清水氏
昨今の半導体不足の影響で、2022年にはオンプレミスの仮想デスクトップ環境のハードウェアを増強しようとしても、製品が入手できるまでに半年といった期間がかかることがありました。これでは迅速な対応はできません。必要なリソースをすぐに活用できる環境を手に入れたかったということも課題の1つでした。全社的なクラウド化の流れもありましたし、リソースの増強への対応を考えるとクラウド利用が第一の選択肢でした。
清水氏
複数のベンダーにRFPを提出し、提案をいただきました。その中でも多かったのは、クラウドを利用するとしても、従来のオンプレミスのシステム構築に近い提案でした。RFPに適合するように、クラウド上にウォーターフォール開発でシステムの作り込みをしていくイメージです。一方で、IIJは「IIJ仮想デスクトップサービス/Citrix Cloud for Azure Virtual Desktop」を中心に複数のサービスを組み合わせて、クラウドを有効に活用していく提案でした。
別所氏
サービスとして品質を担保した上で提供しているならば、将来的なバージョンアップなどにも迅速に対応してもらえるため、最新の機能や性能を過不足なく使えます。また、初期費用の比率が低いので、自社の用途に合わないようならば、利用をやめることを検討しやすい点もありました。
別所氏
オリックス銀行のネットワークは、オリックスグループの環境を利用しています。今回、IIJ仮想デスクトップサービスを導入するに当たって、インターネットアクセスの部分を切り出して、オリックス銀行が独自でIIJのネットワークを利用することにより、個別にセキュリティ対応が実現可能となることを狙いました。
清水氏
セキュリティに関しては、外部からの攻撃をより早く発見して対応できる体制や、情報資産が外部に流出しない体制を整えることをRFPの要件としました。ですが、銀行だからという特別なことはなく、一般のセキュリティの考えに基づいています。
清水氏
IIJのサービスに統一することで可視化と管理が同時にできる形を求めました。クラウドサービスの利用状況を可視化するCASB(Cloud Access Security Broker)、Webフィルタリングやアンチウイルスなどのセキュリティをサービスで提供するSWG(Secure Web Gateway)を利用しています。
別所氏
全体で約1000アカウントを導入しています。2022年12月末に対象者全員に配布を完了しました。
清水氏
タイムテーブルは、RFPを提出したのが2021年8月です。各社の説明を聞いた上でIIJに決定し、2022年1月にプロジェクトをキックオフしました。同年4月までに要件定義をして、6月までに設定し、8月からUAT(ユーザ受け入れテスト)を行いました。11月から段階的に配布を始めて、2023年1月から本格稼働を開始しています。
清水氏
IIJが提供している既存のサービスを組み合わせて、オリックス銀行の要件を満たすシステムを作るわけですから、両者の間にはギャップが出てきます。このギャップを埋めるところが1つのハードルでした。IIJは、個々のサービスを提供するだけでなく、プロジェクトマネージャ(PM)が中心になって社内でも課題解決に向けた取り組みを進めてくれました。
別所氏
PMの説明が分かりやすかったことや、エンジニアもスピーディに対応してくれたことなどもあって、課題の解決に向けてプロジェクトがスムーズに進みました。
オリックス銀行 髙橋優依氏
UATの間も、改善してほしい部分や不具合が生じている部分についてIIJに相談すると、すぐに対応して解決してくれたところが印象的でした。
髙橋氏
ユーザの1人としては、ログイン時間が改善されて使いやすくなりました。
別所氏
性能問題の心配がなくなったことは大きいです。スケールアップが必要になるような万が一のときには、費用面の心配はありますが、性能的にはすぐに拡張できる点に安心感があります。
清水氏
クラウドサービスを利用することで、私たちはインフラ部分を保守運用する必要がなくなりました。ソフトウェアのバージョンアップやハードウェア障害など、これまでは夜中に呼び出されることもありました。こうした保守運用をクラウドサービス側に任せられることで、人的リソースを他の業務に配分できることは大きな成果です。
清水氏
今後はEX(従業員エクスペリエンス)の向上を更に進めていきたいと思います。新しい機能やサービスを利用した生産性向上に、オンプレミスの仮想デスクトップ環境では迅速な対応ができませんでした。今後はEX向上を念頭においてシステムの整備をしていきます。
クラウド活用も、これまではIaaS(インフラのサービス利用)の形態で、既存のシステムをクラウド上に載せる形が中心でした。今後は更にクラウドネイティブな技術を活用する方向で検討をしていきたいと思います。IIJにはこれからも新しい提案をしてもらって、更にコアなシステムの構築にも協力してもらいたいです。
※ 本記事は2023年3月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
VDI仮想基盤の性能不足解消が不可欠
情報システムのクラウド化を進めているとのことですが、進捗はいかがですか。
オリックス銀行 清水直彦氏
2017年頃から、オンプレミスで構築してきたシステムのEOSなどのタイミングで、順次クラウド化を進めてきました。2023年3月末時点で、情報システム全体の78%がクラウドに移行しています。現時点では情報系が中心ですが、勘定系システムの一部もクラウドに移行しています。今後の計画として、更に金融機関としてのコアなシステムのクラウド化も検討しています。スピード感、アジリティを求めるために、クラウドファーストでシステムを検討するようになっています。
VDIは、どのようなきっかけで更改の検討が始まりましたか。
清水氏
VDIは2017年に導入し、オンプレミスのハードウェア上で運用していました。更新のきっかけはVDIのEOSです。その時点での課題は、VDI 仮想基盤の性能不足でした。オンプレミスの環境では利用者の増加やアプリケーションの要件によるリリース増加要求に対して、ハードウェアの追加により性能を担保していましたが、特にEOSが近づいてからはハードウェアの増強を控えることになり、例えば朝の出勤時刻にログインが集中すると、ログインできるまでの時間がかなりかかるようになっていました。
仮想デスクトップは、どのように利用していたのでしょうか。
オリックス銀行 別所洋輔氏
コロナ禍以前は、オフィスでの利用です。デスクトップ型のシンクライアント端末からVDIにアクセスしていました。一方で、働き方改革への取り組みとして社員にモバイルPCとスマートフォンを支給し、リモートワークなどへの対応も進めていました。コロナ禍ではこうした対応が功を奏し、リモートワークでモバイルPCを使ってVDI接続することに特段の問題は起こりませんでした。
更改時に注意した点を教えてください。
清水氏
業務の生産性に悪影響を及ぼさないために、Windowsによる操作系の継承は不可欠でした。利用者の視点からは、前述したようにログインの遅延を短縮したいという思いがありました。更に、オンプレミスで構築していた従来基盤では、業務効率化を推進するためには性能不足が懸念されました。例えば、コラボレーションツールとしてMicrosoft Teamsを活用していくと、個人に割り当てたメモリを多く消費するなどして他の業務に支障が出るリスクが高まっていました。