総務省統計局の重要な業務の1つが、5年ごとに行われる国勢調査である。日本に居住するすべての人を対象とする国の最も基本的な調査であり、その結果は衆議院小選挙区の画定基準、地方交付税の算定基準などに利用される。
調査は約70万人の調査員を動員して行われるが、近年は戸別訪問での正確な調査が難しくなっている。「昼間不在の単身・共働き世帯、オートロックマンション居住者の増加などライフスタイルや居住形態が多様化していることがその一因です」と総務省統計局の岩佐哲也氏は理由を述べる。
社会環境の変化に対応するため、新たな手法として導入を検討したのが「オンライン調査」である。「PCやスマートフォンでも回答できるようにすることで、調査員への手渡しや郵送での回答が難しい世帯の負担を軽減し利便性がより高まります」と総務省統計局の田中久睦氏は狙いを語る。これを受け、平成22年国勢調査の一部地域で実施したオンライン調査などでも試験導入し、様々な検証を重ねてきた。
その先に見据えていたのが、平成27年国勢調査だ。これまでの検証を踏まえ、オンライン調査を全国展開する計画を立てた。
しかし、そこにはいくつかの課題もあった。調査システムを支えるインフラの安定性確保がその1つ。「試験導入の結果から推計すると、平成27年国勢調査のオンライン回答数は少なくとも約1,000万世帯。大規模なオンライン調査を支えるIT基盤には、極めて高い信頼性・安定性が求められます」(岩佐氏)。
強固なセキュリティも重要な要件である。国勢調査は秘匿性の高い個人情報を扱う。「様々なリスクから情報を保護し、回答者が安心して利用できる仕組みが必要です」(田中氏)。
こうした要件を実現するパートナーの1社として、IIJが選ばれた。システム基盤の構築・運用を担う元請けの沖電気工業とともに、IIJがネットワークやセキュリティ面を担当する。
「IIJが持つ豊富な実績と経験により、信頼性・安定性の高い基盤構築が可能になりました」と岩佐氏は話す。
その基盤を支えるサービスの1つが、IIJプレミアムコンテンツ配信サービスである。調査システムにログインする前のWebアクセスはキャッシュサーバで処理し、ログイン後の入力処理を本番サーバに振り分けることで、大規模トラフィックの負荷分散を図った。
セキュリティ面に関しても、事前に想定されるリスクと対策をIIJが提案。それをもとにIIJ DDoSプロテクションサービスやIIJマネージドIPS/IDSサービスなどを組み合わせ、多様なリスクに対応したセキュアな仕組みを実現した。
本番実施に向けたサポート対応力も高く評価する。「システムダウンは回答者の信頼を損ねるだけでなく、回答数が減少する要因にもなり、その後の紙の調査にも影響を及ぼします」と話す岩佐氏。失敗は絶対に許されないため、アクセスのピーク時に耐え得る負荷テストは慎重に何度も行われた。「沖電気とIIJは約5ヵ月にわたって負荷テストをサポートし、きめ細かなチューニングや課題改善に尽力してくれました。その結果、1分間で最大5万件の同時アクセスに対応し、想定の1,000万世帯を上回るアクセスがあってもシステムを安定稼働できることを確認できました」と田中氏は満足感を示す。
平成27年国勢調査は試験調査の結果を踏まえ、高い回答率が見込める先行方式を採用した。最初にオンライン調査を実施し、回答のなかった世帯に対して紙ベースの調査を行う方法だ。オンライン調査は平成27年(2015年)9月10日から20日にかけて実施した。
期間中の回答率は全体の36.9%を占め、1,900万世帯以上から回答が得られた。予想を大きく上回る回答数にも関わらず、システムは極めて安定に稼働。世界最大規模のオンライン調査を不具合なく、円滑に実施できた。「信頼性・安定性の高いインフラに加え、余裕を持った帯域のプランニングや最適な負荷分散処理など実績と経験を活かした対策のおかげです。多様なリスクに対応したセキュリティ対策により、情報保護の徹底を図ることもできました」と岩佐氏は評価する。
オンライン調査は回答者の利便性を高めるだけでなく、調査を主管する統計局や関連する自治体にもメリットが大きい。調査票の配布や取りまとめ作業の合理化につながるからだ。統計センターが担う調査後の集計作業の効率化も期待できる。「今回の成功により国勢調査だけでなく、その他の統計調査のオンライン化の可能性も大きく広がります」と岩佐氏は話す。
今後も統計局ではより使いやすいオンライン調査の仕組みや環境整備、在留外国人向けの多言語対応の拡充などを進め、更なる合理的・効率的な統計調査手法の確立を目指す考えだ。
※ 本記事は2016年3月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。