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インターネット・トリビア 動画のセーフエリア

IIJ.news Vol.181 April 2024

執筆者プロフィール

IIJ 広報部 技術担当部長

堂前 清隆

IIJの技術広報担当として、技術Blogの執筆・YouTube動画の作成・講演活動などを行っています。これまでWebサイト・ケータイサイトの開発、コンテナ型データセンターの研究、スマホ・モバイル技術の調査などをやってきました。ネットワークやセキュリティを含め、インターネット全般の話題を取り扱っています。

インターネットのコンテンツの主役ともいえる動画。今回はその動画を彩るテロップやロゴにまつわるトリビアを紹介します。

動画の話となると、やはりテレビから始める必要があります。今ではもう見かけなくなりましたが、かつてのテレビは画像を表示するためにブラウン管を使っていました。ブラウン管はガラスで作られた大きな容器で、密閉された内部は真空になっています。こうした構造のため、ブラウン管はどうしても丸みがついてしまいます。後年、製造技術が進化したことにより、高級なブラウン管はかなり平面に近づけられるようになりましたが、テレビの普及期には見た目でわかるほどの丸みがありました。特にこの丸みは画面の四隅で顕著なため、端っこまで映像を表示してしまうと映像がゆがんでしまいます。そこで当時のテレビはブラウン管の隅をテレビの筐体で覆い隠すことで、画面いっぱいにゆがみのない映像が表示されているように見せていました。これをオーバースキャンといいます。

このため、テレビで視聴される映像は、端の部分が見えないかもしれないという前提で制作する必要があります。テロップやロゴも端の部分に重なってしまうと読めなくなるので、それらを表示していい範囲が決められています。これをセーフエリアやセーフティゾーンと呼びます。日本ではARIBという団体が定めた基準があり、テロップやロゴは画面の全体の中央部分80パーセント以内に表示することになっていました。その後、テレビの画面にブラウン管は使用されなくなり、液晶などに置き換わります。液晶などの表示装置は画面の端を隠す必要はありませんが、今でもテレビはオーバースキャンの状態で販売されています。ただし、以前より隠れる部分が少なくなったので、ARIBの規定も改訂され、画面の95パーセントまでテロップなどを表示していいことになっています。

一方、パソコンで使われるモニタの場合、パソコンが出力した画像を全て画面に表示するアンダースキャンという方式になっています。また、そもそもネット上の動画では動画の周辺に他のおすすめ動画などの案内が出ることも多く、全画面表示が行なわれるケースが少ないという事情もあります。このため、インターネット向けに制作された動画では、セーフエリアはあまり意識されません。むしろ、セーフエリアを意識してテロップを配置すると、周辺部分が妙に間延びした感じになってしまうこともあり、画面ギリギリまでテロップが入れられることもあります。

さて、現在のインターネットの動画を語るうえで、スマートフォンの存在は非常に重要です。スマホの動画はパソコンの動画から派生してきたこともあり、基本的に端が切れずに表示される前提でした。最近は極端に細長いスマホもあり、そうしたスマホで全画面表示すると映像の一部が見えなくなることもありますが、ほとんどの場合、映像全体を表示するモードが用意されており、端が見えなければ、視聴者が切り替えるというスタンスです。

ところが、ここ数年はスマホの動画に新しい動きが起こっています。「縦動画」の普及です。縦動画はスマホを縦長に持った状態で全画面表示されるので、そもそも従来の動画と縦横比が異なります。さらに、多くの縦動画アプリでは、「いいね」やコメントなどの操作ボタンが常時、動画に重なって表示されていることもポイントです。動画内のテロップやロゴも、このボタンの裏に隠れてしまうと読めなくなってしまいます。

そうした事情から、縦動画の制作現場では、改めてセーフエリアが意識されるようになりました。もちろん従来のセーフエリアと異なり、縦動画の各アプリのボタンの位置を意識して、それに重ならない場所を選んだ形になっています。動画に出るテロップも、実はいろいろ変化しているのです。


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