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IIJ.news Vol.182 June 2024
IIJテクノロジー在籍時からSI事業に携わってきた筆者が回想を交えつつ、IIJのSI事業の変遷を振り返り、今後の課題である認知度の向上や事業の展望について述べる。
IIJ 常務執行役員
沖田 誠司
筆者がIIJのSI(システムインテグレーション)事業を初めて知ることになったのは、IIJに入社する前の1998年でした。
その頃、筆者は金融情報サービス事業者の立場で、従来の専用線・専用端末を用いたサービス形態からインターネットやWEBを用いたサービスに転換させるプロジェクトに関わっていました。
当時はまだ国内でインターネットを用いた同様の事業は立ち上がっておらず、WEB技術、セキュリティ技術など専門的な知見をもったSIerの支援が必要だと考え、いろいろな会社と面会しました。その時に出会ったのが、IIJのSI子会社であったIIJテクノロジー(1996年設立)でした。ほかにも大手SIerを含め、複数の会社から話を聞いたうえで、現場チームはIIJテクノロジーが他社よりもインターネットに関する経験値が高いことを評価し、IIJテクノロジーとやりたいと意見をまとめました。しかし最終的には、以前から付き合いのあったSIerに決まり、残念ながらその時は一緒に仕事をすることはありませんでした。
その2年後、インターネットバブルの真っただ中の2000年3月、縁あって筆者はIIJテクノロジーに入社することになりました。当時のIIJテクノロジーには出資企業から出向者が多数在籍していて、80名くらいの所帯でした。ちょうどオンライン証券が事業を始めて間もない頃で、現IIJ会長の鈴木が立ち上げに関わった2社のオンライン証券会社を筆者が担当することになり、そこからIIJでのキャリアをスタートしました。
IIJ(IIJテクノロジー)は、オンライン証券会社の案件をキッカケとしてSI事業にも弾みがつき、売上を伸ばすとともにSI関連の人材も活発に採用するようになりました。同じ時期に、今のクラウドサービスの前身であるリソースオンデマンドサービス(iBPS)を立ち上げ、中小規模のSI案件に対応できるようにしました。当時求められていたインターネットシステムは、必要な構成要素がある程度パターン化されており、iBPSはそれまでに繰り返し手がけるなかで培ってきたSIに関するノウハウを活かして、SIを効率化させた画期的なサービスでした。
iBPSはSI子会社だったIIJテクノロジーが企画・開発したサービスでしたが、親会社であるIIJのインターネットサービスを一番身近で活用していたこともあり、ICT環境をサービス化することの合理性についてはすでに理解が養われていました。そして2010年、IIJテクノロジーはIIJと統合し、現在に至るまでSIを主たる業務としているメンバーにはそうした思考が受け継がれています。そして、ゼロベースのシステムインテグレーションではなく、サービスをうまく使いこなす「サービスインテグレーション」を志向しています。
これと同時期にIIJグローバルソリューションズの参画や、それ以降も海外SI会社などの買収があり、SIの事業活動量は順調に増えていきました。
2023年度の売上は2760.8億円と当時の3倍強に増えた一方、構成比率としての「システムインテグレーション売上高」は、全売上高の40パーセント台後半から40パーセント台前半へと若干落ちており、SI以外に成長のドライバが移ったように思われるかもしれません。しかし実際には、もう1つの大きな売上の軸である「ネットワークサービス売上高」の伸長は、SIという活動を通して提案からデリバリされている案件が多数あり、特に大型の案件になると、SI活動と切り離すことはできないというのがその内訳なのです。
ここ数年の顕著な実績としては、政府が推進しているGIGAスクール構想関連、コロナ禍を機に進められた働き方改革に付随するICT環境(デジタルワークプレイス)の整備、ゼロトラストネットワークのグローバル拠点への展開など、IIJの強みであるネットワークやセキュリティサービスを活かしつつ、お客さま個別の要件に適ったシステム全体に対する最適な提案や、多くのステークホルダーを巻き込んだプロジェクトマネジメントなどがあります。
これら以外にもIIJは、下記のようなSI実績を重ねています。
このように、WEBなどで紹介している事例以外にも、SI主導の実績を着実に積み上げていると自負しています。しかし一方で、IIJの認知度については毎年調査を行なっていますが、正直なところ、一般的な認知度はなかなか向上していないというのが実情です。
インターネット黎明期を知る(元)技術者の方には、IIJの認知度は比較的高いのですが、それでもISP(インターネットサービスプロバイダ)としての認知に留まっていることも多く(小誌の読者ならIIJの現状をよくご存じだと思いますが……)、IIJの事業領域の説明機会や新規領域案件の提案機会をいただいた際に「IIJってこんなにいろいろなことをやっているんですね!」と驚かれることもよくあります。
世の中に対する認知度というのは、IIJの商談機会創出と同じく、採用活性化にも影響をおよぼします。今後のSI事業成長において、目標とする売上に相応するデリバリキャパシティ(人の数)は“必要条件”となるため、認知度の向上は重要であり、単に伝える努力だけでなく、伝えるに値する実績を確実に積み上げていかなければなりません。
IIJに入社して間もないころ、上司から「売上100億の会社に100億の仕事は任せてもらえるはずがない。案件規模が大きくなるということは相応のチャレンジがあるはずだから、そのチャレンジを獲りにいけるようになろう!」(「実績を積み上げて挑戦権を得よう!」という意味)と言われたことがあります。それから20数年を経るなかで、いくつもの挑戦権を得て、(くじけそうになったこともありましたが……)それなりに勝ち抜き、ステージを上げてきていました。
人口減少や環境問題などへの対策はもちろん、企業のDX実践に際してもIT活用の高度化はますます進んでいきます。そうした状況において、IIJはこれからも実績に裏付けられた多くの知見と高い技術力を活かしながら、社会貢献につながるチャレンジを続け、IIJだけでなく、社会全体のステージアップに寄与していきたいと考えています。
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