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IIJアカデミーとIT人材教育 システム人材の確保・育成に向けて

IIJ.news Vol.178 October 2023

「システム人材不足」は、今も昔も変わらない日本企業共通の課題である。
本稿では、企業サイドに加え、学校教育や採用にも目配せしながら、どうすれば効率的に人材を確保・育成できるようになるのか考えてみたい。

執筆者プロフィール

IIJ 取締役副社長

村林 聡

システム人材不足の実態

日本では、久しく「システム人材不足」(IT人材、デジタル人材、DX人材……と名称は変わってきましたが)と言われています。

筆者が銀行員として社会人生活をスタートした1981年頃、コンピュータシステムはメインフレームが中心で、増加する取引を処理する事務をシステム化して効率化を促したり、取引結果のデータを集計して業務に活用するためのものでした。当時もシステム人材は不足していて、筆者のような素人を含む入社2年目〜3年目の社員が毎年のようにシステム部に数十人集められ、研修を受け、その後、OJT(On the Job Training)を通じ、システム人材として仕事に従事していきました。

集められた社員の適性にばらつきはありましたが、仕事に必要な要件を明確にし、それを身に付けさせる研修を経て、OJTで経験を積ませて一人前に育てるという流れは、素人だった筆者が結果としてCIOになれたことからも、人材育成としてはよくできたものだったと思っています。どんな人材、言い換えると、どんな仕事をできるようにするかという定義、最近の言葉では「ジョブディスクリプション」がポイントなのではないでしょうか。

その後、ITの進展による活用範囲の拡大や専門性の進行などにより、求められる人材も多様化しましたが、必要なジョブディスクリプションをアップデートし、その仕事をできる人材を育成することが重要なのは言うまでもないでしょう。そういった意味で、DX人材育成を唱えているだけでは、人材は確保できません。「各々の企業にとってのDXとは何か?」「何を実現したいのか?」を明確にし、そのためにやらなければならない仕事は何で、その仕事をするためにはどんな能力が、どれだけ必要なのかを定義して、育成計画を作成し、実行するサイクルが重要だと考えます。

学生へのアピール

企業が人材不足を解決する手段には、社員の育成と採用があります。中途採用では、人材育成と同様にどの仕事に就く人かを想定して採用することが多いでしょうが、新卒採用ではそこまで明確なケースは少ないでしょう。これはシステム(IT、デジタル)の仕事が、未経験の学生からは今一つわかりづらいことや、企業もそこまで細かく仕事を定義していないことなども影響しているのかもしれません。

数年前、宮城県の気仙沼高校で「デジタル革命の進展と皆さんに求められる資質・能力」と題して講演しました。事前の準備として「物心ついた時からスマホでインターネットにアクセスしてSNSなどを使い、教科として『情報』を学んでいる高校生が、なりたい職業は何だろう?」と調べてみたのですが、残念ながらシステムエンジニア、プログラマー、WEBデザイナーなどは上位にありませんでした。多様な活躍の場があり、さまざまな課題を解決して、社会を豊かにするやりがいのある仕事としてアピールしましたが、改めて具体的な仕事のイメージを掴んでもらうことが、そうした仕事を目指してもらうためには必要だと感じました。

蛇足ながら、講演の結論として「高校生までは、広くSTEAM、特にArts(リベラルアーツ)を磨きましょう、そのために本を読もう」と結びました。

大学教育のあり方

教育と言えば、これも数年前になりますが、未来投資会議の第四次産業革命人材育成推進会議に出席しました。さすがに産官学の有識者の会であり、大学を中心とした専門人材の育成、企業内教育、社会人の学び直し(リスキリング)、GAFAに対抗する事業を産み出す人材の育成についてなど幅広い意見交換がなされました。

日本全体のシステム(IT、デジタル)人材の育成・確保の観点からは、産学連携の重要性が指摘されました。企業サイドの有識者からは「採用したシステム(IT、デジタル)人材の育成はほとんど企業サイドで行なっている」と、大学サイドでの教育の充実が訴えられました。一方、大学サイドからは「専門人材を送り出しても企業サイドで活用が進まない、専門性が活かされない」といった声が出ました。

やはり一言でシステム(IT、デジタル)人材といっても、仕事の内容はさまざまで、要件を具体化しないとこうしたミスマッチが生じます。産学連携をさらに深め、個々の大学と企業との具体的な連携強化が求められており、特に専門性の高い分野では、大学と企業のリボルビングドアが必要なのではないでしょうか。企業が大学を所有する例や、大学と企業の共同研究や冠講座が出てきていますが、もっと広がっていけばと思います。IIJもネットワークエンジニア育成のアカデミーを発足させましたが、社会人、学生に区別なく門戸を開いており、今後もさらに拡張・進化させていきたいと考えています。

もう1つ大学の教育についての持論を自分の経験から紹介しますと、高校で「情報」が必修化され学んでいても、ほとんどの大学のシステム・情報系の学科は理系に分類されているため、難解な物理などを習得しないと興味があっても理系には進学できません。システム(IT、デジタル)の仕事は多様であり、物理ができなくても活躍できる場がたくさんあります。その先のやりたい仕事につながる学びの機会を提供するためにも、理系、文系などと画一的に分類せず、選抜の仕方を工夫すれば、目指してくれる学生の裾野も広がると思います。

「日本情報オリンピック」をご存じでしょうか?情報オリンピック日本委員会が主催する、高校生までを対象とした大会で、与えられた課題を解決するアルゴリズムを考え、そのプログラムの作成を競います。上位は「国際情報オリンピック」に派遣され、日本の高校生も金メダルをとるなど、欧米、中国、インドなどIT先進国と言われる国の若者と伍して活躍しています。2022年度の国内大会には約1700人が参加し、年々増加しています。若者たちの芽を摘まず、企業の即戦力として活躍してもらうためにも、大学教育、企業の活躍の場の提供は重要です。

人材へのリスペクト

ここまで、システム(IT、デジタル)人材の確保・育成について、企業内、学校教育面からみてきましたが、そうした仕事に就きたい、その分野で活躍したい、担当部署に異動したいと思ってもらう動機づけとして双方に共通するのは、企業内における当該業務の地位を上げることです。

以前の多くの企業は、システム(IT、デジタル)は、競争力の源泉だと言いつつも、それ相応の評価をしてこなかったのが実態ではないでしょうか。「DX」という言葉を経営者から聞かない日はない昨今でも、それを行なう部署や人材について重視されてないケースも多いようです。企業が人材確保・育成を促すのは、事業成長のための競争力強化であるなら、その源泉となるシステム(IT、デジタル)の仕事、従事する人材をリスペクトして評価することは不可欠です。そのような企業には自ずと人材が集まり、活力溢れる職場となり、イノベーションを創造し、企業が成長していく好循環が生まれるでしょう。

もちろんシステム(IT、デジタル)に携わる人材も、変化の激しいテクノロジーの習得やリスキリングなどを通じて生涯学び続け、成果を出すことが必須なのは言うまでもありません。企業も人も「学べば即ち固ならず」(論語・学而第一)です。


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