ACCESS 芳賀氏
一般的に、IoTなどのデバイスを社内で活用するためには、Wi-Fiで社内LANにつなぐケースが多いように思います。しかし、Wi-Fiは使い始めに手間がかかる上、電波が膨大に飛び交っているため、接続が切れやすく、遅延も発生しがちです。また、セキュリティ強化のためID・パスワードの入力も必要となります。JIGlet開発のプロジェクトマネージャーとして、IoTデバイスを使うためにはWi-Fiは不向きだと判断しました。その代わりデバイスにSIMを内蔵し、直接に携帯電話回線でつないだらどうだろうかと発想してみたのです。
芳賀氏
キャリアやMVNOなど数多くの選択肢を調査する中で、フルMVNOのIIJだけが、NTTドコモ網を使った電波のカバレッジや、製造業向けのIoTで使用する意図を正しく理解して、最適なプランを提示してくれました。IIJモバイルタイプIの上り優先プランならコスト削減が可能になることもわかりました。また、IIJにはeSIMとも呼ばれるチップ型SIMのラインアップもあり、その詳細な情報も提供してくれました。それらを総合的に勘案し、IIJモバイルタイプIを採用することにしました。
芳賀氏
一般的なSIMカードに比べ、小型・シンプルで耐衝撃性に優れているほか、製造段階でデバイスの内部基板上に直接実装することができるため、SIM取付コストや取付エラーの対応コスト、設定エラーのサポートコストなどの削減を見込むことができるからです。また、IoTサービスはマーケットに出すスピードも重要でした。2019年5月に開発計画が決まると、6月にプロジェクトが始まり、7月にはデバイスの設計に入りました。その迅速さを可能にしたのも、IIJがチップ型SIMでの出荷実績と知見を豊富に持っていたからだと思っています。
安藤氏
ベータ版を2020年1月にリリースし、その半年後の7月にプレ・サービスインしました。現在は、広く産業全般にJIGletをご紹介しています。中小企業のIoT知見のない方にお使いいただくこともあれば、大企業でもIoT導入のハードルが低いことから、部門単位でご利用を検討いただいているケースもあります。
大谷氏
当社の関連会社でもJIGletを導入検証しました。「機械トラブルによる非稼働」「人的ミスによる非稼働」などのイベントをあらかじめ登録し、非稼働時に作業者がサイコロデバイスの面を変えることでデータを集計していく仕組みです。IIJモバイルタイプIの通信状態も良好で、いつ、どの設備が、どんな要因で停止したのかのインシデントをリアルタイムに収集し、再稼働までの時間なども簡単に見える化することができています。これまでは、機器のトラブルがライン停止の主要因と考えられていましたが、実際には半製品待ちの発生がラインを止めることが多いと判明し、関係者も驚いています。
芳賀氏
IIJモバイルタイプIを採用したことにより、JIGletのハードウェアデバイスを当初の計画通りにリリースすることができました。また、チップ型SIMは製造工数を劇的に削減するため、製造コストや納期に多大なメリットももたらしました。さらに、パケットシェアサービスを選択した結果、頻繁に使う現場とあまり使わない現場とのコスト平準化を実現でき、他社のSIMに比べ、1ヵ月あたりおよそ半分ほどのコストで運用可能になっています。加えて、海外でのローミングに関しても他社に比べ格段に安い価格を実現でき、カバーするエリア範囲も広いので、ベストな選択だったと満足しています。
大谷氏
IIJがプランを緻密に工夫してくれた結果だと思いますが、もし他社が同じ条件でSIMを供給していたら2~3倍のコスト負担になっていたと思われます。また、SIMの選択もお客様の利便性を高めました。仮にWi-Fi方式を採用していたら、お客様ご自身が社内の情報システム部門に許可を得るなどの調整が必要になり、工数や心理的な負担は格段に上がっていたでしょう。JIGletはデバイス本体の電源を投入し、iPadのアプリケーションでバーコードを読み込むとすぐに開通するシンプルな仕組みを、IIJモバイルタイプIを活用することで実現しました。それが最大の優位性といえます。
安藤氏
今回は量産のファーストロットに当たりますが、お客様の反応も良好なので、次の増産も見据えています。また、現状は3種類のデバイスでスタートしましたが、今後は製造業のお客様の更なる課題解決を目指し、ラインナップを拡充していく余地もあると考えています。それらにもIIJモバイルタイプIを活用させていただくつもりです。
芳賀氏
日本の製造業の多くは海外に生産拠点をお持ちなので、今後は海外の通信方式や法規制に対応するデバイスの開発にも着手しなければならないと考えているところです。IIJは海外の通信事情にも知見が豊富なため、グローバル対応デバイスの開発においてもサポートをいただけると期待しています。
大谷氏
IIJはJIGlet開発におけるさまざまな課題に対して柔軟に対応し、無事解決に導いてくれました。特に、地方都市のお客様に対してもLTEサービスで質の高い安定したネットワークを提供できたことは、JIGletに関わる私たちにとってのコアな価値につながりました。お客様に最適な形のIoTを提案していく上で、最もお客様にマッチするのがIIJモバイルサービスだと改めて確信しました。
安藤氏
当社はIoTにまつわるプロジェクトに幅広く携っていますが、接続の容易性、ユーザの利便性、通信品質の安定性に加え、コスト効率性においても、SIM方式が今後のIoT通信方式の主流の一つになると感じています。その意味で、独自にサービス展開が可能なフルMVNO事業者であるIIJの重要性は、これからますます高まるものと考えています。
※ 本記事は2020年7月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
製造現場でのIoT導入・定着のハードルを下げるための最適な通信手段とは
JIGletの概要と特徴についてご紹介ください。
ACCESS 安藤氏
JIGletは、製造業向けのスマートものづくり支援ツールです。製造現場の担当者が、それらを使って設備や人の状態など現場のさまざまなシーンを記録・蓄積することで、工程のばらつきやムダが見える化され、製造現場の改善活動に利用できます。デバイスは、押すだけで任意のイベントを伝達する「ボタンデバイス」と、1つのデバイスで任意に6つの要因を設定できる「サイコロデバイス」、積層式表示灯に取り付けて点灯・消灯を検知することで稼働・非稼働を集計・見える化する「照度デバイス」の3種類を用意しました。また、iPad上でデータ収集ロジックを簡単に設定できる「JIGlet アプリ」や、PCの管理画面「JIGlet Site」を用意したほか、有償オプションとしてiPhoneで使える通知チャット「JIGlet Talk」も組み合わせて利用できるようにしています。
JIGletはどのような課題を解決するために開発されたのでしょうか。
村田製作所 大谷氏
日本の製造業は、昔から創意工夫や工程改善を現場主導で行っていく強みがある一方で、製造業向けIoTは導入と定着が難しいとされてきました。実際に現場を見ていると、各種ITツールは導入されているものの、完全に使いこなしているとは言い難かったり、運用や分析をシステム会社に任せていたりと、現場の人とITの間に“隙間”があるように思えたのです。そこで、2017年頃から新規開発プロジェクトを立ち上げ、現場担当者自身がより手軽に使えて、人とITの隙間を埋めることのできるIoTツールの実現をめざしました。
村田製作所さんとACCESSさんが協業することになった理由とは何でしょうか。
大谷氏
私たち村田製作所はハードウェアづくりは得意としています。しかし、アプリ開発に関しては知見が少ないため、優秀なパートナーが必要でした。そこで以前からお付き合いのあったACCESSさんに相談を持ちかけました。
安藤氏
当社からも、製造現場で手を動かしながら、創意工夫できるIoTツールの構想を提案しました。それを具体化した結果、iPadのアプリ上でロジック編集やデータの可視化を可能にするJIGletの元となるアイデアとなったのです。それからは、村田製作所さんと一緒に全国の製造業の現場を訪ねて実態調査をしたり、ヒアリング活動をしたりしながら、両社で連携してPoC(Proof of Concept)によるフィードバックを得ていきました。しかし、そこで大きな課題となったのが、デバイスからクラウドへデータを通信する方法の選択でした。