阿部氏
LTE-Mの採用に向けて最初に検討したのが、通信モジュールの選択でした。国内外のさまざまな通信モジュールの情報収集をしていたところ、IIJから紹介されたのが、Quectel Wireless Solutions社のCat.M1対応通信モジュール「BG96」でした。
次に検討したのが、SIMの選択です。物理的なSIMカードをconeco本体に搭載するには別途SIMスロットも必要となります。部品コストや組み入れのための作業コストがかかってしまう上に、防水性や耐衝撃性が低下し、接触不良などのリスクも高まる可能性もあります。その上で、eSIM(チップ型SIM)よりも更にメリットの大きいIIJのSoftSIMに注目しました。しかし、SoftSIMはLTE Cat.4モジュールに採用された実績はあるものの、より省電力性を高めたMTC(マシンタイプ通信)向けLTE Cat.M1であるBG96への採用実績はありませんでした。
そこで2019年の初め頃、IIJにBG96向けSoftSIMのリリーススケジュールを大幅に前倒ししてくれるよう無理を承知でお願いしたところ、何とIIJは快く積極的に対応してくれたのです。そのおかげで2020年8月の正式リリースまでに間に合わせることができました。
関川氏
LTE-M通信を本格的に実装するのは初めての経験で、何もかも手探りの状態でしたが、IIJは製造工程でのテスト実施方法や、サーバーサイドの実装方法、アプリケーションの検査方法などを一緒に考えてくれました。その適切なアドバイスが大変心強く、完璧なサポートをいただいたと感謝しています。
名児耶氏
はい。conecoは当社にとって全く新しい製品となるため、お客様の反応を確かめるために、2020年2月20日から4月までプロモーションを目的としたクラウドファンディングを実施しました。正式な発売開始前に、お得なお値段で「応援購入」していただけるお客様を募集したところ、予想を遙かに超える数のご応募をいただき、多くの貴重なご意見や生のコメントを得ることができました。その内容から、想定していたターゲットに受入れられる製品だと確認できたことは大きな収穫でした。
また、一般発売前にお客様がアプリを正しくお使いいただけるかをチェックすることもできました。お客様のご意見を元に機能を追加したり、変更したりした部分もあり、そうしたことも含めてクラウドファンディングの試みは非常に成功したと考えています。
東尾氏
物理的なSIMカードとSIMスロットが不要になったことで、部品コストや作業コストが大きく削減でき、お求めやすい価格設定が可能になった効果が大きいと感じています。SIM挿入口を持たない密閉構造にすることで、お子様がいたずらでSIMカードを抜いてしまうリスクも回避できる上に、防水機能や耐衝撃性能を高めることもできました。
名児耶氏
当初はお客様との通信契約手続きが難しくなると心配していました。しかし、IIJのサポートのおかげでお客様はスマートフォンのアプリからクレジットカード情報を登録するだけで決済が可能になるなど、カーメイトとお客様との契約だけで自動的に利用開始することができるワンストップなサービスに仕上げることができました。通信料金の支払いもconecoの利用料金に含めることができるので、お客様の負担を大きく削減できたと評価しています。
阿部氏
生産の現場では、SoftSIMを使うことで物理的なSIMカードを調達して登録する作業が不要になったことも大きいですね。物理的なSIMカードを運用する場合は、テスト工程でもSIMカードの抜き差しが必要になるところですが、SoftSIMの場合はプログラムでテストを自動化できるので、工数の大幅な削減が可能になりました。また、物理的なSIMカードは高温環境下では電極の銅箔が剥離したり変形したりするため、接触不良による通信トラブルが発生する可能性もあるのですが、それがないSoftSIMが圧倒的に有利です。さらに、今後海外で生産する場合でも、SIMカードの紛失や盗難のリスクがないのは大きな安心材料です。
名児耶氏
IIJのSoftSIMがあったからこそ、このサブスクリプション型の消費者向けビジネスモデルが完成し、他の製品の通信モジュールを開発する際にも有利に活かせると考えています。今後はカー用品にも通信機能を盛り込む予定ですので、SoftSIMの活用機会はさらに増えるものと思われます。
関川氏
今回conecoに実装した通信技術の共通部分は、品質特性を守りながらプログラム的な移植性を意識して作っているため、次の製品開発時にはさらにスピード感をもって取り組むことができると想定しています。
阿部氏
今回のLTE-M通信を使った商品開発は困難な部分もありましたが、IIJが常にサポートをしてくれたおかげで無事リリースすることができました。今後も永く付き合えるパートナーの関係になれたと思っています。新たな商品開発もスタートしているので、その実現に向けて引き続きご支援ください。
東尾氏
conecoはLTE Cat.M1を使った通信で製品化しましたが、例えば今後ドライブレコーダー等に通信機能を持たせようとすると帯域が不足するため、5Gなどに進化していくことを想定したチャレンジが必要となります。まだ当社だけでは経験不足なので、IIJからもプロフェッショナルな提案やユニークな情報提供をいただければ可能性は広がります。今後も期待しています。
※ 本記事は2020年12月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
小型・軽量かつ長時間運用を可能にするためLTE-M採用にチャレンジ
conecoはどのような製品なのでしょうか。
東尾氏
conecoは、お子様の居場所がGPSでリアルタイムに把握でき、メッセージの送受信も可能な見守り専用の小型端末です。保護者のスマートフォンからお子様の現在位置はもちろん、過去の行動履歴や位置情報履歴が確認できるため、寄り道の経路や滞在した場所などの情報を時系列で可視化することができます。また、電子ペーパーの大型画面を搭載しているのも特長で、保護者のスマートフォンとお子様のconecoとの間で簡単なメッセージを送受信できます。任意に作った文言も定型文として設定できるため、意思疎通が格段に向上します。さらに、登録したエリアに到着したことを通知する機能や、乗り物での移動をスマートフォンに通知する機能も搭載しています。常にお子様を見守り、コミュニケーションもできるのがconecoの強みというわけです。
conecoを開発するに至った背景について教えてください。
東尾氏
当社は設立以来、スキーキャリアやドリンクホルダー、非金属タイヤチェーン、チャイルドシートなど、成形品を中心にカー用品の製造・販売を行ってきました。1980年代からドライブコンピューターやエンジンスターターなどエレクトロニクス製品も開発し発売。2010年以降はドライバー向けスマートフォン用アプリを自社開発し、スマートフォンで操作できる360度ドライブレコーダーを業界で初めて市販するなど、ソフトウェア技術を活用したIT製品の開発にも力を入れています。
そうした中で、conecoは2018年に制定した新経営理念「eものづくり」に基づき、車用途以外で当社初のIoT製品として誕生しました。他社のGPS端末にはないメッセージ機能も盛り込むことで、お子様の安全のみならず、保護者とお子様の双方の安心をも支援できるように工夫しています。
名児耶氏
これからのクルマ業界はCASE(※1)の時代に入るといわれ、当社のようなカー用品メーカーも最新の通信技術を取り入れて社会に役立つ商品を開発したいという動機がありました。社員からも新商品開発に関するアンケートを取ったところ、最も要望も多かったのが子どもの安全を見守る商品でした。当社の社員にも小さなお子さんを持つお母さんやお父さんが多く、特に共働きの家庭では子どもの行動が心配だという声が多かったのです。
開発過程でどのような課題があったのでしょうか。
阿部氏
conecoの開発では通信に何を使うかが大きなテーマでした。セルラー通信技術については、以前に3G回線での実証実験をしていたため知見はありましたが、通信を介したサービスを実ビジネスで展開した経験がなく、どの通信事業者と協業すべきか迷っていたのです。通常IoTデバイスはアップリンクの通信が主体となりますが、conecoはメッセージ機能を持たせるためダウンリンクの通信も活用します。この部分が大きなチャレンジになりました。
関川氏
conecoはお子様が常時身につけるため、小型・軽量で、かつ長時間運用できるよう可能な限り消費電力を少なくする必要がありました。数年前からLPWA(※2)に着目していたので、今回はセルラー基地局でのハンドオーバーが可能なLTE-M(※3)を採用しようと考えました。同時に、ソフトウェアを工夫して、どのようなアルゴリズムを組めば消費電力を抑制できるのかをさまざまな面から検討していったのです。