流通大手イオングループの一員として、コンビニエンスストア「ミニストップ」を運営するミニストップ。国内だけで約2000店(直営店、FC含む)を展開する。
その同社が近年力を入れているのが、アジアを中心とする海外事業だ。中国、韓国、フィリピン、ベトナムを併せた店舗数は3300店以上。「海外戦略には海外市場の拡大に加え、海外ヒット商品をいち早く日本に輸入し、トレンドをリードしていくという狙いもあります」と本部システム部の齊藤貴久氏は語る。
なかでも成長著しいベトナムは有力な市場の1つ。2011年に出店して以降、順次店舗数を拡大している。
当初は海外展開が先行していた中国の店舗管理システムを横展開するかたちで、中国のIaaS上に店舗管理システムを構築。国際回線を使って、ベトナムの各店舗がシステムを利用する形態だった。しかし、国際回線の品質が安定せず、通信切れが頻発。「2018年10月時点でベトナム全土に約120店を展開していましたが、どの店舗も、ほぼ毎日、通信が途切れるような状況でした」と齊藤氏は振り返る。
店舗管理システムは会計、販売管理、物流、受発注などを担う重要な基幹システム。通信が途切れれば、当然システムは使えなくなる。「会計に時間がかかるなど店舗側の負担が大きくなり、来店のお客さまにも迷惑がかかります」と海外システムチームの山本達朗氏は話す。
サプライチェーンへの影響も大きい。「例えば、弁当工場では食材を調達しているのに、店舗側から発注できないために、準備していた食材を破棄せざるを得ないこともありました。業務に影響の出ないIT環境の実現が至上命題になっていたのです」と山本氏は振り返る。
課題解決のため、同社は中国のデータセンターにある店舗管理システムのベトナム移転を計画した。不安定な国際通信を回避するためだ。
IaaSの契約は日本の本社とすることになるが、他社のベトナムのIaaSは日本語サポートに対応していない。また店舗管理システムの開発・保守を担うのは中国のSIベンダー。移転プロジェクトをスムーズに進めるためには、中国SIベンダーとの調整も必要になる。
この要件を満たすパートナーとして、同社が選定したのがIIJである。IIJのグループ企業が提供する「HI GIO Cloud」は、ベトナム国内有数のISPであるFPT Telecomと共同で推進する本格的なクラウドサービス。高品質なIaaSも利用できる。「すでに他の日本企業も利用しており、実績もある。IIJには英語やベトナム語に精通したスタッフもいるため、安心して任せられると判断しました」と齊藤氏は語る。
通信の途絶によってシステムが止まる。この状況は一刻も早く解消したい。基盤移転を急ぐミニストップの要求を受け、IIJは迅速な対応力を示した。
2018年10月よりヒアリング、要件定義を実施。ミニストップの現地協力会社や中国のSIベンダーとの調整も同時並行で進め、IaaS基盤を構築するとともに、HI GIO Cloudと各店舗をつなぐネットワーク設定を完了。同11月末に約120店にのぼるベトナム全店舗のネットワーク設定を一斉に切り替え、HI GIO Cloudを新基盤とする店舗管理システムの稼働を開始した。
今回のプロジェクトは日本、中国、ベトナムそれぞれの母国語に加え、共通言語として英語も使う3カ国・4言語の国際プロジェクト。「煩雑なベンダー間の交渉や調整、契約もIIJのサポートのおかげでスムーズに進めることができ、環境構築完了から切り替えまで実質1カ月という超短期間で新基盤によるシステム稼働を開始できました」と山本氏は評価する。
HI GIO Cloudはベトナム国内にあるため、国際通信を介さず、各店舗との通信が可能だ。またベトナム中に張り巡らされたFPT Telecomの強固なバックボーンを利用することにより、 通信品質も大幅に向上した。
HI GIO Cloudに移行後は、大きな通信トラブルは発生していない。「常に安定して店舗運営ができるため、販売機会の損失が解消しました。工場に発注できずに弁当が作れないということもなくなり、食材ロスとそれに伴う投資の無駄も激減しました」と齊藤氏は満足感を示す。
以前はトラブルがあると、日本の本部にクレームがあり、その対応に追われていた。場合によってはベトナムまで出向き、対応にあたることもあったという。「今はトラブルの報告はほとんどありません。本部側が安心感を得られたことも大きなメリットです」(山本氏)
現在のベトナムの店舗数は約140店。店舗数は今後も拡大していく。同時にスマホアプリを使った新しい店頭サービスなども計画している。「店舗側の回線の増強やバックアップ回線の整備が今後の課題です。先を見据えた展開に向けて、IIJの提案とサポートに期待しています」と話す齊藤氏。
今後もミニストップはベトナムをはじめとする海外戦略を推し進め、グローバルなコンビニチェーンとして、さらなる成長を目指す。
※ 本記事は2020年1月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。