山野氏
当初は、少ないデータ容量で安価に利用できるSIMサービスを優先して探していたのですが、実はもう1つ問題がありました。「バリスタ デュオ プラス」は導入がしやすいレンタル専用のコーヒーマシンとして提供するため、企画段階から需要の集中が予想されました。それを避ける目的で、正式リリースより半月前の2019年11月1日から先行予約受付を専用サイトで行う計画でした。そのため、需要を予測してある程度まとまった台数を生産しておき、在庫として保管しなければなりませんが、その在庫保管中に基本料金などの費用が発生しない仕組みをもつSIMカードが必要だったのです。
山野氏
選定の決め手は大きく4つありました。第1は、機能性の高さです。先ほども触れた在庫保管中の費用について、IIJモバイルタイプIではSIMライフサイクル管理機能が充実しており、問題を解決できると思われました。端末の電源投入などで開通を開始できる「アタッチ」や、手動または指定日に開通できる「マニュアル」、本番利用の前に開通テストを実施できる「テスト&アタッチ」など、さまざまなトリガでアクティブ(開通)やサスペンド(中断)のタイミングをコントロール可能です。在庫保管時や通信中断時の費用負担を大幅に削減できると予想しました。
第2に、コストの優位性。IIJモバイルタイプIは他社サービスと比べても料金が低く抑えられているので、計画通りにリーズナブルなサービスを提供できると考えました。第3が、アベイラビリティ。「バリスタ デュオ プラス」では、タブレット端末に3GPP Release.11に準拠した組込み可能なLTE Cat4の通信モジュールを採用する計画でした。IIJモバイルタイプIはそれにも柔軟に対応し、IIJ MVNO事業部のエンジニアからも通信モジュールとSIMカードの適合性やコスト妥当性などを迅速かつ的確にアドバイスいただきました。
そして第4が、通信の可視化です。IIJモバイルタイプIにはAPI制御機能が備わっているため、回線の追加、開通、中断・再開などの処理を遠隔からでも簡単に実行できると考えました。また、タブレットの画面で提供する動画やコンテンツを重要なマーケティング戦略として活用するため、積極的に利用しているマシンとそうでないマシンとの差を把握しなければなりません。IIJモバイルタイプIのパケットシェアプランを活用すれば、利用の多いマシンと少ないマシンのパケット使用量を可視化し、他回線でシェアしてばらつきを平準化することもできると予想しました。
山野氏
2019年2月~4月にかけて、IIJモバイルタイプIのテストを実施。IIJのエンジニアと、開発パートナー会社とが連携して協力してくれたことにより、タブレットとSIMカードの整合性や、FeliCa決済センターとの厳しい通信条件もクリアすることができました。そして同年11月15日から、「バリスタ デュオ プラス」のサービスを正式に開始しました。
最大のメリットはやはり、SIMライフサイクル管理機能によって基本料金のほとんどをかけずに、出荷前のマシンを一定量備蓄しておくことが可能になったことです。そのおかげで、在庫期間中には余分な費用が発生せず、出荷が決まれば即座にサスペンドからアクティブにモードを切り替えることで、お客様のニーズに迅速に対応することができるようになっています。その後も、必要に応じて開通・中断・再開を遠隔で切り替えることも可能です。こうした機能は「バリスタ デュオ プラス」のようなコンシューマ向けIoTには不可欠なものだと実感しています。
また、SIMカードの取り付け作業は「バリスタ デュオ プラス」の運送業者が行っておりますが、SIMカードを台紙から切り離す際に使う専用の治具もIIJが供給してくれました。そうした細やかな配慮のおかげでSIMカードを慎重かつ安全に取り扱うことにつながり、接触不良や静電気によるトラブルも未然に防いでいるものと思われます。
山野氏
「バリスタ デュオ プラス」のレンタル利用台数の伸びとともに、引き続きIIJモバイルタイプIの導入を行う可能性があります。
※ 本記事は2020年12月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
FeliCa決済条件を満たし、タブレットとSIMカードの整合性を取ることが課題
「バリスタ デュオ プラス」の概要についてお教えください。
ネスレ日本 山野氏
「バリスタ デュオ プラス」は、累計で600万台(2020年末時点)の販売実績を持つ「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」の最新モデルで、キャッシュレス決済機能を搭載したレンタル専用のコーヒーマシンとして2019年11月にサービス提供を開始しました。オフィスやコミュニティ、店舗への設置を想定したモデルで、10インチタブレットのタッチ式ディスプレイを搭載し、お客様が簡単に記事・動画などのコンテンツのダウンロードや閲覧をできるようにしています。また、「ネスカフェ アプリ」でのQRコード決済のほか、NFCチップ付きの専用タンブラーや交通系ICカードによるタッチ決済をお申込みプランによって可能にしているのも特徴です。
これは貴社ビジネスをどのように変革するサービスになるのでしょうか。
山野氏
従来の「ネスカフェ アンバサダー」プログラムでコーヒーマシンを使用する際は、アンバサダーと呼ばれる職場やコミュニティの代表者が、現金で代金回収を行うことが一般的でしたが、「利用者からお金を集めるのが面倒」といったアンバサダーの声や、「硬貨を持ち合わせていないので精算が不便」といった利用者の声を多くいただいておりました。また、店舗などでは人手不足という課題もあり、「バリスタ デュオ プラス」ではこういったお悩みを解決するためにキャッシュレス決済を可能にしました。基幹商品である「ネスカフェ」を利用できるタッチポイントを増やし、コーヒーをより身近に感じていただくことは、当社のビジネス全体において重要なCX(お客様体験価値)向上施策だと考えています。
「バリスタ デュオ プラス」にどのような課題があったのかをお聞かせください。
山野氏
「バリスタ デュオ プラス」では手軽にキャッシュレス決済 もできるようにするため、オプションとして交通系IC決済サービスもご利用できるようにしました。しかし、交通系IC決済サービスをご利用いただく際には、4G回線の使用のお申し込みが必須となります。そのため、主に次の2つが課題として持ち上がりました。1つ目は、FeliCa決済の条件を満たすこと。交通系ICカードに利用されているFeliCaで代金を決済するためには、カードをリーダーにかざしてから0.1秒以内にカード認証・相互認証・データ読み取り・決済センターとの通信・データの書き込みまでを完了する必要があります。4G回線の通信環境が悪い環境でもその条件を満たさなければならず、搭載するSIMカードにはそうした厳しい決済レスポンス基準をクリアする品質が求められました。
課題の2つ目は、タブレットとSIMカードの整合性です。「バリスタ デュオ プラス」では、タブレットとSIMを別々に調達して組み合わせるので、その2つがきちんと機能するように設定して使えるようにしなければなりませんでした。Android OSのバージョンによっては、搭載したSIMカードにいくつかの設定を加えないと通信が正常に行われない場合もあるため、SIMカードを提供するキャリアが必要でした。