福井氏
第1は知名度です。弊社のお客様の中には安全性を重視する企業も多く、SIMを提供する通信会社の信頼性を気にされる場合もあるほか、通信品質が低い場合はNossa360サービス自体の品質も疑われてしまうので、できるだけそうした懸念は排除したかったのです。IIJはMVNOの中では真っ先に思い浮かぶほどの国内屈指のブランドです。IIJモバイルタイプIはNTTドコモの無線網を活用するため、通信可能エリアの広さ、通信の安定性、通信速度などどれもが優れたサービスなので、多くのお客様にも納得いただけると考えました。
第2は通信量などの一元管理のしやすさです。Nossa360のトライアル段階では、他社の安価なSIMを活用した状態で一部のお客様にテスト運用をしていただきました。しかし月に数ギガのパケット枠の中で、パケットを買い増す必要があるのかなどの管理はNossaが行っています。使用状況を確認するために、SIMごとにアカウント名やパスワードを入れ替えながら、専用サイトにログインとログオフを繰り返す作業が必要でした。この運用は非常に効率が悪く、抜本的な対応策が求められました。IIJモバイルタイプIは、「IIJサービスオンライン」の管理画面上でSIMごとの使用状況を一元管理できるので、非常に便利で作業効率も格段に上がると感じました。
第3はNossa360サービスとのセット提供です。IIJモバイルタイプIの採用により、360度カメラ、専用スマートフォン、専用SIM(IIJモバイルタイプI)をセットで提供することが可能になり、会社支給や個人所有のスマートフォンを使う場合の設定変更やセキュリティ管理などを追加で行う必要がなくなります。また、IIJとはウェブ経由で商談を開始しましたが、プリセールスの対応がとても丁寧で分りやすく、実際にデモストレーションを見せてもらったのでプランの違いも正しく理解できたほか、SIMを再販売するためのパートナープログラムも充実していたので採用を決めました。
福井氏
本格的な拡販はこれからですが、大手ゼネコンや大手物流会社において遠隔臨場や安全パトロールなどの用途で活用いただき、非常にポジティブな評価もいただいています。遠隔臨場とは、動画撮影用のカメラによって取得した映像及び音声を利用し、遠隔地からWeb会議システムなどを介して「段階確認」や「材料確認」、「立会」を行う技術のことで、受発注者の作業効率化や、契約の適正な履行に向けた施工履歴管理などの目的があります。遠隔臨場を実施する上で、スマートフォンなどを使って現場を撮影すると、意図的に見せたくない箇所を隠そうとすることもできてしまいます。Nossa360ならばそれを防止する効果もあり、見るべき人が必要と考える場面を能動的に選んで確認できるので、臨機応変に確認した上で判断や指示を出せます。
また、安全パトロールとは、事故を未然に防ぐための現場の巡視作業のことで、事故につながる危険な行動や状態がないかプロの目で現場を見て回り、危険箇所の是正を提案する業務を指します。作業現場は労働安全衛生法に従うことが定められていますが、それと並行して企業内の安全管理の専門家が現場を実際に訪れて指摘します。それをNossa360で実施できれば、移動時間や交通費・人件費のコスト削減にもつながります。ある大手物流会社では事故をゼロにする取り組みを行っていますが、物流拠点は全国に数千箇所もあるため、安全パトロールを実施するコストは膨大です。その業務の一部をNossa360で補完できれば専門家の負担を大幅に軽減する可能性もあります。
福井氏
大きく3つあると考えています。1つ目は、現場での安定した映像配信が可能になったことです。IIJモバイルタイプIを導入したNossa360をお客様が利用される様々な現場に持ち込んで運用してみましたが、いずれの場所でも良好な結果となりました。NTTドコモの回線を使った安定した通信と広いサービスエリアがNossa360のサービス品質を担保する重要な要素となり、お客様にも安心と信頼を与えているようです。
2つ目は、Nossa360に必要な要素を全てワンストップで提供できるようになったことです。IIJモバイルタイプIの採用により、専用スマートフォンも含めたパッケージとして必要機材を準備することができ、お客様と弊社の双方で手間を削減するなどのメリットが得られました。
3つ目は、在庫管理のしやすさです。IIJの「SIMライフサイクル管理」機能を活用することで、新規のお客様はNossa360のご契約完了後に最短5分ほどで運用開始できるようになりました。アクティベート前のSIMを低コストで確保できる点もビジネス的には大きなメリットです。今後はIIJモバイルタイプIのSIMを多めにストックしておき、迅速に提供できる強みも訴求したいと思っています。
福井氏
現在は建設業や物流業でNossa360の導入が進みつつありますが、造船、製造、鉄道などの社会インフラ関連でも危険な現場が多いため、そうした業界にも安全パトロールでの使い方を積極的に提案していく計画です。また、日本企業が海外の現場などで業務を行うにあたり、言語の違いを映像で補完してくれるNossa360の活用機会は多いと考えられるため、まずは中国や東南アジアなど時差の少ない地域でのグローバル展開も視野に入れています。
更に、Nossa360の機能を応用し、リアルタイムではない過去の現場を見られるサービスの開発も検討しています。360度カメラで撮影した映像を、図面や地図上の位置情報と、時系列でいつ撮影したのかという履歴情報とをセットで蓄積・整理するサービスを現在トライアルしているところです。それにもIIJモバイルタイプIを採用する可能性は十分に高いと考えています。
福井氏
Nossa360のビジネスはこれからが本番ですが、IIJのサポートによってスムーズにスタートを切れたことは大変満足しており、非常にありがたく感じています。今後はクラウドのIIJ GIOなどと連携した新たなサービスの開発も考えていますので、最適なプランの提案などいただきながら一緒にビジネスを進めていければ嬉しく思います。
※ 本記事は2022年5月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
現場で安定した通信を実現して法人契約が可能なSIMへの乗り換えが急務
貴社の概要についてご紹介ください。
福井氏
Nossaは、360度カメラを用いた空間映像情報共有ソリューションを開発するために、2019年に立ち上げたスタートアップ企業です。360度カメラとは、上下と水平の360度全方向を一度に撮影できるアクションカメラの一種です。単焦点式カメラでは撮影不可能だったユニークでダイナミックな写真や動画を生成できるのが特徴です。この市販の360度カメラとスマートフォン、そして弊社が独自に開発したアプリケーションやソフトウェア、クラウド基盤を組み合わせたのが、Nossa360というサービスの基本になります。
Nossa360サービスの特徴についてご説明ください。
福井氏
Nossa360最大の特徴は、360度カメラを持ち込んだ現場の映像を遠隔地へ低遅延で配信できる点です。360度カメラとスマートフォンはWi-Fiで接続し、記録した映像はスマートフォンからLTE回線で弊社のクラウド基盤へ転送。それにより、遠く離れた場所にいる複数の利用者と、現場の空間映像情報を共有しながら、現場の撮影者(配信者)と利用者、あるいは利用者同士がインタラクティブにコミュニケーションできるようになります。また、利用者は360度の空間映像全てを自由に見回せるため、各自が見たい角度や方向を変更することで、現場の状況をほぼリアルタイムかつ能動的に把握しやすくなります。撮影者(配信者)に撮影場所や方向を細かく指示する必要がなく、時間がかる場所への移動の回数や人員を減らしてコストを削減できる可能性が生まれます。Nossa360は、様々な市販の360度カメラに対応しているほか、利用者が360度映像のどの部分を見ているのかを可視化する機能など、360度映像とコミュニケーションに必要な機能を充実させています。
Nossa360の通信機能における開発時の課題についてお聞かせください。
福井氏
Nossa360では、市販の360度カメラと、お手持ちの会社支給もしくは個人所有スマートフォンを組み合わせれば利用できます。しかし、360度カメラはメーカごとに機能や使用条件が異なっているほか、会社支給のスマートフォンでは利用可能なパケット量に制限が設けられている場合も多く、円滑な運用に支障が出ることもあります。そのため、現在は弊社が最適な360度カメラとNossa360用スマートフォンをセットでご用意し、それらをレンタルや買い取りという形で活用いただくことを推奨しています。そこで最も苦労したのは、スマートフォンとクラウドとを結ぶLTE回線の選択でした。
Nossa360の開発では、可能な限り通信量を抑制する仕組みや、ネットワークが切断しても迅速な再接続を可能とする機能などを盛り込みました。しかしNossa360を現場に持ち込むと通信が不安定になったり、通信そのものができなかったりする場合があったのです。建設業の現場は、山間部や地下、ダム周辺、鉄塔付近、トンネルやマンホールの内部など比較的、携帯電話がつながりにくい環境になります。当初活用していたのは他社の安価な料金プランのSIMでした。中には法人契約ができないSIMや、現場に持ち込んでテストをしたところつながりにくく安定して通信できないSIMもあり、Nossa360のサービス開始には法人契約が可能で、現場でも安定した通信が可能なSIMに乗り換える必要があったのです。そこで、2022年10月から通信手段の再検討を開始しました。