パネルディスカッション:中国ビジネスでの成功の秘訣
第2回:中国のビジネスリスクと回避策
バックナンバー
2017/03/21
巨大市場である中国において、ビジネスを成功に導く秘訣とは何でしょうか。
2016年6月8日 弊社主催「中国クラウドソリューションセミナー」において中国で活躍する4名を迎えてパネルディスカッションを行い、中国ビジネスでの成功の秘訣を赤裸々に語っていただきました。連載第2回目では、中国のビジネスリスクとその回避策を探ります。
中国のビジネスリスクと回避策
IIJ:
中国では大企業でも規制トラブルに巻き込まれている事例が報道されています。事前にリスクをキャッチし対応していくには、どうしたらいいのでしょうか?藤田さん、中国ならではの原因でビジネスが立ち行かなくなった日本企業の事例を教えてください。
中国では何もかもがリスク
藤田:
規制、土地バブル、債権回収、労働法と、中国では何もかもが数限りなくリスクだと言えます。その中でもIT関連に限定すると、一番大きなリスクは通信の制限です。中国では今、Facebook・Google・LINE (中国国外にVPN接続をすることで使えるようになるという例外を除くと)は中国国内では全く見ることができません。それでも中国の方々が困らないのは、それぞれの代替サービスがあるからです。Facebookと同様の機能をもつサービスは微博(ウェイボー)、Googleと同様なのは百度(バイドゥ)、LINEに代わるのはWeChat/微信(ウェイシン)です。中国ではみなこれらを使っています。中国政府はなぜネットサービスを制限するのか、いろいろ理由はありますが、中国当局としては複数の人が集まる場を「監視しないといけない」ということであり、それがネット上でも起きているのです。たとえばWeChatで10人以上がメンバーになっているチャットグループは「監視」されます。米国企業や日本企業が中国政府からの「監視」を受け入れられなければ、それまでにどれだけユーザーがいたとしてもサービスは遮断されます。いったん政府の方針が変わり法令が制定されると、それを変えることは容易ではありません。こういった点が最も大きなリスクだと思います。
IIJ:
藤田さん、「政府のネット規制」は突然始まったのでしょうか?回避できる方法はなかったのでしょうか。
藤田:
回避方法はないと思います。少し毛色は違いますが、2012年に尖閣諸島の問題が起きたとき、弊社の売り上げが一気に縮小しました。政治的な局面が絡む大きな規制に関しては、中国で人脈を作っておいて、事が起こる前にその情報を仕入れて対応を検討しておくくらいしかないのではないでしょうか。あのGoogleさえ、今も止まっているのですから。
IIJ:
藤田さん、ありがとうございます。長く中国に赴いている山谷さんですが、中国でのビジネスにおけるリスクをどのように捉えられていますか。
中国の真似る文化
山谷:
同感です。リスクというと本当に数限りなくありますが、「真似られるリスク」についてお話させていただきます。突然ですが、「今からIIJを説明するWikipediaページを1時間以内に書いてください。」と言ったら、日本の我々からするとそれは無理だと思うでしょう。しかし中国ではそういった無理難題に対しては慣れっこです。
日本は結果よりも経過、どれだけ努力したか、が評価されますが、中国の教育で大切とされるのは、「どんな手を使ってもいい、コピーしてでもいいから素早く出せ」なのです。こういった習慣がインターネットの普及以前からあるため、親に頼めなければ他の人に頼む。つまり、できる人をいかに早く探し、いかに早くアウトプットを出すかということが学生時代から自然と身についています。中国ではこういった教育をうけた学生が社会に出て、ビジネスの第一線にいますので、手段としてコピーすることに何の罪悪感もありません。先の課題は、中国人であればおそらく、IIJをインターネットで検索してそこに表示される文章、画像をコピー&ペーストして宿題を仕上げるでしょう。
中国の人はハードウエアにしてもソフトウエアにしてもとりあえずコピーします。これまでは中国製のものはダメだダメだと言われていましたが、それはハードウエアです。ソフトウエアを見てみると、WeChatしかり、タクシーの配車アプリしかり、非常に洗練されています。中国の物作りの特徴は、コピーをして素早く世に送り出すことですが、それが評価されてユーザーが増えてくると、今度は、ものすごい勢いの「思い付き」でどんどんアップデートしていきます。ソフトウエアも今ではインターネット経由で簡単にアップデートが可能になりました。いつでも思い付いたときにアップデートができるというわけです。日本では、そうはいきません。バージョンアップのために複数の会議を経ているうちに時間がかかってしまうのです。
中国に進出するのであれば、こういう社会環境の違いを理解した上で、短期的なアップデートをどんどん仕掛けていかないといけないと思います。
IIJ:
ありがとうございます。「真似られるリスク」について、中国山東省で生まれ育った李さん、いかがでしょう?
李:
そうですね。中国の社会が発展する今のフェーズというのは、ちょうど、日本でいう1964年(昭和39年)の東京オリンピック時くらいなのだと思います。そのころ、日本も先進国の真似をしていました。中国に限らず、どの国にもそういったフェーズがあるのではないでしょうか。とはいえ、近年は知的財産権が確立し、法整備も整ってきましたので、中国もこれまでのようにはいかないと思います。
IIJ:
続いて、中国企業に勤務する彭さんにもお聞きします。彭さん、中国でのビジネスにおけるリスクとは何でしょうか?
5つのリスクと対処策
彭:
中国でビジネスを行う際には、必ず色々なリスクに直面すると思います。それは現地中国企業にも言えることです。
中国で注意すべきリスクの1つ目は、政策です。「政府と恋してもいい、だが結婚はしないほうがいい」とは、中国のアリババグループの創業者であるジャック・マーの名言です。これは、政府とは近づき過ぎず、離れ過ぎないように適切な距離感と温度感を保つことが肝要と言う意味です。
2つ目は思い込みのリスクです。中国でサービスや製品を展開するときには、中国人のニーズに合わせたものを投入すべきです。自社の思い込みで「よい」と思っているサービスや製品は現地のマーケットに受け入れられない可能性が大きいと言えます。
3つ目は財務リスクです。中国でビジネスを急速に展開しようとするとき、キャッシュフローの問題、債権回収の問題がよく起こりますので、保守的な戦略をとるべきです。
4つ目は法律に関するリスクです。中国への進出時には、初期段階から専門の法律事務所やコンサルタント等の専門家にアドバイスをもらい、法整備を行うことをお勧めします。
5つ目としては、ロイヤリティ欠如のリスクをあげたいと思います。強いチームワークを醸成し、安定感のあるコアな従業員を確保することがとても大事です。
これら5つのポイントをきちんと押さえておけば、中国でのビジネスをある程度うまく進めることができると思います。
IIJ:
ありがとうございます。それでは李さんにも同じ質問です。中国でのビジネスにおけるリスクを教えてください。
社員の転職が最大のリスク
李:
彭さんも挙げていましたが、社員の頻繁な転職は大きなリスクだと思います。最近、中国では転職でキャリアアップをするという風潮があります。一方で、日系企業は現地社員に対してどれだけきちんとキャリアパスを示しているかを反省すべきでしょう。自社内でどこまで自由に、大きく成長する余地を与えられるかが現地社員のモチベーションにつながります。一方的に現地社員に対してロイヤリティの向上を求めるのではなく、藤田さんの発言にもありましたが、現地化を進め、現地社員といえどもガラスの天井などないことが伝われば、優秀な人材の流出はだいぶ改善できると思います。
もう1点は、ライセンスの規制リスクです。中国の法令は人により解釈が異なることや、タイミングにより実行の厳しさが変わるため、リスクになります。収支の正確性、コンプライアンスの遵守は第一に守られるべきで、中国だからとグレーなことも許されると捉えてはいけません。グレー=ブラック、真っ黒というくらいグレーを許容しないぐらいの緊張感が必要ではないでしょうか。
加えて「判断の早さ」が重要です。中国のマクロ経済は近年失速していると言えど、GDPは毎年6%くらいの成長率を保っています。中国に「逆水行舟, 不進則退」ということわざがあります。中国でビジネスを展開することは、川の流れに逆らって船を進めるのと同じという意味です。大きな経済の流れの中で、企業の舵取りはタイミングが非常に大切で、じっくり考えて行動に移すなんてのんきなことが許されない環境だということです。決断すべきところは迅速に決断することがリスク回避のポイントになると思います。
(連載第3回に続く)
- 第1回:中国で成功している企業とその理由
- 第2回:中国のビジネスリスクと回避策
- 第3回:中国で成功を掴むために