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IIJ.news Vol.178 October 2023
世界に先駆けて(65歳以上の割合が人口の21%を超えた)「超高齢社会」を迎えた日本。
一見、ネガティブに捉えられがちなこの状況も、今後、追随してくることが予想される他国の高齢化を加味すると、日本は「課題解決先進国」になり得るポテンシャルを備えているとも考えられる。
IIJ 取締役副社長
谷脇 康彦
今回は少し先のお話。日本の人口は2008年に1億2千808万人でピークを打ったあと、急速な人口減少が続いており、77年後の2100年には6千277万人まで減少する*1。これはピーク時の約半分で、2100年のニッポンの人口は大正時代末期(1920年代)とほぼ同じ水準になる。
人口減少は経済にも大きな影響を与える。2020年の日本の名目GDP(539.1兆円)に占める家計消費(280.5兆円)の比率は52.0%*2。日本の人口がピーク時の約半分まで減少すれば、家計消費も大幅に減少し、国力も低下する可能性が高い。
懸念される大幅な人口減少は、慢性的な労働力不足という問題と裏腹の関係にある。そこでデジタル技術の出番だ。
日本はデジタル技術を最大限活用して、社会システム全体の自動化を進める必要がある。しかし、ここでいう自動化とは高齢者が機械に囲まれて介護を受けるといった無機質な世界ではない。むしろケアする現役世代が余分な事務仕事に割く時間を極力減らし、高齢者のデータを簡単に手元に取り寄せてケアプランを考える、気になる点があればすぐに関係者と共有できるといった、特段の作業をしなくても勝手に、つまり自動的にデータ連携が実現している世界。そこから捻出された時間は高齢者一人ひとりに対するケアに充てることができる。
IIJが提供している「電子@連絡帳サービス」はそうした世界を実現する手段の1つだ。切れ目のない医療介護支援の実現には、現場で活躍する医師・訪問看護師・ケアマネージャー、介護スタッフ、作業療法士などの連携が不可欠だが、これまでは電話やファックス、患者宅に置かれた大学ノートによる情報共有が主流だった。そこで、関係者が普段から使っているパソコンやスマートフォンでSaaS型のシステムにアクセスし、患者ごとの状況や気づきなど、共有すべき情報を書き込む。システムはSNS型のコミュニケーションの体裁をとっているので、関係者は各々の空き時間に書き込むことで、相手の都合を気にすることなく自分のペースで専門職に連絡でき、情報共有を迅速に、かつ記録に残る形で実施できるようになっている。
今後も急速な人口減少が進むなか、「電子@連絡帳サービス」のようなデータ連携の仕組みを通じた社会の自動化が進むことが期待される。
さて、2100年のニッポン。人口減少とともに興味深いのが、65歳以上の高齢化率だ。日本の高齢化率は前述の将来人口推計によれば、2050年から2100年までのあいだ、おおむね40%で安定的に推移する。これにより、今後、日本の人口ピラミッド(年齢階層別の人口構造)は高齢者に偏っている現状から全世代均等型に転換していくと見込まれる。
ところが、他国と比較してみると日本の高齢化率は2050年に中国に抜かれる可能性がある。韓国やシンガポールでも急速に高齢化が進行している。高齢化率が7%から14%になるのに要した時間は日本が24年であったのに対し、シンガポール(17年)や韓国(18年)のほうが大幅に短くなっている。つまり、日本だけが高齢大国になるわけではない。日本は「高齢化先進国」であって、アジアの他国と比べて約20年早く高齢化が進んでいるに過ぎないのだ。
8月15日、ワシントンポスト紙はビナ・ヴェンカタラマン氏のコラム「日本は高齢化について世界に教えることがある」*3を掲載した。ここでは、米国のルーラル地域はもとより、韓国、欧州、中国でも高齢化と人口減少が進んでいる点に触れつつ、日本の(高齢化問題に対する)創造的な取り組みは、高齢者が若年層の生活様式に合わせたり、社会から無視されたりするのではなく、高齢者が今いる場所で、尊厳ある人間として取り扱われている点が共通しているとして、具体例を紹介している。
まさに日本は高齢化について世界に教えることがある。日本が「高齢化先進国」である今後20年のあいだに、デジタル技術を使ったデータ連携型の社会システムの自動化を進め、そうしたソリューション群をアジアや欧州でも展開していく必要がある。「高齢化先進国」は「課題解決先進国」でなければならない。
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