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IIJ.news Vol.179 December 2023
地方銀行の勘定系システムが大きな転換期をむかえようとしている。
ここでは、モダナイゼーションに至った背景・概要・課題を整理しつつ、この分野におけるIIJの取り組みについても述べてみたい。
IIJ 執行役員 金融システム事業部長
荒木 健
2000年頃から複数陣営に分かれて進んできた地銀の勘定系共同システムが、次のステージへ歩を進めようとしています。
第1の要因は、メインフレームとCOBOLからのモダナイゼーションの流れです。規模の大きさ、ミッションクリティカル度、業務やプログラム構造の複雑さなどから、金融業界のモダナイゼーションは、他の業界に比べて進んでいるとは言えません。
基幹システムのプログラムは現時点でもCOBOLが主役であり、国内金融のあらゆる業務やサービスは、堅牢なメインフレームとCOBOLのプログラムにより支えられています。一方、COBOLのエンジニアは年々減少しており、今後、メインフレーム供給メーカも製造や販売を終了していくと予想されます。COBOLからJavaなど、エンジニアが確保しやすい言語への書き換えや、メインフレームからIAサーバなどコスト柔軟性の高いアーキテクチャへのシフトといったモダナイゼーションは、ほかに選択の余地がない状況にきています。
地銀の勘定系共同システムを運営する大手ベンダの1社は、IAサーバ、RHEL、PostgreSQLという、ごく一般的なオープン系アーキテクチャ上にNetCOBOLでリホストすると表明しています。また、基盤のIA化が図られれば、そこからクラウド化へと移行する流れは必然であり、2020年代後半に予定されている勘定系システム更改に向けて、高いSLAを誇る国産クラウドに統合することを表明している共同システムもあります。
第2の要因は、データセンターの老朽化問題です。今夏、ある大手ベンダが老朽化したデータセンターを2020年代後半に閉鎖する方針を固めました。ここには彼らが主導する複数の共同システムが稼働しています。ほかにも、メインフレームが置かれているデータセンターは竣工から長い年月を経ているものも多く、金融のミッションクリティカルなシステムが、データセンターの移転や閉鎖などにともなって再構築を余儀なくされるという状況が、これからおおよそ10年間に集中します。
このように、第一地銀、第二地銀合わせて100行近くが属している10余りの共同システムの全てにおいて、数年内に何らかのかたち(リホスト・リライト・リビルド)でモダナイズに着手していくことになります。
銀行業という特性上、一朝一夕に成り立つプロジェクトでは決してなく、それこそ5年、10年かかると思われますが、一昨年から今年にかけて、多くのしがらみにより、これまで燻っていた課題に火が着いたのはたしかで、地銀業界全体に大きな流れが生まれつつあります。
IIJは過去20年以上にわたり、メジャーな金融機関にインターネットのゲートウェイをはじめ、おもに情報系システムのネットワーク関連、セキュリティ関連のサービスを幅広く提供してきました。
IIJのサービスは、銀行のみならず、生損保、証券、カードなど、多くの業種にかなりな割合で浸透しましたが、顧客数や提供できるサービスの面でそろそろ飽和気味になりつつあるのも事実で、今までの売り物・売り先・売り方のままでは、将来の伸び代が大きいとは決して言えないというのが当事業部の置かれている状況です。
一方、前述の地銀の勘定系システムのような基幹領域とIIJの関係性については、過去にはメインベンダとして複数のネット証券の基幹システムのSIやアウトソースを担当したこともありましたが、現時点では(FXに特化したRaptorサービスを除けば)金融機関のシステムの心臓部である勘定系・基幹系システムは、IIJにとってどちらかと言うと縁遠い領域になっています。
例えば、地銀の勘定系共同システムのセンターネットワークにプライベートバックボーンを構築するとします。共同システムに参加する複数の地銀のネットワーク要件を1つの基盤上に論理的に実現することで、まず、共同システムのメインベンダのネットワークに要する設計・構築・運用の負荷を削減し、共同システム自体のコストを下げ、コスト競争力を上げることができます。次に、DXニーズの高まりとともに複雑化・多様化する各行のネットワーク要件に迅速に対応することで、フィンテックやDXといったビジネスニーズへの対応力を高めることができます。
勘定系システムには補完的なオープン系システムが存在し、今後はメインフレーム自体をIA化していく流れもあります。IIJはオンプレ基盤、国産クラウドサービス「IIJ GIO」、AWSやAzureを含むマルチクラウド環境を高いサービスレベルで提供しており、先のプライベートバックボーンと合わせて“24時間365日”の包括的なシステムアウトソースを担っています。
さらにその先には、OA環境の共同化ニーズが控えています。資金力もIT人材も豊富な地銀は主体的かつ積極的にデジタルワークプレイスやDXを推進できますが、全国の地銀が置かれている経営環境を広い目で見ると、勘定系システムのコスト負担が大きいため、情報系への投資やOA関連の整備は後回しにされることが多く、旧態依然としたOA環境がDX推進の障壁になっているケースも散見されます。そこで、地銀OAの業務特性や潜在的ニーズを理解し、最適なセキュリティガバナンスを施したOAを共同システムの1サービスとして提供することで、これまで着手できなかったフィンテックやDXを促進する一助となればと思います。
勘定系をシステムの心臓に喩えるなら、共同システムのプライベートバックボーンは生まれ変わる身体の血管として、地銀のシステム全体を支える役割を果たします。加えて、システムの手足や目鼻となるOA環境の改革を共同システムの1サービスとすることで、地銀勘定系共同システムのようなミッションクリティカルな領域においても、IIJの特長が遺憾なく発揮できるものと考えます。
旧来の金融機関のシステムは、勘定系・基幹系・情報系・OA系といったふうに「○○系」という括りでエリアを区分し、それぞれ異なるサービスレベルやセキュリティレベルに即して、系別に成長・成熟してきました。
かつてはそれが正しい姿と思われていましたが、DXに一歩踏み出そうとした時、各系統に分散したデータや、その粒度・鮮度の差異をどう取り扱えばいいのか苦慮するといった話をよく耳にします。
モダナイゼーションによりシステムの各系統のアーキテクチャが統一化されると、これまで物理的に分かれていた系統は論理上の区分となり、データの行き来もシンプルになるので、DXが加速していきます。
本稿で紹介した地銀共同システムの話は、金融業界におけるシステム改革の一端にすぎませんが、モダナイゼーションやDXの潮流を、IIJがこれまで金融分野では不可侵とされてきたシステム領域に事業拡大するチャンスと捉え、今まで以上にお客さまのニーズに即した品質向上、新サービスの開発に努めてまいります。
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