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IIJ.news Vol.180 February 2024
近年、注目が高まっている「衛星ブロードバンド」とは?
ここでは、基本的な仕組みや代表的なサービスプロバイダを紹介する。
IIJ クラウド本部 フェロー
谷口 崇
近年、衛星通信を利用したインターネット接続サービスに注目が集まっています。これまでの特殊な状況で我慢して使う、大きな設備が必要なイメージから、手軽に購入して普段使いができるブロードバンド回線として世界中で利用が進んでいます。
本稿では衛星ブロードバンドの仕組みを解説しながら、現在の状況や今後の可能性などを紹介します。
衛星ブロードバンドとしてはSpaceX社のStarlinkを念頭に、モバイルのデータ通信と比較しながら仕組みを説明します。
図1では、モバイルデータ通信と衛星ブロードバンドの設備を並べてみました。これを見ると、両者はよく似ていることがわかります。モバイルの基地局に相当する部分が通信衛星に置き換わっただけのようにも見えます。衛星ブロードバンドの登場により、新しい無線通信の手段に衛星が追加されたとも言えるでしょう。
両者の大きな違いは、端末と基地局・通信衛星との距離です。衛星ブロードバンドで使われている低軌道衛星の高度は550km、その先のゲートウェイまでの距離も考慮すると1100kmあります。これはモバイルデータ通信と比べるとかなり遠く、通信の遅延に影響します。ただ、空中を伝わる電波の速度は光速と同じですので、この程度で差を体感するのは困難なレベルです。
ちなみに、衛星通信でも静止軌道衛星は3万6000kmの距離にあります。この距離になると、光速でも遅延をはっきり感じます。(図2)
低軌道衛星を地上から見ると、静止衛星のように1つの場所に留まることができません。常に移動してしまうので、地球を覆うように数多くの衛星を配置し、衛星が常時見えている状態にしておかないと接続を維持できません。そのため、低軌道衛星の場合、何千機もの衛星を協調動作させて動かすことになります。これは「衛星コンステレーション」と呼ばれています。
ここからは、注目度が高いプロバイダについて解説します。
現在、地球上で個人向けも含めてサービスを提供できているプロバイダはStarlinkだけです。
Starlinkを提供するSpaceXは、衛星を打ち上げるためのロケットを自前で開発し、これまでの常識では考えられないような頻度で衛星を投入しています。すでに投入済みの衛星は5000機を超え、最近は週3回程度、1回に数十機の衛星を投入しています。SpaceXは衛星からロケットまで垂直統合で取り組むことで、この勢いを実現しています。同社は新型の世界最大のロケットStarshipの開発も進めており、先日、2回目のテストフライトが実施されました。Starlinkの計画にある4万機を超える衛星の投入はStarshipの投入が前提になっています。
SpaceXがここまでできる理由は、「火星移住」という壮大なミッションのもと、そのために必要なものを揃えていくという計画があるからとも言えます。ロケットも通信衛星も「火星移住」に欠かすことのできないインフラの一部なわけです。(図3)
Project Kuiperは、Amazonのグループ会社によって準備が進められている衛星コンステレーションです。規模としては3236機まで当局の承認を得ており、578機が稼働したところでサービスを開始する計画ですが、現在はまだ2機のプロトタイプしかありません。
これまでは衛星の打ち上げに利用するロケットの調達に課題がありました。現在、衛星の打ち上げプロバイダとしてSpaceXを含む四社と契約を結んでいますが、なかでも最大規模のULAのVulcanロケットが先日打ち上げに成功しました。2024年末までに初期の商用顧客向けにベータテストを開始する計画で進んでおり、日本でもNTTグループが戦略的提携を発表するなど期待が膨らんでいます。
衛星コンステレーションを利用して接続を提供するサービスには、さまざまな企業が取り組んでいます。IoT利用を想定した間欠的な接続や、中軌道を使ってコンステレーションの規模を抑えたものもあります。今後もさまざまなアイデアにもとづいた接続サービスの登場が期待されます。
衛星コンステレーションについては、中国も国営のインターネット衛星コンステレーション「国網」(Guowang)を計画しています。国網は地球低軌道(LEO)に1万3000機の衛星を打ち上げ、Starlinkと同様の衛星ブロードバンドを提供する計画のようです。最近、実験衛星の打ち上げに成功したとの噂もあります。
現状、衛星ブロードバンドと言えば、Starlinkだけを指しているような状態ですが、今後はProject Kuiperや中国のGuowangが参入してくると考えられます。地球を覆うように稼働する衛星ブロードバンドはグローバルに活用できないと効率が悪いので、健全な競争のもと、地球上の人々が利用できるようになってほしいと思います。
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