青山氏
はい。私が最初に注目したのが、全国かつ移動体で利用できるNTTドコモ LTE-M網を活用したIIJモバイルタイプIのSIMでした。しかし最大のチャレンジは、必要な時クラウドから指示を受けられるようにすることにありました。
フレイトゥトラッカーの3つの通信モードのうち、「モーション」は加速度センサーに移動が検知されるとデータがアップロードされる仕組みで、対象が移動しなければ通信費もバッテリーもあまり消費しません。「ピリオド」は、いわゆる定期モードで、一定の時間ごとにデータがアップされます。一見すると最もバッテリーを消費しそうに思えますが、朝・昼・晩の1日3回の通信ならば2年程度は追加充電なしで運用できるほど省電力化が可能です。
問題は、最も利用されると考えていた「ファインド」でした。リアルタイムに位置情報を把握するという目的から、通信費とバッテリーの消費量は非常に多くなると試算されました。当初はSMS(ショートメッセージサービス)を活用してデータを収集するという方法も検討しましたが、SMSの利用料金は従量制で発生してしまいます。100台程度なら問題はないものの、数万台が1日に何度も通信を行うと膨大な費用がかかってしまいます。
この問題をIIJに相談したところ、度重なる検討の上で提案してくれたのが、IIJモバイルタイプIとIIJ IoTサービスを組み合わせる方法だったのです。具体的には、デバイスコントロール機能を活用しました。フレイトゥトラッカーとパブリッククラウドをインターネットでつなぎ、REST APIをpingでPushするとUDPでクラウドに接続。IMEI(国際移動体装置識別番号)を検索し、クラウドからデバイスへリクエストを送信してGPSトラッキングを機能させます。つまり、普段はスリープ状態にしてバッテリーを極力使わず、管理者が位置情報を把握したい時だけ、クラウドから“起きて通信を開始しなさい”とリクエストを送ります。そうすることで、通信費もあまりかからず、大幅な省電力化も実現します。当時IIJ社内でもまだ企画中であったこのアイデアを私は高く評価し、2020年7月に採用を決めました。
青山氏
2021年6月の販売開始後、順調に出荷は伸びており、数百~数千台単位の引き合いも複数社からいただいています。その大半が物流会社で、トレーラーのシャシー(被牽引車)の位置把握、コンテナの管理、車両管理、共有パレットの管理などに利用される予定です。
青山氏
トラクター(牽引車)に接続されるシャシーは、複数の物流会社が共同保有しているケースが多いのです。そのため、定期便で運用する以外は、前回シャシーを使った会社がどこに駐車したのか、正確な記録がないと所在不明で見つけることが難しくなります。また、シャシーを大量に駐車するには広大なスペースが必要なので、それが発見を更に困難にさせます。ドライバーから大まかな場所を聞き出して、現場に赴き、広大な敷地の中から目的のシャシーを探し出さなければなりません。
しかし、フレイトゥトラッカーをシャシーに装着すれば、駐車場の正確な住所と、大まかな駐車位置が把握できるので、時間や労力をかけず、簡単・迅速に回収することができるようになります。大容量バッテリーの搭載によって3~4ヵ月程度は位置情報をアップロードしてくれるので、頻繁に回収する必要はなく管理もしやすくなります。
また、最近では物流パレット用の薄型フレイトゥトラッカーも開発しました。物流パレットは、飲料会社やビール会社で多くご利用いただいており、全国で数十万枚が流通しています。1枚数万円のコストがかかるため、同じ業界の複数企業が共同利用しているのが現状です。そのため紛失も多いのが悩みの種でした。それを防ぐためにフレイトゥトラッカーを装着し、どこにどんな種類のパレットが何枚あるのかを正確に把握することができるようになっています。
青山氏
最大の効果は、サービス提供費用の大幅な抑制です。一般の位置情報システムなどに比べ、フレイトゥトラッカーの通信費は安価な IoT向けにも適した料金プランのあるIIJモバイルタイプIの採用でシステム利用料を合わせても非常に安価にリーズナブル設定できました。また、LTE-Mのモジュールと、Web API連携デバイスコントロール機能を組み合わせたことで、1回の充電で3ヵ月以上も使えるようになり、お客様の運用負担も軽減しています。あるお客様からは、「一般のIoT製品にはバッテリーが切れたら使い捨てになるような製品も多い中、フレイトゥトラッカーは環境配慮型である点が優れている。トータルコストを考えると、フレイトゥトラッカーの方が安かった」というご評価もいただいています。
更に、ある運送会社も大きな効果を上げています。この企業では運送計画に基づき毎朝シャシーの配車を行い、ドライバーがトラクターを連結するために所在を確認します。これまでは紙の上での管理だったので、一1台あたり15分以上も配車作業にかけていましたが、中には所在不明なものもあり、その捜索に数時間を費やすこともあったようです。しかし、フレイトゥトラッカーを導入したことで、シャシーの所在確認が平均3分で完了できるようになりました。IIJモバイルタイプIとIIJ IoTサービスを連携させたことで、現在の場所を簡単に特定できるようになった事例です。
青山氏
今後もトレーラーの荷待ち時間問題の解決や、共同配送などの物流系インフラ企業が抱える課題の解決ニーズを掘り起こしていく予定です。また、トレーラー以外にも、タンクローリーを保有している運送会社や残土などを回収する運送会社にもアプローチし、取引先への回遊管理や効率的なルート構築を提案していく考えです。
フレイトゥトラッカーは、不正防止、安全管理、事故防止、残業時間の短縮など管理者に様々なメリットを創出できるほか、利用者にとっても見守られることによる心理的な安心感や、業務の効率向上による身体的な疲労軽減などにも役立てられると確信しています。
更に、今後はSIMカードをチップ型SIMやSoftSIMへ置き換えることも検討したいと思っています。振動や熱、湿度などの耐環境性能が強化できるほか、スロットなどの機構部品も不要になり、出荷の際にSIMカードを手作業で挿入する手間もなくなるので、大幅なコスト削減が可能になると期待しています。
※ 本記事は2021年8月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
電力消費を抑え、かつ3ヵ月以上稼働し必要な時にデータをアップロードできる仕組みの実現
フレイトゥトラッカーの概要と、主な利用方法についてお教えください。
青山氏
フレイトゥトラッカーは、IoT機器向けのチップセット「Qualcomm 9205 LTE Modem」を搭載し、GPS/Wi-Fi/携帯電話基地局の3種類の電波を使って、配送車や荷物の位置をリアルタイムで確認できる小型端末です。5,000mAhもしくは10,000mAhの大容量バッテリーを搭載し、省電力で長距離の無線通信が行えるLPWA(Low Power Wide Area)を採用しているので、4ヵ月間以上の連続稼働を可能にしています。また、防水・防塵設計にも準拠。別途電源の確保や新たなシステム構築も不要なため、安価に業務用GPSトラッキングが実現できます。
当社はこれまで、子ども・お年寄り向けの見守り用超小型GPSトラッカー「トラっくん」を開発し、既に3万個程販売しています。その精度の高さと運用費用の安さが注目され、特に物流会社などからは、より長時間稼働可能な業務用のGPSトラッカーを開発して欲しいというご要望を多くいただいていました。それがフレイトゥトラッカーの開発につながったのです。
位置検出の誤差は10メートル程度で、パソコンやスマートフォンで簡単に位置情報を把握できます。通信モードは、1)スマホなどからのリクエストに応じてリアルタイムに位置情報を送信する「ファインド」、2)移動した際に位置情報を自動送信する「モーション」、3)軌跡管理が可能な「ピリオド」の3種類があり、それらを組み合わせた運用も可能です。
主に、物流会社の車両のリアルタイムな走行位置や走行状態の把握の他、物流パレットや貨物用コンテナなどの管理にも使われています。また、位置情報を長期間取得することができるため、高価な車両や建設機器などの盗難時対策としても活用されています。
フレイトゥトラッカーの開発過程で、特に通信機能に関してはどんな課題があったのでしょうか。
青山氏
課題は大きく3つありました。1つ目は、バッテリーの持続時間です。物流会社の担当者の負担を減らすためには、最低でも充電なしで3ヵ月以上稼働することが必要でした。通常のLTE方式のモジュールではバッテリー容量を大きくしても目標時間に到達できなかったので、LPWAを利用することを検討。また、お客様からのニーズには、移動体の位置情報特定も必要とされており、同じLPWAでも、ゲートウェイが必要なアンライセンス系LPWAや、ハンドオーバーできないNB-IoTではなく、LTE-Mを選択しようと考えました。PSM(Power Saving Mode)を使えば理論上はスリープ中に大幅な省電力が可能になると思ったのです。
2つ目は、必要な時にクラウドから指示を受けられるようにすること。一般的なIoTのシステムは、データを定期的にアップロードし、可視化し続けるのが主流ですが、フレイトゥトラッカーでは、一方的なデータ収集だけではなく、必要な時にクラウドからの指示通りに通信を挙動させたいと考えました。そのためには、管理者側からの指示を待ち受け、特定のデバイスを検索可能にして、必要な時にデータをアップロードできる仕組みを実現しなければなりませんでした。
3つ目は、通信コストの抑制です。IoTビジネスにおける共通問題ですが、GPSトラッカーも運用するデバイスの数が多くなるので、イニシャルコストはもちろんのこと、通信費などのランニングコストを最小限に抑える必要がありました。