2001年度入試からインターネット出願サービスへの取り組みを始めたKEIアドバンス。現在では、願書受付(インターネット出願、入学検定料決済)から、受験票発行(志願者受付サービス、受験票入手)、合格発表や入学手続きまで、オンラインでの入試業務を支援するASPサービスを提供している。
インターネット出願サービスの利用が増える理由は、志願者と大学の双方に様々なメリットがあるからだ。志願者は紙の入学願書を取り寄せる必要がなく、パソコンの画面上で入試要項を入手して、いつでもどこでも出願できる。一方、大学側では入試関連業務の効率化が可能となる。受験者の登録作業や受験票のチェック、入学検定料の入金確認などの業務の軽減、入試要項など印刷物のコストを削減。大学の規模によって異なるが、30%程度の入試業務コストを削減する例もあるという。
こうしたメリットが理解され、同社のインターネット出願サービスを利用する大学は2014年度入試で四十数大学、併願を含む志願者は約40万人に及ぶ。更に、「紙の願書受付を取りやめ、完全にインターネットに切り替える大学も登場しています。入試業務の効率化に向けて大学の関心も高くなっており、2015年度入試は約70大学、志願者は60万人以上の利用を見込んでいます」と同社の杉原彰氏は述べる。
KEIアドバンスでは2001年にインターネット出願サービスを開始以来、既存ベンダのデータセンターにVMwareの仮想化基盤を構築し、システム基盤を構築・運用してきた。大学ごとに仮想マシンを設定し、その基盤上に各大学の要件に応じたアプリケーションを載せて入試業務支援サービスを提供する仕組みである。
開始当時から志願者や大学などの要望に応えられるように尽力してきた同社のサービス。その取り組みが実り、2015年度では、大学入試出願者約300万人のうち、60万人以上が同社のサービスを利用すると見込まれている。志願者全体の20%にも上る人数である。「今やインターネット出願サービスは金融などと同様の社会インフラなので、絶対に止められません。そのため、システム基盤には更に高い信頼性が必要とされていたのです」と杉原氏は強調する。更に、KEIアドバンスと競合するサービスも登場してきたため、インフラコストを抑えつつ、競争力の高いサービスを提供できるシステム基盤が求められていた。
サーバリソースの管理も課題の一つだった。出願受付など入試業務は毎年1~3月が繁忙期となり、それ以外の期間はあまりシステムを利用しない。繁忙期・閑散期に応じたシステム運用が理想だが、「既存ベンダのサービスはサーバリソースの増減が柔軟に行えず、改善策が検討課題になっていました」と同社の昆陽寛幸氏は打ち明ける。
加えて、サーバのメモリ増設など、リソースの変更ごとに既存ベンダと見積書や発注書などのやりとりをする必要があった。「その事務処理だけで大きな負荷がかかることに加え、変更までに半月程度の時間を要することもあり、スピーディーな対応が困難でした」(昆陽氏)。
そこで、クラウドサービスを提供するいくつかのベンダに新たなシステム基盤の提案を依頼し、提案内容を比較検討した結果、「IIJ GIO VWシリーズ」を採用。その決め手の一つは、クラウド基盤としての安心感だ。志願者の大切な個人情報を扱うため、国内データセンターでサービスを運用する必要があり、IIJはそれが可能である。更に、移行のしやすさもポイントの一つだ。IIJ GIO VWシリーズは仮想化基盤にVMwareを採用しているので、既存システムとの親和性が高く、既存システムを運用しながらそのまま移行できる。また、IIJはシステム基盤に加えてミドルウェアまでサポートするなど、顧客の要件に応える提案力も評価された。「IIJの提案は当社のあらゆる要件を満たしており、インフラに関わる事務処理の負荷とコストの軽減ができると判断しました」と杉原氏は話す。
KEIアドバンスは信頼性の高いシステム基盤を実現するため、メインサイトの再構築だけでなく、新たにバックアップサイトを仮想環境で構築。万が一、メインサイトにトラブルが発生した場合、バックアップサイトで出願受付を継続できる体制を整えている。「2014年度に比べ、インターネット出願サービスを利用する大学数が増えています。仮想マシンの台数も多くなりましたが、バックアップサイトを追加しても、投資コストは以前と変わらずに新たな基盤を構築できました」(杉原氏)。
そして、既存システムを運用しながらIIJ GIO VWシリーズ上にシステムを移行し、2014年7月から新基盤が稼働を開始。「夏の間だけ大学院や通信教育などの出願にインターネット出願サービスを利用する大学もあります。繁忙期と閑散期に応じた柔軟なリソースの利用や、サーバリソース増減時の事務処理の負荷も解消され、大学ごとのアプリケーション開発業務などに専念できています」と昆陽氏は導入効果を話す。
同社では検証環境で大学にアプリケーションを確認してもらい、本番環境にアプリケーションを載せてサービスを提供する。これまでは確認のためにアクセスが集中し、リソースを増やす場合にも伝票の記載など事務処理が必要だったという。「IIJは事前に想定した作業の範囲内であれば、技術者のサポートもリソースの増減も柔軟に行ってくれます」(昆陽氏)。
2015年度の入試シーズンを控え、集中する出願者からのアクセスにも対応できる基盤をIIJのクラウドで整備するKEIアドバンス。社会インフラとなったインターネット出願サービスの利用動向が注目されている。
※ 本記事は2014年10月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。