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横浜市 様 横浜市

GIGAスクール向けネットワークが“遅い”
短期に原因を究明し抜本対策実施で安定化

横浜市はGIGAスクール構想の実現に向けて、1人1台端末の整備と同時に通信ネットワークを新しく整備した。ところが、新ネットワークの運用を始めると、スループット低下で利用が困難になるというトラブルが発生した。データセンターに接続するベストエフォート回線に問題があることが分かり、同区間の専用線への切り替えを急遽行うことに。回線の切り替え後はGIGAスクール構想の端末を安定して活用できる環境が整った。横浜市では学校側の回線もベストエフォート回線から専用線に順次切り替えることで、より安定した教育ネットワークの運用を目指している。
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導入前の課題

GIGAスクール構想で高速大容量ネットワークが不可欠に

GIGAスクール構想でどのような対応が求められましたか。

横浜市教育委員会事務局
学校教育企画部小中学校企画課
情報教育担当課長
武井 邦之 氏

横浜市教育委員会事務局 武井邦之氏

国のGIGAスクール構想で、1人1台の端末と、高速大容量のネットワークの一体整備が求められました。横浜市でも国の構想の実現に向けて、2020年9月に策定した「横浜市におけるGIGAスクール構想」にもとづいて「1人1台端末」と「高速大容量の通信ネットワーク」を一体的に整備しました。端末としては、市立の小学校、中学校、特別支援学校(小、中等部)に在籍する児童生徒と教職員に、約27万台を配布しました。

27万台という膨大な端末が接続するネットワークは、どのような方針で構築しましたか。

武井氏

ネットワークとしては、従来から「Y・Y NET」と名付けた教育ネットワークがありました。しかし、27万台という多くの端末がネットワークに同時に接続し、授業でクラウドサービスの活用が増えると、データ通信量の大幅な増加が見込まれます。横浜市ではY・Y NETとは別にGIGAスクール用の次期ネットワークとして新Y・Y NETを敷設することにしました。

GIGAスクール向け新ネットワークの具体的な構成はどのようなものですか。

武井氏

新Y・Y NETでは、高速大容量の通信ネットワークを実現するために、校内には新しくLANを敷きました。更に、普通教室だけでなく、学校図書館や理科室、体育館などの特別教室や職員室に、無線で接続できるアクセスポイントを設置しました。学校からインターネットへの接続には国立情報学研究所(NII)が運営する学術情報ネットワークの「SINET」を活用しました。これは横浜国立大学との共同研究事業で直接接続できるようになったものです。
GIGAスクール用のネットワークは、各学校からの通信をベストエフォートのアクセス回線でWANを経由して、いったん横浜市のデータセンターで集約。SINETには40Gbps×2本の超高速回線で接続する、センター集約型の構成になっています。WANの高速化のために、ネットワーク機能を仮想化してクラウドで提供するSD-WANも導入しています。

GIGAスクール向けの新Y・Y NETの構築を手掛けたのはIIJでした。

武井氏

GIGAスクール構想で27万台の端末が利用できるような広帯域で安定したネットワークの構築を要求し、入札でIIJが落札しました。IIJの協力により、次期ネットワークの新Y・Y NETを2021年4月に運用開始することができました。

導入後に発覚した課題

「GIGA開き」後にWebページが開かないほど速度低下

GIGAスクール構想の端末とネットワークの利用は順調にスタートしましたか。

武井氏

横浜市では、小学校と特別支援学校(小、中等部)の児童生徒にはiPadを、中学校の生徒にはChromebookを選定して配布しました。そして、各学校では児童生徒が端末を使うに当たって必要な基本操作の体験や利用ルールを確認する「GIGA開き」を2021年5月半ばから順次行っていきました。GIGA開きというのは横浜市が付けた名称で、各学校や各クラスで実施した最初のイベントです。クラスごとに担任が行う学校もありましたし、校内放送で校長先生が「箱を開けてみましょう」と一斉にリードする形を取った学校もありました。GIGA開きを経て、最初はGIGAスクール構想の1人1台端末を使った教育が順調にスタートしたように見えました。

その後にネットワーク上の問題が顕在化したのですね。

武井氏

GIGA開きから1週間程たち各学校で端末の活用が進むに連れて、利用の増加に伴う授業時間帯の通信速度の低下という形で、影響が表れてきたのです。実際には利用が集中すると100kbps~200kbps程までスループットが低下し、Webブラウザでページを開こうとしても砂時計が表れて先に進まないような状況でした。突然、こうした事態が頻発するようになったのです。せっかく1人1台の端末を活用しはじめたところでしたから、その活用を止めないようにするために、より広帯域で安定したネットワークの再整備が急務になりました。

学校での端末の活用はどのような状況だったのでしょうか。

武井氏

GIGA開きからそれほど時間がたっていない頃なので、普通の教室の中で子どもたちがWebサイトにアクセスしたり、クラウドサービスに接続したりといった利用法だったと認識しています。まだ学校も手探りの時期で、動画をどう活用するか試行錯誤していた頃なので、ネットワークを通じてさほど重いデータをやり取りしていたわけではありません。スループットが低下するようになって、学校によってはクラスごとに端末の利用時間を分けるような工夫をしてくれていたのですが、それでも通信速度は不足していました。

利用イメージ

原因はすぐに究明できたのでしょうか。

武井氏

当初の設計通りの数値が出ていないのではないかということで、ネットワークの設計、運用をお願いしていたIIJに、通信環境の再提案を依頼しました。再提案の依頼内容は、通信速度の低下の原因の特定、各学校で活用が進んでいるロイロノート・スクールやGoogleなどのクラウドサービス、オンライン授業やWeb会議に加えて、学習者(児童生徒)用デジタル教科書の文部科学省の実証事業への全校参加に支障がない通信環境を再整備してほしいというものでした。
IIJからは2週間程の期間で調査結果が伝えられ、市のデータセンターと学校をつなぐWAN接続のうち、データセンター側の通信回線に輻輳が発生していることがスループット低下の原因だと判明しました。データセンター側も学校側も、WAN接続にはベストエフォート型の回線を利用していたのですが、データセンター側ではベストエフォート回線だと想定した性能が得られず、通信が詰まってしまっていたのです。これは、実際に稼働してみないと分からないことでした。

どのような対策方法を取られたのですか。

武井氏

IIJの調査で原因が明らかになり、設定を調整するといった対策では根本的な解決につながらないことが判明しました。時間はかかりますが、センター側の回線をベストエフォート回線から専用線へと変更することにしました。ただし、回線の引き直しまでには4ヵ月ほどかかるということで、1学期から夏休みの間は既存のネットワークでしのぐことになりました。
学校からは日々、ネットワークについての課題をいただいていましたから、早く解決したいところではありました。それでも原因が判明し、回線の変更ができれば快適な環境が得られるということで、IIJに対応をお任せしました。

再整備後の効果

改修後のネットワークは安定して稼働

新しい回線への切り替えには数ヵ月かかるということになり、その間はどうしのいだのでしょうか。

武井氏

学校からも、「ネットワークが使えないじゃないか」という声をいただく状態は続きましたが、原因と対策や、2学期の初めには問題が解消することの説明をし続け、ある程度の理解はいただけたかなと思っています。その間も、暫定の対応ということで、一部のデータトラフィックをデータセンター経由にせずに学校から直接インターネットに流す「ローカルブレイクアウト」を、半分程の学校で導入しました。センター側の回線の負荷が減り、この対応によって回線切り替えの1ヵ月前頃からはだいぶスループット低下が抑えられるようになりました。

専用線化が完了した後は、ネットワーク回線は問題ないでしょうか。

武井氏

2021年9月20日にセンター側回線の専用線化が完了し、運用を開始しました。ちょうど緊急事態宣言に伴う分散登校が終わったころで、基本的に全員が学校に来るようになりました。学校のネットワークを通じて使う端末の台数は、分散登校時の倍程になったのですが、専用線化以降は問題なく使えています。スループット低下は解消され、学校からも順調だという声が届いています。問題が顕在化してから、各学校の児童生徒や教職員から環境改善への期待感は大きいものがありましたが、IIJには十分な対処をしてもらえたことに感謝しています。

教科書のデジタル化など、今後は更にICTの活用が見込まれます。ネットワークの対応は十分だとお考えですか。

武井氏

2021年度には、学習者(児童生徒)用の教科書のデジタル化を30校程度でテストしていました。2022年度は、国が英語(学校によりプラス1教科)の学習者用デジタル教科書の実証事業を全校で進めていますし、2024年度からは小学校のデジタル教科書への移行が予定されていて、ますますネットワークの負荷の増加が見込まれます。そうした中で、ベストエフォート回線を使っていた学校側の回線も、2022年度から専用線に順次切り替える事業を進めています。学校からデータセンターまですべて専用線化され、SINETへの超高速接続を含めてネットワークの安定した利用ができるようになると見込んでいます。

新型コロナウイルスの感染拡大により、教育現場ではオンライン授業や学習の必要性も高まっていたのではないでしょうか。

武井氏

2021年8月に、神奈川県に緊急事態宣言が発出され、回線を専用線に切り替える予定の9月も宣言期間中でした。ローカルブレイクアウトの採用や、専用線への切り替えといった通信環境の改善と並行して、各学校では分散登校などに対応するため、校内に限っていた1人1台端末の利用を家庭にも広げる必要が出てきました。端末の設定変更、持ち帰りのルール確認、同意書の提出などを通じて、オンライン授業・学習への対応支援に注力しました。

学習とICTの関係について、これからのお考えをお聞かせください。

武井氏

GIGAスクール構想は、新型コロナ流行前は5年かけて段階的に進めていく構想でしたが、コロナ禍で1年間に前倒しで進めることになりました。試行錯誤を続けながら、学校での活用を始めたのです。コロナ禍で、分散登校や休校があったときも、自宅への端末の持ち帰りやオンラインでの課題提出、授業動画の視聴など、ICT活用を推進する基盤になっています。コロナ禍で学校に行けないときだけでなく、不登校や長期欠席の子どもたちにも個別最適な学びを与える基盤として、様々な可能性が広がってきたと感じています。
また、コロナ禍がきっかけで、実際には遠隔地で行けないような海外の学校とオンラインで交流したり、修学旅行の行き先をWebで調べたり、オンラインで工場見学をさせてもらったりということができるようになりました。子どもたちが社会とつながる学びが飛躍的に広がってきたと思います。これまでの学校の学びを大切にしながら、学習支援クラウドサービスなどICTの効果的な活用を続けていきたいと考えています。

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お客様プロフィール

横浜市
市役所:横浜市中区本町6丁目50番地の10
市制施行:1889年4月1日
人口:377万3673人(2022年7月1日現在)
職員数:4万4613人(2021年4月1日現在)
神奈川県の東部に位置する県庁所在地で、政令指定都市。横浜は1859年(安政6年)の開港以来、様々なひと・もの・ことが行き交う「みなと」として、多様性を受け止めながら発展してきた。現在は18の行政区を持ち、日本の市町村で最も人口が多い。

横浜市

※ 本記事は2022年6月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。

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