近藤氏
モバイル性に適した「軽さ」はもちろん、「見やすさ」と「使いやすさ」を重視しました。特に、モバイル端末から庁内ネットワークにアクセスする際の職員操作をできるだけ少なくすることによって「使いやすい」=「より多く使われる」と考え、Active Directoryと連携したシングルサインオンを実現できることを要件にしました。また、セキュリティに関しては、閉域網接続でセキュアに庁内ネットワークにアクセスできることや、端末紛失時の対策としてのMDMの導入も要件に求めました。
田中氏
要件を満たしているのはもちろんですが、様々な面で使いやすさを考えてくれています。タブレット端末とモバイルPCはSIM内蔵モデルなので、端末があれば通信が可能です。職場ではWi-Fiで庁内ネットワークにつながります。外出先ではSIMを介して「IIJモバイル大規模プライベートゲートウェイサービス」につながり、閉域網接続によるセキュアなモバイル通信が可能です。ユーザは利用するネットワークを意識することなく、どこにいても快適に通信できます。
近藤氏
IIJモバイル大規模プライベートゲートウェイサービスは端末にプライベートIPアドレスが割り当てられるのですが、これを庁内のローカルIPアドレスに変更し、よりセキュアな通信を実現しています。
近藤氏
2020年6月より、仕様検討を開始しました。そして要件を定義し、同8月に入札を実施。同10月に正式契約しました。そこから端末キッティングやネットワーク環境整備を経て、2021年1月から3月にかけて端末を順次納品してもらい、納品と同時に利用を開始しました。
導入したモバイルPCは1,000台、タブレット端末は1,030台です。モバイルPCは庁内の各部署に最低1台、タブレット端末は屋外での業務が多い部署を中心に配備しています。
近藤氏
モバイルPCは、庁内や出張先での会議や打ち合わせで多く活用されています。その場で議事録を作成したり、打ち合わせ机の大型ディスプレイに表示して、みんなで画面を見ながら資料を作成・修正したりすることで、資料作成や議論の効率化につながっています。タブレット端末は、机がない場所でも、資料の提示や簡易なデータ入力がしやすい特性を活かして、工事箇所やハザードマップの図面を住民に説明したり、農業者に画像を提示して栽培方法を指導したりしています。また、ケースワーカーは、相談業務の中で、応対記録の入力や制度の確認等に活用しています。
モバイル端末を活用することによって、自席以外の場所で行う業務の効率化やペーパーレス会議など、ワークスタイルの変革に向けて、職員の意識や行動が少しずつ変わってきていることを実感しています。
田中氏
より安全で快適に仕事ができる環境を提供するために、ITの最適活用を考えていきます。情報システム基盤の構築にあたってはオンプレミス、クラウドを適材適所で活用していきたい。今回のモバイル環境はその基盤としても有効活用できるでしょう。
近藤氏
目指しているのは「より良い県民サービス」の実現です。これを支える新しいサービスやそのユースケースについて、今後もIIJの有意義な提案を期待しています。
※ 本記事は2022年1月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
県、市町、中小企業の在宅勤務利用を念頭に「テレワーク兵庫」を導入
兵庫県は公民連携でデータ利活用に取り組む指針「ひょうご・データ利活用プラン」を策定するなど、デジタル先進自治体として知られています。どのようなIT施策を行っているのですか。
兵庫県 田中健一郎氏
早くから庁内の1人1台端末配備を実現したほか、全国に先駆けて県の光ファイバー網「兵庫情報ハイウェイ」も敷設しました。
兵庫情報ハイウェイは兵庫県行政情報ネットワーク、県と県内市町を接続するネットワーク、県立学校や社会教育施設を結ぶ教育情報ネットワークなどに使われています。一部の回線は県内のインターネット接続サービス用に開放し、県域の情報化も推進しています。
コロナ禍の中でも、新たなIT施策に取り組みました。その象徴が兵庫県在宅勤務システム基盤「テレワーク兵庫」です。兵庫県では令和2年4月の「新型コロナウイルス感染症に係る兵庫県対処方針」において、在宅勤務の活用により出勤者の7割削減を目指すこととし、県内の市町、事業者及び関係団体にも同様の要請を行いました。以前から在宅勤務環境は整備していましたが、子育て・介護と仕事の両立を支援することを目的としており、対象職員は限定的でした。県職員は教育事務職や公社等職員を含めると約17,600人に上るため、これまでにない大規模な環境を用意しなくてはなりません。また、市町や中小企業では予算が限られており在宅勤務環境の整備は困難です。そこで県だけでなく、県内市町や中小企業も利用できる在宅勤務環境の実現を目指しました。これがテレワーク兵庫です。最大9万人の同時接続が可能です。
兵庫県 近藤直樹氏
テレワーク兵庫利用のためのインターネット接続環境は利用者側でご用意いただきますが、県に利用申請し専用アプリケーションをインストールすれば、無償でテレワーク環境を利用できます。通信経路にはインターネット上のSSL-VPNを利用し、データセンター間は兵庫情報ハイウェイを用いたVPN網で通信します。電子証明書による認証やセキュリティ監査なども行われるため、安心して利用できます。このプロジェクトを担うベンダーの1社として、IIJには構築をサポートしてもらいました。
テレワーク兵庫は2020年11月末から本格稼働を開始し、2023年12月まで県内中小企業に対し無償で提供します。2022年2月現在、県内中小企業の利用数は310社。県と県内市町を合わせ、合計約61,700人に利用いただいています。
この取り組みは全国知事会デジタル社会推進本部が創設した「デジタル・ソリューション・アワード」において、令和3年度の優秀政策として表彰されました。
兵庫県では2016年にOffice 365(現Microsoft 365)を導入し、ExpressRouteを利用してセキュアな業務環境も実現しています。導入の狙いや背景を教えてください。
田中氏
以前はオンプレミス型のグループウェアを使用していましたが、Windows 10への対応が難しいことが分かったのです。同時に庁内PCの更新時期も近づいていました。そこでオンプレミス型のグループウェアを刷新し、Office 365を導入することにしたのです。
クラウドサービスの利用にあたり、誰でもどこでも利用できてしまってはセキュリティ上問題があります。
そこでそうした課題解決のために「IIJクラウドエクスチェンジサービス」を導入し、閉域接続のExpressRouteにダイレクトにつなぐセキュアなネットワークを実現しました。さらにIIJのサポートにより、既存のActive Directoryと連携するシングルサインオンの仕組みも整えました。
現在はメールや掲示板機能だけでなく、Microsoft Teamsによるチャットやビデオ会議も頻繁に利用されています。
今回タブレット端末とモバイルPCを新規導入し、セキュアなリモートアクセス環境も整備されました。これはコロナ禍での働き方改革を推進するためだったのですか。
近藤氏
コロナ禍でも円滑に業務を継続できる環境を整備することに加えて、ポストコロナを見据えたワークスタイル変革を目指したものです。モバイル端末を導入することで、会議室での打ち合わせや出張先、移動時など自席以外での業務シーンでも県庁のネットワークにセキュアにアクセスして、資料の閲覧・提示・作成やメール送受信等を行えます。どこでもその場でメール確認や報告書作成等ができるので、職場に戻ってからの事務作業が減ったり、わざわざ職場に戻らなくても済むようになったりするなど、業務の効率化につながっています。また、モバイル端末でインターネットや庁内フォルダにある資料を検索・閲覧できるため、紙資料の印刷や持参・配布といった作業が不要になり、ペーパーレス化にも役立っています。