河野氏
デジタルコンストラクションプロジェクトは、システムを作って導入すれば終わりというわけにはいきません。共に考え、汗を流し、継続してアップデートしていけるパートナーを求めていました。
先ほど申し上げたように建設業界はIT化やデジタル化が他の業界に比べて遅れています。必要となる技術の目利きや活用の仕方、更に人財育成まで含めて、私たちをリードしてほしい。デジタルに関する高い技術力と豊富な知見を持っていることも重要な要件でした。
林氏
当社の情報システム部門、並びにグループ会社の株式会社メディアテックは、長年にわたりIIJと取引がありました。そういった経緯もあり、2019年12月頃に情報システム部門を介してIIJを紹介してもらいました。
河野氏
なぜ、私たちがデジタルコンストラクションプロジェクトに取り組むのか。それによって何を目指しているのか。IIJは私たちとビジョンを共有し、現場の業務や抱える課題も深く理解しています。
その上で何をどう変えていくか。そのためにどういう技術を使い、どのようなステップで進めていくのか――。デジタルによる事業変革イメージの具体化から実現方法の整理、計画立案、検証などあらゆる面において、IIJは技術的な知見を基に支援してくれます。そうした点を評価しました。
林氏
“建設の未来”に向けた全体的な構想を共に描き、その実現に必要な施策の抽出と管理をサポートしてもらっています。アイデア出しであれば当社でもできますが、IIJにはデジタルを起点とした整理をしてもらいました。施策は細かいものも含めると、全部で500項目以上あります。どのような技術を使い、いつまでに、何をやるか。中長期的なスケジュールの策定や費用対効果の算出をして、その具現化に共に取り組んでいます。
その中で、施工管理を改革する画期的な仕組みも実現できました。建設現場をデジタル化する「デジコンBOX」はその1つです。定点カメラやセンサーなどで施工現場をモニタリングし、その映像やデータを建設現場から伝送しています。このデジタル情報を担当者や施工業者などの関係者で共有できる「物件ポータルサイト」という情報サイトも整備し、遠隔管理の実現性が向上しています。
現場で確認したいことが発生した時、これまでは現場監督が現地に足を運ばなければなりませんでしたが、この仕組みを活用すれば遠隔で映像を確認し、指示を出せます。現場監督の移動の負担が減り、現場もすぐに必要な作業に取り掛かれる。働き方改革や生産性が大きく向上するでしょう。IIJの提案とサポートにより、将来の施策展開を見据えた拡張性も確保できました。
河野氏
担当営業の方は非常に熱意があり、チームの技術力も高い。自分たちが発想できないようなところからアドバイスをもらえるのは非常に有り難いですね。
デジタル情報と建物情報を組み合わせることで、多くの価値を生み出すことが分かってきました。現場の意識もデジタル活用に前向きなものに変わり、チームで施工現場の管理ができる体制が徐々に整いつつあります。
林氏
IIJは当社の情報システム部門と強固な信頼関係を築いているため、様々な施策も円滑に進みました。当社のセキュリティポリシーもしっかり理解し、「できる・できない」を判断してくれる。できるものに関しては、ポリシーに沿って施策を実現するためにはどうすべきかを分かりやすく説明してくれました。後から情報システム部門に確認しても、IIJの提案で間違いはなく、手戻りなどの無駄もほとんどありませんでした。
河野氏
IIJと共に、引き続き施工管理の省力化を推進していきます。デジタルエビデンスの価値を高めるため、画像判定などのAI(人工知能)技術を活用して作業や判断プロセスの自動化にもチャレンジします。
更にBIM(Building Information Modeling)や現場から取得できる実績情報を活用して、より精度の高い施工管理を目指します。その先にあるのが、最終目標である施工や施工管理の無人化です。5年後をメドに、実用化に向けた実証を開始したいと考えています。
林氏
建設現場のデジタル化は業界共通のテーマです。私たちにとってプラスになるだけでなく、業界全体にとってプラスになるような仕組みやサービスを作っていきたいと思います。
河野氏
ITやデジタルの技術は日々進化しているため、新しい技術や付加価値の高いSaaSなどを組み合わせて最適解を求めていく必要があります。常に目的思考で、最適解を追求していきたい。それを現場で使いこなすためには、デジタル人財の育成も欠かせません。IIJの強みであるデジタルの技術力や知見を活かし、私たちをさらなる高みへと導いてほしいと期待しています。
※ 本記事は2022年5月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
技能労働者の高齢化、人手不足、生産性向上は業界共通の課題
業界をリードする貴社の建設DXの取り組みは、建設業界のみならず多方面から注目を集めています。最初にその背景や狙いを教えてください。
大和ハウス 河野宏氏
大和ハウスグループは1955年の創業以来「建築の工業化」を企業理念に掲げ、品質と効率を追求する住宅や事業用施設などの建設事業を展開しています。これまでに戸建・賃貸住宅や分譲マンションを191万戸、商業施設4万6千棟、医療・介護施設など9,500棟を供給してきました。
一方で、建設業界は他の業界に比べてIT化やデジタル化が遅れていて、昔ながらの人の手による仕事が多い。それを支える技能労働者の高齢化と人手不足も深刻な課題です。近年、自然災害が頻発し大型化する中で、住宅産業の担い手である技能労働者が減少すると、地域の守り手を失うことにもなりかねません。このままでは住宅やそこに住まう人を守ることも難しくなる。そういう危機感が切実になっています。事態を重く見た国は2019年に、いわゆる「新・担い手3法」を制定しました。現場の生産性向上と働き方改革を推進し、次代を担う若手や女性にも働きやすい環境を整えるためです。
当社グループは、こうした社会的要請に応える活動を以前から推進し、施工現場の4週8休や女性工事担当者の活躍推進など、働き方改革や人財育成に取り組んできました。この取り組みを更に加速させるため、2019年7月から開始したのが「デジタルコンストラクションプロジェクト」です。
デジタルコンストラクションプロジェクトとはどのようなものでしょうか。
河野氏
情報のデジタル化やIT技術の活用により施工現場を改革するとともに、時代のニーズに合わせた建築の工業化を加速していくグループ共通の建設DXです。ものづくりを起点としてDXを推し進め、グループ横断的な活動に発展させていくことを目指しています。
目指す究極の姿は、設計・施工・施工管理の無人化です。作業の基準が明確なものはデジタル技術やロボットを活用して自動化していきます。そうすればスキルを持った技能労働者はクリエイティブな業務に注力できるようになり、「人・街・暮らしの価値共創グループ」というビジョンをより強力に推進していけます。
ただし、これは一気に実現できるものではありません。最終的なゴールに向けて、できることから省力化や効率化に取り組んでいます。
大和ハウス 林健人氏
プロジェクトを推進するため、2020年4月に新たな専門部署を立ち上げました。2022年からは建設DX推進部として、建設業の仕事の進め方を変えるべく、様々なツールの選定や導入をサポートし、デジタルコンストラクションプロジェクトを推進しています。