱炭素化・省エネ化」の波はデータセンターにも押し寄せている。
本稿では、海外の最新事情なども交えながら、「データセンターのグリーン化」について紹介する。
IIJ グローバル事業本部 グローバル事業開発部 副部長
文園 純一郎
IIJで8年以上、海外でのクラウドやDCエンジニアリングの事業開発を推進。超アジア人な外見に似合わずフランス生まれ、フランス育ちという生い立ちを活かすべく、近い将来、ヨーロッパ、アフリカ地域で新規事業立ち上げに挑戦したいと考えている。
世の中はデジタル化でますます便利になっていますが、その中核となるデータセンター(以下、DC)の1つひとつは、「電力を大量に消費する巨大なコンピュータ」に喩えることができます。DCは規模が大きいものになると、数十MWから数百MWもの電力を受電し稼働しています。一般的な家庭であれば5kW程度の受電容量で十分と言われますので、DCがどれだけ大量の電気を食う巨大なコンピュータなのかがおわかりいただけると思います。
近年、SDGs(持続可能な開発目標)といった国際社会のイニシアティブを通して、電力を消費するあらゆる場面において、脱炭素電力活用・省エネ化の積極的な促進が叫ばれるようになりました。DCも例外ではありません。
2021年6月、経済産業省が打ち出した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(左頁表参照)*1では、2040年までにDCのカーボンニュートラル化を目指すとしています。IIJでも自社で運営している、そして将来建設予定のDCのカーボンニュートラル化に関するタスクフォースを立ち上げ、今後の対応について検討を始めました。
デジタル化が進めば進むほどDCの重要性は高まります。IIJとしても将来の需要を見込んでDCのキャパシティを計画的に増やしていかなければなりませんが、日本ではそもそも電力コストが高く、大規模な電力が必要な場合、電力網への接続に何年も要するといった課題があります。加えて、グリーン化も考慮しなければならないため、最近の千葉県印西市周辺のDC建設ラッシュとは裏腹に、国内における新たなDC建設のハードルは今後ますます高くなるのではないかと考えています。
海外に目を向けると、アジア地域におけるDCの先進市場であるシンガポールでは、2020年の総電力消費量(3・4TWh)の7パーセントをDCが占め、この割合は2030年には12パーセントに達すると予測されています。そこで、新たにDC建設を申請する際、計画にサステナビリティとイノベーションの要素が含まれていることが、今年から必須要件となりました*2。
例えば、サステナビリティという観点では、PUE1・3以下を義務付けています。PUE(Power Usage Effectiveness)は、いかに電力を効率良く使っているかを示す指標ですが、一般的なビル型DCがPUE2・0と言われていますので、シンガポールのような亜熱帯地域でPUE1・3以下を達成するのは簡単なことではありません。
また、イノベーションという観点では、同国大手DC事業者であるケッペルDCが2018年に発表した海上に浮かぶフローティングDC計画*3は、DCの用地不足を補い、エネルギー消費効率を上げ、冷却に必要な処理水を削減できるアイデアと言えるでしょう(以下の図参照)。
最近、日本の状況を知ってか知らずか、海外の事業者、特に電力会社から「IIJさん、ぜひ我が国でグリーンDCを建てませんか?」というお誘いが増えています。これまでにも複数の国の方から話をうかがう機会がありましたが、例えばアイスランドでDCを建てれば、水力や地熱で発電した電力を利用できますし、ノルウェーであれば水力や風力で発電された電力を利用できます。これらの国々ではグリーンDCはすでに現実のものとなっているのです。
同じことを日本で実現するのは簡単ではありませんが、先進市場で起こっている「DCはグリーンでなければならない」という流れは、近い将来、日本にも押し寄せてくるのは間違いないので、今から官民一体となって、日本の地理的環境や天然資源などの条件にマッチした現実解を見つけ、実現に向けて取り組んでいく必要があります。
ここでご紹介したDCの話は、お客さまにとっても決して他人事ではありません。二酸化炭素削減のために電気自動車を買ったとしても、それを充電するための電気がグリーンな方法で発電されていなければ結果的に意味がないのと同様に、DCはほぼ全てのITサービスの基盤となるわけですから、「御社が利用しているITサービスはグリーンですか?」と取引先から尋ねられる時代が近い将来訪れるかもしれません。DCを運営する側・利用する側の双方が協力し合って、初めて持続可能なデジタル社会が実現できるのです。
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