後山氏
弊社では既にActivNetでIIJモバイルタイプIの活用実績があり、その信頼性は十分認識していたので、他社のSIMを使うことは考えませんでした。特にIIJモバイルタイプIには、上り側を優先して100GBまで利用できる大容量でも安価な「定額プラン」が用意されているため、秒間15フレーム以上での映像配信を行うActivDroneの運用においても非常にマッチしていました。また、IIJモバイルタイプIはNTTドコモのモバイルネットワークを活用しているため、利用可能エリアが他のキャリアよりも広く、基地局の密度も比較的高いので、山岳地域や沿岸付近の海上でも安定した通信が可能になります。IIJモバイルタイプIでなければActivDroneの開発は頓挫していたといってもいいでしょう。
小坂氏
SIMとLTE対応SIMフリーUSBドングルには相性があり、ActivDroneの製品化においてはとても重要なのです。そのため、IIJモバイルタイプIと相性の良いUSBドングル探しに苦労し、2ヵ月もかかってしまいましたが、IIJのエンジニアからの情報はとても役に立ちました。
後山氏
はい。現在はサービス開始に向けて最終調整を行っているところです。
小坂氏
大きく3つ挙げることができます。第1は、上り優先オプションによってクラウド方向の通信スピードを十分に確保できたことです。試験運用でも通信速度が低下することもなくドローンの映像をクラウドにアップロードできました。このオプションは、ActivDroneのビジネスモデルにとって極めて重要です。
第2は、コストの抑制です。ActivDroneはコントロールボックスにSIMを入れた状態で出荷されるので、使用しなくても利用料金は発生します。そのため、月額費用をできる限り抑えてリリースすることが重要でした。IIJモバイルタイプIは100GBの定額プランでも回線ごとの月額費用は他社よりも安くなっているので、ActivDroneサービスの料金も提案しやすい価格設定にすることができました。
第3は、ビジネスの信頼性が担保できたことです。IIJモバイルタイプIはNTTドコモのネットワークを活用しているため、サービスエリアが広く、通信も安定しているので、ActivDroneを災害対応やインフラ保守などクリティカルな用途でお使いのお客様にも安心して提供できます。
後山氏
初年度は年間50セット以上の販売を目標としています。現在、防災関係や電力会社などに積極的に提案し、デモストレーションも予定しています。例えば、砂防ダムを管理するある自治体では、大雨が降った後に砂防ダムに異常がないか、正常に機能しているかを確認するためにドローンを利用する計画で、そこにActivDroneが活用される可能性があります。
また、電力会社に対しては送電線の保守での活用を提案する予定です。現在はドローンのカメラ性能が向上し、電線の碍子の汚れまで確認ができるようになっています。碍子が汚れていると絶縁性能を維持できないため漏電の恐れが生じます。送電線を管理する担当者が清掃作業する際に、目視で下から見上げるよりは、ドローンで近傍まで接近する方が状態をより確認しやすくなります。
更に、近年は高度成長時代に建設した橋梁やトンネル、ダム、港湾岸壁、法面構造物などのインフラの老朽化が深刻な社会問題となっています。そうした人の目の届きにくい場所の点検、保守、管理、監視などの業務にもActivDroneを有効活用いただけると思っています。
小坂氏
ご指摘のとおりです。例えば、害獣をAIに学習させ、熊やイノシシなどの侵入をドローンで効率的に検知する仕組みを作ることも可能になります。また、AIは遭難者の捜索にも有効です。ドローンのコントローラーの小さな画面だけで遭難者を発見することは困難です。遭難救助本部などで大画面モニターに映した空撮映像を複数人の専門家が確認しながら、AIが検知した地点を詳細に捜索したり捜索範囲を適切に指示したりできるようになるかもしれません。
後山氏
そうした可能性を担っているのが、IIJモバイルタイプIです。現在、予備のSIMも複数保管しており、緊急の出荷に対応できるよう準備しています。また、ActivDroneやActivNetを運用するクラウド基盤を、今後IIJのIaaS「IIJ GIOインフラストラクチャーP2 Gen.2」(IIJ GIO)に移管する準備も進めています。更に、IIJ GIOに移管するなら「IIJプライベートバックボーンサービス」(閉域ネットワーク)も不可欠だと考えています。IIJモバイルタイプIとIIJ GIOを閉域ネットワークでつなぐことができれば、強固なセキュリティと高速・広帯域のサービスが安価に両立し、ドローン映像活用の安全な環境を他社に先駈けて提供することが可能になります。
このように、弊社の新たなビジネスモデルはIIJのネットワークインフラをフル活用することになりますので、今後もこれまで以上の技術サポートを期待しています。
※ 本記事は2023年2月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
映像を途切れなくクラウドにアップロードする高品質なモバイルサービスが不可欠
新サービスActivDroneの概要についてご紹介ください。
株式会社Jシステム 後山氏
では、まず弊社の「ActivNet」について触れたいと思います。ActivNetは、防犯・監視カメラを遠隔地から制御するクラウド型映像監視システムで、ActivDroneのベースとなるものです。市販されている監視用カメラの大半に対応し、撮影した映像データをLTE回線、もしくは有線で弊社のクラウドサービスにアップロードします。ActivNetを利用するエンドユーザは、リアルタイムもしくは録画された映像をID・パスワードでブラウザの画面から閲覧できます。アプリのインストールや録画のためのレコーダーが不要なほか、登録カメラの台数制限なしに運用を可能にしている点などが他の類似サービスにない特徴です。また、数百人規模のユーザが同時に同じカメラ映像を閲覧できるよう、可用性と耐障害性を高めたほか、アカウント管理ツールと連動した権限管理の仕組みを作り、セキュアな運用も可能にしています。
ActivDroneも市販されている大半のドローンに対応し、撮影した映像データをActivNetのクラウドサービスにアップロードする仕組みは同じです。違いは、ActivDroneは災害地及び山岳地での使用を目的としているため、防水性を備えたバッテリー駆動の可搬型コントロールボックスを用いる点です。ドローンのパイロットが操作するコントローラーとActivDroneのコントロールボックスとはWi-Fiもしくは有線のHDMIケーブルでつなぎ、コントロールボックス内の装置でドローンからのアナログ映像をデジタルに変換した後、LTE回線でクラウドにアップロードします。ActivDroneも同時に多くの人が映像を閲覧できるようにするため、アプリを使わず、ID・パスワードによってブラウザ上で安全に閲覧できます。また、クラウドに保存した映像はダウンロードも可能です。想定する利用者は、官公庁や自治体、砂防関係団体、高速道路管理会社、電力会社、工事会社など多岐に渡るため、国土交通省が管轄する「NETIS」(新技術情報提供システム)にも登録し、採用いただきやすい環境を整えました。
ActivDroneの開発目的や課題についてお聞かせください。
後山氏
近年、災害対応などでドローンを運用するケースが増えてきたのを感じ、ドローンの映像をActivNetの仕組みを使って視聴できるようにするためActivDroneの開発に着手しました。産業用ドローンは最近国産も増えてきましたが、まだ多くは中国製です。中国製ドローンは専用のアプリで映像を視聴することが一般的ですが、日本の自治体や企業などでは中国製アプリをインストールして業務に活用することが安全保障上の制約があり難しいのです。アプリをインストールしなくてもライブで映像を観られますが、オンラインで録画ができません。映像をプレビューで確認するには、ドローンからメモリカードを回収してPCなどにデータを吸い上げなければならず、手間や時間がかかり運用効率が著しく低下してしまいます。災害対応中は刻々と変化する状況をリアルタイムに分析する必要があるため、オンラインでの録画機能は不可欠の要素です。
そこで弊社は、ドローンの映像を簡単かつセキュアにActivNetへ録画するためのシステムを開発しました。既に、高速道路の巡回パトロール車両に取り付けたドライブレコーダーの映像をActivNetに録画するシステムは存在していたので、それをベースに、可搬性が高く、長時間運用できるコントロールボックスの開発に注力しました。また、災害現場の映像は自治体や自衛隊、消防、警察など多くの関係者が同時に視聴するため、アクセス権限を柔軟かつ厳格に管理することが求められます。そこでActivDroneでは関係部門ごとに異なるID・パスワードを配布して権限ごとに運用・管理する仕組みや、災害対策が一段落したり関係者が部署異動したりしたら、それらのクレデンシャル情報を迅速に無効し権限を喪失できる仕組みなどを開発。セキュリティをより強化しました。
そうした運用の実現に不可欠なのは、映像を途切れなくクラウドにアップロードするための高品質なSIMモバイルサービスです。ActivDroneは災害地及び山岳地で使用するため、LTEの利用可能エリアが広く、安定した通信が可能なモバイルサービスが必須でした。また、一般の他社のモバイルサービスは使えるデータ量の上限が月間で数GB~50GB程度と少なく、それでは1秒間に2~3フレーム程度しか流せないため、カクカクした粗い映像になってしまいます。緊急性を伴う災害対応ではあらゆる兆候や変化も見逃せないため、最低でも秒間15フレームでの映像配信を想定していたので、月間70~80GBの通信量が必要です。その結果、キャリアのSIMの採用は見送りました。