阿部氏
クラウドをセキュアに利用するため、Microsoft Azureと北海道電力のデータセンターの間を高速に閉域接続できるExpressRouteを使用することにしました。日本マイクロソフトに相談したところ、閉域接続のサービスとしてIIJの「IIJ Smart HUB」を紹介されました。そこでIIJから話を聞くことにしました。
阿部氏
データセンターとIIJのプライベートバックボーンをつなぎ、プライベートバックボーンからMicrosoft Azureへ閉域接続するという構成で、要望に沿ったものでした。そのときはAzureの閉域接続だけを依頼するつもりだったのですが、IIJの担当者と話をしていくと、インフラ将来構想がIIJのサービスで実現できそうだと感じました。
具体的には、まず接続の選択肢を増やそうと考えました。接続点の中心を自社の計算機室からクラウドサービスに移し、万が一ブラックアウトが起きてもメールやMicrosoft Teams、オフィスアプリなどが使えるようにしようと考えました。
また、リモートアクセスで業務をする環境も、利用者が限られ遅かった従来のVPNから、セキュアに誰もが使えてPC以外にスマホからでもアクセスできる形態を考えていました。
IIJと話をすると、プライベートバックボーンサービスを中核に、ネットワークの仮想化に「IIJ Omnibusサービス」を利用し、インターネットとの接続には「IIJセキュアWebゲートウェイサービス」でセキュリティを担保、リモートアクセスには「IIJフレックスモビリティサービス」を利用することで、北海道電力のインフラ将来構想がすべて実現できることが判明しました。
北海道電力 江幡始氏
物理的には、社内ネットワークからIIJのデータセンターに異なるベンダーの光回線を2ルート使って接続します。IIJプライベートバックボーンから先はIIJの環境で、Azureへの閉域接続、リモートアクセス、Microsoft 365などを利用するためのセキュアな接続を実現しています。
江幡氏
要求仕様に対してIIJから回答があったのが2019年9月でした。プライベートバックボーンや閉域接続、リモートアクセスの環境の整備は2020年4月には完了しました。フレックスモビリティサービスを使ったリモートアクセスができるようになったちょうどその頃に新型コロナウイルスの感染拡大によって北海道電力でも出社制限になったのですが、環境が整備されていたので業務の継続がスムーズにできました。
2020年4月までに整備を進めたのは、社内LAN環境のクラウド化とリモートアクセスの実現でしたが、北海道電力には社内LAN以外に部門のネットワークや基幹システムの1つである料金算定システムなどもあります。これらも順次、クラウド環境へと移行しています。インフラ将来構想は「ほくでんデジタルプラットフォーム構想」と正式な名称をつけて推進しています。用途が広がり、構築が継続している状況です。
北海道電力 蝦名優也氏
今回の更新は、ブラックアウトへの対応がきっかけでした。その意味では、次にブラックアウトが起きたときにシステムダウンなどを回避できて、初めて評価できるということになります。幸いなことに、そうした事態は起きていないので評価が難しいのが現状です。もう1つのフレックスモビリティによるテレワークの実現は、どこでも働けるようになり、働き方の変革に大きな効果を与えていると思います。
阿部氏
フレックスモビリティが圧倒的に速くて安定していることは高く評価しています。同業他社などが導入しているリモートアクセスサービスなどと比べる機会があるのですが、勝負にならないほど速くてうらやましがられます。
北海道電力 村上幸司氏
セキュリティの観点からは、セキュアWebゲートウェイには暗号化された通信も復号して内容をチェックできる機能があり、安心感が高まったと感じています。また、一般的にはセキュリティを強化すると利便性が下がるのですが、IIJのソリューションでは不便を感じるようなことはないままで安心感を得られています。
北海道電力 佐藤祐一郎氏
プライベートバックボーンとIIJ Omnibusサービスの組み合わせにより、従来の縦割りのシステムでは応えられなかったニーズに柔軟に対応できるようになっています。例えば、業務をアウトソーシングしようとしたときや、グループ会社の業務が一部本社に戻るようなときも、Omnibusのクラウドネットワークに接続してプライベートバックボーンに入れればすぐに業務を開始できるようになりました。
江幡氏
今回のインフラ構築手法は、IIJで用意しているメニューをいかに使うかを考えるというアプローチでした。これまでのようにやりたいことに対して、要件を検討して構築するといった時間や手間を大きく省けるようになっています。やりたいことを実現するまでの検討時間が短くなることは、企業活動に役立つICTを提供するという戦略チームのミッションにも合致すると感じています。
八鍬氏
IIJのサービスを使った便利な機能が北海道電力の本体では活用できるようになってきました。次は、これらをグループ会社にも適用していきたいと考え、検討に取り組んでいます。
※ 本記事は2023年12月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
ブラックアウトの経験から新しいインフラを模索
北海道電力のICTへの取り組みを教えてください。
北海道電力 八鍬史典氏
情報通信部は、いわゆる全社のICT領域におけるあらゆる業務を行ってきました。ところが、だんだんと会社や社員から求められることと、情報通信部の現在行っていることの間に様々な乖離が生まれてきていました。そのような状況が続いている間に、社内からは、情報通信部不要論がたくさん聞こえてくるようになりました。そこで2021年に、情報通信部を生まれ変わらせることを目的に、情報通信部改革プロジェクトを部長直下に立ち上げ、2022年にはプロジェクトを全体統括するICT戦略チームを発足させました。ICT戦略チームのメンバーは7人で構成し、企業活動に貢献するICTを提供するための抜本的な見直しや情シス部門の変革を続けています。
戦略チームの発足と前後して情報システムのクラウドへの移行を推進しています。そのきっかけは何でしたか。
北海道電力 阿部隆行氏
2018年9月6日に、北海道は北海道胆振東部地震に見舞われました。その際の大きな被害として、エリア全域の大規模停電である「ブラックアウト」が国内で初めて生じました。電力を供給する側の北海道電力も同時に停電してしまったのです。非常用発電機を使ってサーバなどは最低限の稼働を続けましたが、燃料の補給もままならない中で、あと数時間で落ちるというところまで追い詰められました。
お客様には情報を発信し続ける必要があるのですが、Webサーバも電源が落ちたら使えなくなります。そこで、電源が落ちる前に、日本マイクロソフトの協力を得て急遽Microsoft Azure上にWebサイトを移設する作業を行ったのです。幸いなことに電源はぎりぎりで復旧し、サーバが落ちることはありませんでした。とはいえ、これが契機になり、クラウドへの移行を含めた対応を検討することになりました。
検討はどのように進めたのでしょうか。
阿部氏
まず、ICTのインフラに対する発想をゼロから考え直しました。これまでは、会社に来なければ仕事ができなかったのですが、セキュアにいつでもどこでも使える環境を整えようというものです。リモートアクセスなどは非常時の対応のためではなく、日頃から使える環境にするといった根本的な変化を目指しました。
八鍬氏
そうした考えで2019年に作成したのが「インフラ将来構想」です。構想では、いつでもどこでも仕事ができるようにするために、コラボレーションツールのMicrosoft TeamsやオフィスアプリのMicrosoft 365など、Microsoftのクラウドサービスを利用することにしました。クラウドサービスは選択肢がありましたが、多くのベンダーのサービスを組み合わせるのではなく、Microsoftに統一することを考えてMicrosoft Azureを選びました。ブラックアウト時にAzureにWebサーバを急遽移設するとき、親身に対応してくれたことも理由の1つです。