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詳解!Streaming Technology 東京・春・音楽祭をライブ配信する

IIJ.news Vol.175 April 2023

日本最大規模の音楽祭として知られる「東京・春・音楽祭」。IIJは、同音楽祭のコンサートの模様をライブ配信している。ここではその舞台裏をレポートする。

* 東京・春・音楽祭の詳細はこちら

執筆者プロフィール

IIJネットワーク本部 コンテンツ配信サービス部

岡田 裕夫

コンサートの有料配信

IIJでは2021年より、毎年3月から4月にかけて上野の東京文化会館を中心に周辺の美術館・博物館などで催される「東京・春・音楽祭」の公演をライブ配信しています。

これまでに4K ・ハイレゾ配信、マルチアングル、字幕などさまざまな取り組みを行なっており、2022年からは画面をタップすることで映像の見たい部分を拡大できる専用のプレーヤーを開発し、会場に足を運ばずとも手頃な価格で高品質な視聴体験をお届けできるよう努めてきました。

新型コロナウイルスのパンデミックの影響もあって、近年、動画配信への取り組みが活発になりました。東京・春・音楽祭でも、2020年に多くの公演が中止になったこともあり、公演の有料配信に注力するようになり、IIJが撮影、配信、ユーザ管理や決済、そしてプレーヤーなど配信全般をサポートし、本格的な有料配信としては今年で3年目となります。

リモートプロダクション環境を確立

コンサートの配信では2021年当初から、先進的な取り組みを行なってきました。約1カ月のあいだに10を超える会場で50公演以上の配信を実施するため、効率化を考えて音楽祭のメイン会場である東京文化会館に配信センターを仮設し、全会場からの映像を文化会館にネットワーク経由で集め、集められた映像を、東京文化会館から配信するリモートプロダクション環境を確立しました。

演奏会場と配信センターが離れているケースでは、現地との連携、映像伝送のチェック、複数カメラからの映像を束ねて配信するための帯域確保、開始および休憩の確認、アンコールの有無……等々、現地の進行をきめ細かく把握しつつ、音楽祭事務局、各会場の担当者、そしてステージマネージャーら多くの関係者と情報共有して、ライブの進行にリアルタイムに対応していく体制作りが不可欠です。さらには、配信を監視したり、ユーザからの問い合わせに対応するための体制も必要になります。

上野・東京文化会館の配信センター

配信センターを飯田橋に移設

ただ、配信センターを上野に構築するには、機材の運搬や設置、テストに費やす労力など、多大なコストを要します。配信を特別なものでなく、継続的に実施できるようにするには、一連のコストをどれだけ削減できるかがカギになります。

そこで2022年は、配信センターを飯田橋にあるIIJオフィス内に構築し、現地に持ち込む機材も1人が持ち運べるバッグに収まる程度にまとめ、持続可能なリモートプロダクションへの進化を目指しました。

さらに2023年は、前年10月から稼働している「IIJ Studio TOKYO」を新たな配信センターとして活用し、現地でのケーブルの敷設や撤去などを含む人的作業を可能な限り効率化・省力化できるよう努めています。

飯田橋・配信センター

「技術的に可能である」だけでは十分でない

飯田橋と公演会場は、IIJが開発販売しているSEIL(ザイル)という高機能ルータを用いてVPNで接続しています。そして映像と音声をSRT(Secure Reliable Transport)と呼ばれるプロトコルを用いて、一般的なh.264に比べて高品質・高圧縮が可能なh.265というコーデックにより、映像を伝送するようにしました。プロトコルとは、データをやり取りするうえでの約束事や手順のことで、SRTはそのなかでもリアルタイム性とセキュリティ、そして高い安定性を併せ持ち、これから利用が増えてくると考えられるプロトコルです。さらに回線は、音楽祭のためにIIJが準備し、高品質な映像を安定的に伝送できるよう整えています。

映像と音声だけであれば数秒程度の遅延で安定的に伝送できるのですが、コンサートの場合、それだけでは十分ではありません。例えば、映像につける字幕のタイミングは、会場でリアルタイムに指示されます。タイミングと同時に字幕データを映像に埋め込むことができればいいのですが、実際に映像データが生成されるのは、映像が飯田橋に届いたあとになります。そのため、映像と音のズレだけでなく、字幕のタイミングも映像データの生成に合わせて時間調整する必要があるなど、ただ単にデータを送るだけでは、ライブ配信は成り立ちません。さらには、映像を視聴した際、違和感を感じないかといった目視確認なども重要で、「技術的に可能である」だけでは十分でないことを改めて実感させられます。こうした細かいところまでしっかり対応することで、視聴者が不満を抱くことなく、公演を楽しめるようになります。

2023年の配信では、プレーヤーの改善やサイトの機能向上を図り、現地での作業手順や持ち込む機材を見直し、より持続的なライブ配信の実現に向けてブラッシュアップしています。

他ジャンル・用途への適用も視野に

東京・春・音楽祭の有料配信では、音楽祭事務局の意向も取り入れながら、インフラ、WEBサイト、サポートなど多くの要素を開発・試行し、導入・成熟させてきました。こうした試みはクラシック音楽のコンサートだけでなく、もっと幅広いジャンル・用途に適用可能だと考えています。高品質・多機能・低コストな映像配信は、現地の模様をより身近に、より多くのユーザに感じていただけることから、コンテンツホルダにとって持続的に収益をあげることができる手法の1つになり得るためです。

配信プラットフォームは無数にありますが、現地での対応からユーザの試聴体験までをトータルにサポートできるものはそれほど多くありません。

我々が東京・春・音楽祭で実現したリモートプロダクションの知見を、専門的な知識がなくても手順通りに機器をつなげば、誰でも気軽に利用できるようさらに改良していきます。そして、より多くの方々にご利用いただき、サービスとして広く展開していけるよう、まずは有料配信プラットフォームサービスのリリースを予定しています。どうぞご期待ください!

配信イメージ


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