ソニーミュージックグループは、グループ全体の社員が3,100人を超える。その管理業務全般を担うのが、ソニー・ミュージックアクシスである。同社情報システムグループのプラットフォーム企画部の街(つじ)祐也氏は、グループ企業全体のネットワークインフラの運用管理を担当している。その街氏は、2018年ごろからネットワーク周りの課題を解決するためのネットワークインフラ刷新に取り組み始めた。
課題は大きく3つあった。1つは導入を検討していたMicrosoft 365を本格利用した際の社内ネットワークの逼迫。Microsoft 365などのクラウドサービスの利用が進むと、トラフィックやセッションが増加する。「他社の先行導入事例などから、Microsoft 365の通信が社内ネットワークの機器や帯域を圧迫し、他の業務に支障をきたすことを危惧していました」と街氏は説明する。
2つ目は、リモートアクセスユーザーの増加。様々なシーンでリモート業務をする機会が増え、リモートアクセスの利用が増加していた。一方で従来使っていたリモートアクセス製品は同時接続数に200といった上限があったほか、機器の老朽化やサポート終了の時期も近づいてきていた。「今後、まともなリモートアクセスサービスが提供できなくなる懸念が高くなっていました」と街氏は振り返る。
3つ目はネットワーク全体のコスト。コンテンツの大容量化などに伴いネットワーク帯域は十分に確保しなければならないが、そのコストを極力圧縮することが求められていた。
2018年の夏、街氏はこうした課題をIIJの営業担当者に相談した。IIJには既存のWAN環境をすべてお願いしていて、信頼関係ができていたからだ。その上、ネットワークのサービス拡充は急務だったので、早期導入が可能なIIJのサービスしか選択肢がなかった。「IIJのサービスを組み合わせてどうやったら課題を解決できるかの提案を求めたのです。品質は落としたくないけれど、費用は圧縮したいという無理難題も同時に相談しました」と街氏は話す。
街氏の依頼に応え、IIJは以下の提案をした。まず、Microsoft 365移行に対する社内ネットワーク容量の逼迫対策として、「IIJクラウドプロキシサービス」の利用を提案した。Microsoft 365の通信をクラウド上のプロキシが適切に振り分けることで、既存の社内のプロキシサーバやファイアウォールに余計な負荷をかけずにMicrosoft 365への移行を実現する。
次に、リモートアクセス環境の改善では、VPNサービスの「IIJフレックスモビリティサービス」を利用することで、オンプレミスのリモートアクセス機器による同時アクセス数の制約や老朽化などの課題を解決。機器の性能に縛られることなく安定したVPN接続を実現する。
ネットワークインフラの刷新の側面では、各拠点を結ぶネットワークを「IIJ Omnibusサービス」に移行することで、ネットワークの運用管理をクラウド化してランニングコストを低減。さらに拠点内のLANもクラウド型LANソリューションの「IIJセキュアLANソリューション with IIJ Omnibus」で、クラウドからの集中管理を可能にした。
課題解決に対するトータルの提案を評価するとともに、切り替え時の初期費用と、IIJ Omnibusサービスへの移行によるランニングコストの圧縮を含めたコスト提案にも納得し、ソニー・ミュージックアクシスは2019年1月にIIJへの委託を決定した。プロジェクト本格始動は同年春。同年10月に控えた最初の関門であるMicrosoft 365への移行に向けて、ネットワーク構築が始まった。
ネットワークインフラの刷新はスムーズに進んだ。街氏は「スケジュール調整などを柔軟に対応してもらえましたし、なによりも営業担当者とそのバックエンドにいる20人ほどの技術者などの手厚いサポートにより安心してお任せできました」と語る。
最初にサービスインしたのは2019年10月のIIJクラウドプロキシサービスで、Microsoft 365への移行と歩調を合わせる形で構築を完了した。Microsoft 365への移行後も、社内ネットワークの逼迫などのトラブルは起きておらず、安定した運用ができている。
次にIIJフレックスモビリティサービスが2020年2月にサービスインした。グループ企業の約3,100人のほとんどの社員がリモートアクセスできるだけのライセンスを用意して、リモートアクセスの増加に対応する構成である。従来のリモートアクセスと比べて、移動したときにもVPN接続が切れることはなく、万が一切れても自動再接続するので安定性が高いとグループ社員の評判は上々だ。在宅勤務者の急増により利用が増えたTeams会議も、快適に利用できている。さらに、別途導入した顔認証システムとの組み合わせにより、セキュリティと利便性を両立させたリモートアクセス環境を実現した。
2020年6月現在、拠点間のネットワークのIIJ Omnibusへの移行は順次進めているところだ。2019年度に6拠点を移行し、2020年度中に本格的な移行を進める。「クラウド化したネットワークにより、ランニングコストだけでなく導入時のコストも安くなっています。IPv6接続するIPoE(IPover Ethernet)方式の接続を採用することで、通信速度も向上しています」と街氏は説明する。
ソニー・ミュージックアクシスでは、今後もIIJ Omnibusサービスを中核としたネットワークの機能向上を目指している。クラウドサービスの利用拡大に向けて、AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azureなどとのクラウド接続や、インターネットゲートウェイの導入などが検討対象に上っている。同社では、グループ社員がストレスフリーな働き方を実現できるように、IIJの次世代ネットワーク構築の力を活用しながらネットワークインフラを進化させていく考えだ。
※ 本記事は2020年6月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。ただし、2021年の会社統合に伴い、社名のみ変更しております。