澤氏
温度の確認作業が社員の大きな負担になっているのを見て、どうにかしなければと思っていました。そこで2020年に、ITツールの導入を支援する「ものづくり補助金」という制度があるのを知り、それを契機に半年ほどかけて色々な企業のサービスを調べ、コストなどを詳細に比較しました。温度センサーのとりつけから帳票作成の自動化システムまでをトータルで提案してくれる企業などもありましたが、どれも導入コストが大きすぎて、断念することもありました。
色々調べる中で、IIJさんのソリューションはどこよりもコストがおさえられていると感じました。また、IIJさんは通信分野のプロフェッショナルであり、今後の色々なサポートも含めて安心感がありました。たとえば弊社の場合、温度管理が必要な場所が点在していますから、電波がそれぞれの場所にきちんと届くのかといった心配がありました。しかしIIJさんの資料を読むと、(LPWAという通信技術を使うので)電波自体は強くないが、中継地点(ゲートウェイ)を置くことで解決できるという、具体的なことがちゃんと書かれていたのです。
清水氏
私は正直なところ、資料を読むのはあまり得意ではありません。でもIIJさんがよかったのは、こまめに現場に来て電波を測定してくれたり、色々とかみくだいて説明してくれたりしたことです。そうして会話する中で、これならできそうだというイメージができてきました。
清水氏
温度管理が必要な場所は、冷凍庫が3つ、冷蔵庫が2つ、加工場が2つと、合計7か所です。これらすべてに温度センサーを1個ずつとりつけています。加工場では壁に磁石でくっつけるタイプのセンサーを、冷凍庫・冷蔵庫ではS字フックなどにひっかけるタイプのセンサー(プローブ型)を使っています。プローブ型の場合は、温度計は冷凍庫・冷蔵庫の中にありますが、データを発信する部分は、プローブを介して外側についています。また、各センサーは出入口に近いところにつけています。温度の変化は出入口のドアの開閉時に起こりやすいのですが、奥にセンサーをつけても、その変化が検知されにくいためです。
温度データは1時間に1回の頻度(24時間)で取得しています。7か所にとりつけたセンサーのデータは、IIJのSIMが搭載されたゲートウェイに集約され、さらにIIJが管理するクラウドシステムに転送されるしくみになっています。
清水氏
パソコンのデスクトップにあるアイコンをクリックすると、管理画面が開きます。そこで記録された温度データを閲覧できます。そのデータをエクセルに出力し、印刷することもできます。また、温度の異常を検知した場合には、アラーム通知が担当者(醍醐幸治氏、以下参照)のスマートフォンに届くようになっています。
清水氏
当初心配していたことの一つが、温度センサーの性能でした。生マグロの保管に必要な-30℃~-60℃という超低温は、普通の温度計では対応できないからです。しかし、IIJさんが提供してくれた温度センサーは性能がよく、問題なく記録できています。また、超低温の冷凍庫は壁の厚さが70cmもありますから、冷凍庫の中に無線機能のついたセンサーをつけても、電波が十分に届かないのではないかという心配もありました。しかし、そこはIIJさんに相談にのってもらいながら、プローブ型のセンサーなども活用して、安定して温度を記録できるシステムをつくることができました。
新生水産 醍醐幸治氏
従来は毎日市場の中を歩き回りながら、「この(温度確認の)時間を使って他の仕事ができるのに……」と感じることもありました。今では温度管理の手間が完全になくなり、とても仕事の効率がよくなりました。IIJさんには本当に感謝しています。
澤氏
社員の負担を減らすことができた一方で、温度データの取得回数を1時間に1回に増やすことができたということも、非常に大きな効果です。弊社は社員数が少ないため、これまでは1日に午前/午後の2回しか温度を確認できませんでした。大きな企業であれば、もっとたくさんできるでしょう。弊社もできることなら1日に3回も4回も確認したいところでしたが、それはコスト的に不可能でした。
しかし、1日に午前/午後2回の確認だと、万が一商品の品質に問題が発生した場合にどうなるでしょう。たとえば、午後のいずれかの時間帯に出荷した商品に問題があった場合、午後の在庫はすべて出荷止めにしなければならないのです。ところが、24時間中、1時間おきにデータを取得していれば、何か商品の異常が発生しても1時間以内の出荷や生産の停止におさえられるのです。これは企業のリスクヘッジとしてものすごく大きな効果です。
澤氏
温度管理だけでなく、デジタル化したい帳票類は膨大にあります。できれば、すべての業務データを一元管理できるようなしくみがあればありがたいです。弊社は小さな企業であり、社員が帳票をつくる作業はとても大きな負担になります。デジタル化は中小企業こそ導入する価値がものすごくあると感じています。ただ、すべての帳票作成をデジタル化するには、まだコスト的に厳しい部分があるのが現状です。
清水氏
まず一つは、従業員の健康管理のデータです。また工場内ではマグロを解凍するのに温水を使うのですが、その水温管理。あとはラベルの情報(原材料、原産地など)や出荷先の情報、在庫表、設備の修理状況など。他にも色々ありますが、すべてを網羅するのは難しいですね。まずはHACCPで義務化されている情報管理を徹底することが優先です。
ただ、なかにはHACCP以上の要求をされるお客様もいます。重要なのは、何か問題が発生したときに、「弊社はこういう管理をしています」という証拠をきちんと出せることです。そのためにはやはり製品のトレーサビリティを常に明らかにできるようなシステムがあればよいですが、時代の変化は速いので、システムを導入してもそれが時代遅れになってしまうということもあります。デジタル化はもちろん有用ですが、常に時代の変化に対応できるようなシステムをつくることが重要になってくると思います。
※ 本記事は2022年2月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
HACCP対応にともなう従業員の負担を軽減したい
新生水産様の事業概要を教えてください。
新生水産 澤浩二氏
弊社はマグロの販売や加工を行う企業です。国内の各漁港で水揚げされた生マグロを現地で一定の基準で選別、分割して、外食店やスーパーに出荷します。一方で2016年からはねぎとろの製造にも力を入れています。私は以前にねぎとろを製造する企業におり、そのときの工場長が隣にいる清水でした。清水はマグロの切り落としや加工に30年間携わってきたエキスパートです。その清水が2018年に弊社へ転職し、それ以来はねぎとろの販売の売上が増えて、現在では全体の売上の5割を占めています。
また、弊社では2021年5月に、船橋市場で初となる「JFS-B規格」の認証を取得しました。食品衛生法の改正により、2021年6月から食品事業者の「HACCP(ハサップ)」完全義務化が開始されましたが、一般社団法人食品安全マネジメント協会が認証するJFS-B規格は、そのHACCPの基準を包括した複合的な規格となっています。
御社にはどのような設備があるのでしょうか?
新生水産 清水太一郎氏
現在は冷凍庫と冷蔵庫、加工場が合計で7か所あります。水産物の保管は一般に-18℃以下で行うという規定がありますが、マグロだけは-25℃以下の超低温という厳しい条件があります。また温度が低いほど生マグロは長持ちします。弊社の冷凍庫は-30℃~-60℃を維持していますが、それよりも高くなると品質に影響が出てくることがあります。ですから温度管理がとても重要なのです。
温度の確認はこれまでどのように行っていたのでしょうか?
清水氏
温度の確認は(上記の)7か所すべてに必要です。一つの場所に集中していればよいのですが、弊社は市場にあるため、冷凍庫などが色々なところに点在しています。そのため1人の担当者が午前と午後で1回ずつ巡回して、温度を確認していました。1回巡回するのに15~30分ほどかかります。生マグロをさばく加工場では温度確認のためだけに白衣に着替える必要もあります。室内の温度は温度計の数値を目視で確認して、紙に記録していました。記録した書類は手書きで見づらいため、エクセルに再入力していました。
それはかなり負担が大きいですね。
清水氏
負担も大きいですし、それらのデータの正確性や信頼性をどう保証したらよいかという問題もあります。当然教育はしますが、人が確認している以上、数値の見間違いや記入漏れが生じるリスクは常にあるからです。しかしこれをデジタル化して自動でデータが収集できれば、そうした心配はいらなくなります。