吉井氏
自販機はロケーションオーナーのビルや施設などに設置することが多い上に、頻繁に移設や撤去、新設を繰り返すことが多く、有線の通信インフラに依存するのが困難です。そのため、かなり以前から無線化が課題となっており、90年代後半に2GのPDC(Personal Digital Cellular)方式のパケット通信用アダプターを用いたM2M(Machine to Machine)通信が行われてきました。しかし通信料金の高さや通信品質の不安定さという問題があったため、弊社は独自で自販機に搭載するための通信機を開発するプロジェクトを立ち上げ、通信会社個々の仕様に左右されないプロトコルフリーの通信モデム「moderno」(モデルノ)を開発しました。それは現在も活用しているのですが、ど冷えもんでは販売管理や在庫管理、機器メンテナンス、QRコード決済など、より複雑で高度なデータ通信が必要となったため、LPWA(Low Power Wide Area)を採用しようと考えました。sigfoxやLoRaWAN®(Long Range Wide Area Network)なども検討しましたが、自販機の特性に合わなかったり設置場所によっては無線インフラが整っていなかったりする場合もあることから、最終的にLTE-MのSIMを採用することにしたのです。
吉井氏
弊社は、20年前から自販機のソリューションも提供してきた実績があり、機能開発はもちろんのこと、特に運用設計が重要であると考え、IT(情報技術)とOT(運用技術)をバランス良く組み合わせた「IOT」でサービスを提供するように心がけています。飲料メーカやオペレータなど自販機を提供する会社に対し、設置から運用までトータルにサポートを行っているため、誰がSIMを装填するのか、いつSIMを開通するのかまで配慮する必要があります。そのため、SIMについては機能の優位性だけでなく、通信品質や運用サポートの信頼性にも注目して選定しました。
通信品質においては、IIJモバイルタイプIはNTTドコモのモバイルネットワークを利用しているため、安定性や信頼性、サービスエリアの広さについては申し分なく、フルMVNOとして数多くのIoT(Internet of Things)製品へSIMを提供してきた実績を高く評価していました。一方、運用サポートの信頼性においては、SIM開通のAPIが提供されている点や、回線の開通・一時停止などの運用管理がIIJサービスオンライン上で容易に可能な点にも注目しました。また、技術サポート体制がしっかりしている上に、営業のレスポンスが早いことなども重要な安心材料とも言えます。
更には、他キャリアの通信プランと比較して、IIJモバイルタイプIにはコスト競争力があった点も選定の大きな要因となりました。
茂木氏
ど冷えもんの最初のモデルは2021年1月に提供を開始しました。その後出荷台数は順調に推移し、2022年12月末時点で6,000台を超えました。発売当初は飲食店を中心に設置台数が伸び、その後は大手飲食チェーンにも積極的に導入いただいています。また、飲食とは全く異なる業種の企業もど冷えもんを新たなビジネスモデルとしてご採用いただくようになり、今では駅ナカや鮮魚市場、駐車場、食品製造工場敷地、金融機関の店舗前など、多様な場所でど冷えもんが活躍している状況です。また、非接触・非対面の地方アンテナショップとしての活用も増えています。
茂木氏
複数あると考えます。まず、管理負担の削減と通信コストの抑制です。自販機業界はコスト削減要求が厳しく、一般の飲料自販機の場合は工場出荷段階でなるべく不要な機能は省き、売れている自販機にだけに必要な機能をつけることが業界の商慣習になっています。しかし、ど冷えもんにはタッチパネルをコントロールするPCボードが搭載されているので、工場出荷段階からSIMを装着し、設置と同時に遠隔監視を可能にする構想が最初からありました。SIMを装填し開通した状態で出荷すると通信料金がかかってしまう場合もありますが、IIJモバイルタイプIはSIMライフサイクル管理機能によってサービス開始のタイミングを自由にコントロールできるため、IIJサービスオンライン上で迅速に設定し、稼働していない間の通信料金などのコストも抑制することができます。ど冷えもんの全数にSIMを装填して出荷する運用ができるようになったことで、管理負担も大幅に削減できています。
吉井氏
また、作業負担の軽減にも貢献しています。弊社はIIJが提供しているAPIを活用して「クラウド開通アプリ」を開発。このアプリによって、設置担当者が単独でSIMとサンデンRSクラウドとの接続確認まで一気通貫に行うことができ、短時間で開通が完了します。スケジュール調整や設置作業時の電話のやりとりといった工数と時間が削減され、スケジュール調整に係るストレスも軽減。土日も開通できるようになり、それらを金額に換算すると大幅にコストを削減できている可能性があります。
吉井氏
これまで弊社は飲料メーカやオペレータ、コンビニエンスストアなどBtoBビジネスを中心に行ってきましたが、47都道府県の全てに設置されているど冷えもんの位置と商品情報・在庫状況を地図上で調べることができるスマートフォン向け検索アプリ「ど冷えもんGO」は、SNSと連携し写真の投稿や商品レビューを書くこともできるため、多くのど冷えもんファンと情報をシェアすることが可能です。そのためBtoBだけでなくその先の消費者の方々を意識する良いきっかけとなりました。「ど冷えもんGO」を通じてど冷えもんのネットワークが構築されるだけでなく、消費者の方々とど冷えもんの出会いを創造していくことができればと考えています。また、温度モニタリングシステム「ON-Reco」(オンレコ)を開発し、これにもIIJモバイルタイプIを活用しています。ON-Recoは、1つのルータに最大20個までの温度センサを無線でつなぎ、温度データのエビデンス管理にご利用いただけます。例えばコンビニエンスストアでは壁ぎわに設置した冷凍・冷蔵ショーケースの他、店内中央に配置された平形(平台)ケースもあり、それらのメーカが異なる場合は、店員さんが個々に温度をチェックする必要がありました。ON-Recoなら個々のケース内に温度センサを設置するだけで、ルータに格納したIIJモバイルタイプIがサンデンRSクラウドにデータを集め、一括遠隔管理できるようになります。今後はそうした業界の垣根を越えたサービスを提供していきたいと考えています。
茂木氏
IIJの営業と技術の親身なサポートのおかげで、ど冷えもん開発プロジェクトの発足から現在に至るまで、大きなトラブルもなく製品を提供でき、シリーズを通して多くのお客様に高く評価いただいています。今後も弊社製品はIIJの通信ネットワークを活用して、より良いサービスを国内外のお客様へ提供していきたいと考えていますので、引き続きサービスとサポートの提案を期待しています。
※ 本記事は2023年2月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
ど冷えもんの販売管理情報をリアルタイムにクラウド連携させる課題にチャレンジ
貴社の事業概要、主要製品、業界での優位性、最近のビジネス上のトピックなどについてご紹介ください。
茂木氏
弊社は、店舗用ショーケース、飲料・食品自動販売機、医療機器・用具、電気通信機などの製造・販売を行う企業です。繊細に温度調整が可能な精密温度管理技術や、長時間鮮度を保つ鮮度保持技術、未来型の搬出技術などで業界における優位性を有しています。また、主力の自動販売機・ショーケースだけではなく、飲料を注ぐとシャーベット状になる過冷却機、新型コロナウイルスワクチン運搬冷凍コンテナなど、時代のニーズに即した新製品も多数開発しています。更に最近では、弊社オリジナルの冷凍食品自動販売機「ど冷えもん」シリーズがTVや雑誌など多くのメディアに取り上げられたことで販売が急拡大し、飲食店を支援できたことに加え、冷凍食品自動販売機のマーケット拡大に寄与したことが大きなトピックとなっています。
ど冷えもんの開発目的やビジネスモデルについてもう少し詳しくお聞かせください。
茂木氏
ど冷えもんは2019年3月に開発チームを立ち上げました。それまでも冷凍自販機の開発に向けて様々な試みを行っていましたが、コンビニエンスストア向けの冷凍・冷蔵ショーケースの製造・販売を通じて、冷凍食品の伸びが近年顕著になってきた状況変化を受け、24時間どこでも冷凍食品が購入できる自販機の開発に着手したのです。
飲料自販機のマーケットは現在飽和状態にある中で、自販機全体に占める食品自販機のマーケットはまだ非常に小さく、特に冷凍食品向けの自販機は今後成長すると確信したことがど冷えもんのビジネスモデル構築につながりました。
バリエーションも豊富になり、購入方法も多様化した冷凍食品の価値を見直すきっかけとしてど冷えもんが役立つとともに、ぐるなび総研の主催でその年の世相を反映し象徴する食を選定する2022年「今年の一皿」に“冷凍グルメ”が選ばれるなど、そのブームの火付け役にもなったと自負しています。今後もシリーズのさらなる充実を図り、冷凍食品自販機のマーケットの拡大を図っていく予定です。
ど冷えもんの開発においてどのような課題があったのかお聞かせください。
茂木氏
従来の一般的な自販機は、1日に1回、主に夜間に通信する仕様の機種が主流です。一部にはオペレーションの直前で在庫状況を把握する機能を持つ機種もありますが、多くはリアルタイムに在庫状況の把握は行っていません。ど冷えもんの開発においては、オーナーに対し商品の在庫情報などを迅速かつ正確に提供するため、ど冷えもんの販売管理情報をリアルタイムに弊社の統合プラットフォーム「サンデンRSクラウド」へ連携させる課題にチャレンジしました。
また、ど冷えもんには、利用者が商品を購入する際に操作するタブレットサイズの液晶タッチパネルが搭載されています。商品名・商品画像・販売価格などが表示され、商品を一箇所で選択できるという利便性のほか、管理担当者が現場に行かずとも、自動販売機側のデータを遠隔から確認・更新でき、商品を補充した場合もサンデンRSクラウドと同期がとれるように機能開発を行いました。そうした、クラウドとの高密度でリアルタイムな通信の実現が大きなテーマでした。