物流による新たな価値創出を図り、社会の発展に貢献する日本通運。ワールドワイドな総合物流サービスを支えるITシステムは、同社の成長の原動力である。しかし、従来のITシステムは長年の運用により、サイロ化が加速。そこで2009年からオンプレミスによるプライベートクラウド化を推進し、すべてのIT基盤の標準化・仮想化を目指した。
同社のシステムは本番環境に仮想サーバが約2,000台、災害対策用サイトに約1,500台の計3,500台で構成され、ストレージ容量は2PB超に及ぶ大規模なものだ。しかし、オンプレミスのため、サーバプールへのリソース追加やシステム監視に伴う運用負荷が増大。人的作業を軽減できず、インフラの柔軟性という面でも課題を抱えていた。その結果、日本通運グループのITシステムの運用構築を担う日通情報システムが中心となって、クラウドへの全面移行を検討した。
検討段階で同社は各クラウドの徹底調査を行った。「実績のあるクラウド事業者のクラウドサービスは一企業が対応できるレベルをはるかに超えた高い信頼性・可用性・セキュリティを確保していることが分かりました」と同社の永瀬裕伸氏は述べる。
そして、候補のクラウド事業者に対してRFIを実施。5年間のTCOについてもコストシミュレーションを行った。
最もTCOの削減効果が高いのは、すべてのシステムをクラウドへ移行した場合で約40%の削減効果が得られるが、サーバ価格の下落もあり現行システムすべてを同様にオンプレミスで更改した場合でも約30%の削減効果が見込める。一方、クラウドの活用率を70%にした場合の削減効果は26%で、オンプレミスを更改した場合の30%を下回る。「このことから『中途半端な移行は運用コストも含めて逆効果になる可能性が高い。やるからには全面移行しかない』という結論に達しました」と永瀬氏は語る。
その基盤として同社が選定したのがIIJ GIO VWシリーズと外資系クラウド事業者のA社である。2つのクラウドを選んだのは、それぞれの特性を活かすためだ。
A社は先進性・機能性に優れているが、プラットフォームは従来のオンプレミスとは異なるため、移行には新たな作り込みや検証が必要になる。そこで柔軟な課金体系のメリットを活かし、主に新規アプリケーションの開発・本番環境として利用することにした。
それに対し、IIJ GIO VWシリーズはVMware仮想化プラットフォームで構成されており、従来のシステムをそのまま移行できる。「親和性の高さを評価し、物流事業の根幹をなす国内主要システムの基盤に選定しました。既存環境と高い親和性を持ちながら、A社のクラウドサービスと比較してもコスト面で遜色がない点も大きな魅力でした」と同社の山口健治氏は語る。独自APIを使用せず標準OSや商用ミドルウェアの利用を前提に開発されているため、汎用性も高い。
またIIJ GIO VWシリーズは一般的なクラウドでは提供できない部分までカバーできるため、ハイスペックな開発・本番環境用としてのサーバ利用も念頭に置いている。更に、国内にデータセンターを持つ"国産クラウド"である点も評価した。「基幹系システムを移行するため、システムやデータの所在を明確にしておきたかったのです」と山口氏は続ける。IIJは国内複数のデータセンターにクラウド基盤を持ち、東日本と西日本のセンター間で多くのトラフィックが発生しても追加費用はかからない。A社では実現できない国内遠隔地でのDR対策を最適なコストで提供できる点も大きな決め手になった。
クラウド事業者としての安心感も導入を後押しした。「IIJのクラウドサービスは実績が豊富なので、ビジネスニーズに対応した完成度の高いサービスとしてすでに作り込まれているという印象を持ちました」(山口氏)。更に、「サーバやネットワーク、セキュリティなどもクラウド担当者が熟知しているので、個別のエンジニアと打ち合わせを持つ必要がなく、話が通りやすいです」と山口氏は評価する。
こうして同社は2014年4月から「マルチクラウド」による移行プロジェクトに取り組んだ。現在はIIJ GIO VWシリーズ上に連結会計システム、人事システムの移行を完了、2015年度には貨物トレースシステムなどを移行予定だ。基幹系を支える基盤として採用したIIJ GIO VWシリーズは、マルチクラウドの中でも利用割合は高い。
移行プロジェクトは動き出したばかりだが、「IIJ GIO VWシリーズはオンプレミスと同じ環境、同じ使い勝手で運用できます。検証テストも容易なので、スムーズな移行が可能です」と同社の下田よしの氏はメリットを述べる。計画メンテナンスがある場合も事前にアナウンスするので、社内調整をつけやすいという。「物流を支える基幹系を止めることなく運用継続できるのは大きなメリットです」(下田氏)。
今後はサーバ更改のタイミングで順次移行を進め、約5年間かけて2019年には全システムをクラウドへ移行する計画である。それが完了すれば、シミュレーションで得られた40%のTCO削減が可能になる。更に将来的にはクラウドのメリットを活かし、国内システムを海外拠点でも利用する予定だ。
「クラウドサービスの進化スピードは目を見張るものがあり、基幹系を含む全社システムの基盤として必要十分な機能を備えています。今後はDockerのようなコンテナ型仮想化技術を活用したクラウド間のデータ移行ツールの提供に期待しています」と話す山口氏。
IIJ GIOを中心とするマルチクラウド戦略により、オンプレミスからクラウドへの全面移行を進める日本通運。インフラの運用・保守という"贅肉"を徹底的にそぎ落とし、より戦略的なIT活用に注力することで、グローバルロジスティクス企業として更なる成長を目指す考えだ。
※ 本記事は2014年10月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。