【山谷剛史の中国近未来解説(全6回)】
第3回:中国のECの勢い高まる中で復活する路面店に学ぶこと
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2017/09/25
拡大し続けるEC市場
中国のEC市場は拡大を続けている。中国社会科学院が発表したデータによれば、2016年12月から2017年5月までの6か月間での中国EC市場規模は3兆229億元となった。日本円で50兆円、つまり年間で100兆円規模となりそうだ。前年同期比35.3%増で、かつ2014年の年間数値を上回っている。
当然消費者としてはモノを買いたいと決めれば、「天猫(Tmall)」や「京東(jd)」や「淘宝網(Taobao)」など様々なECサイトをチェックし、一番安くトラブルなく送ってくれるであろう店舗から購入する。
対して実店舗は、不動産高騰によるテナント料の上昇も相まって、ECショップの台頭を前に続々と閉鎖している。例えばPCや関連製品を販売する電脳城はEC台頭の影響を最も受けた場所かもしれない。中国どの地方でも空きスペースが目立ち、閑古鳥が鳴いている。また都市によっては大通り沿いの個人商店の多くが閉店し、シャッター街となっているところもある。ECの普及に加え、モールが続々と建ち人々の導線がそこに向かったからというのが理由だが、この現象は想像に難くない。
路面店の個人商店の現状
シャッターが目立つ都市でそれでも営業を続ける個人商店は、「八百屋・果物屋」「市場」といった生鮮を扱う店や場、「ファストフード」「食堂」「レストラン」「カフェ」などの食の場、「美容院」「ネイルサロン」「マッサージ」などのボディケアの店、「フィットネスジム」などの運動場、それに「キャリアショップ」「スマートフォンショップ」などの通信機器販売店である。こうしたECが入りにくい業界にも、あらゆる業界にインターネットテクノロジーの導入を目指す「互聯網+(インターネットプラス)」の号令の元、業界の改革が行われる。
「八百屋・果物屋」「市場」が扱う生鮮についてだが、EC大手の阿里巴巴(Alibaba)や京東が生鮮ECに参入する動きもあるが、まだまだ限定的で、日本の各スーパー大手が実施するネットスーパーと比べて普及していない感じを受ける。また人件費削減で、無人商店を導入しようとする動きもある(まだ未来が見えないので、未来の輪郭が見えるようになったら紹介したい)。
「ファストフード」「食堂」「レストラン」「カフェ」などの食の場については、中国O2O(Online to Offline)ブームの騎手たる、フードデリバリーが躍進し、大都市では昼時ともなればひっきりなしにデリバリーのバイクが食堂から出ていく。デリバリーが普及する一方、既存の食の場も残り、オンラインとオフラインが併存している。新しい形態として「落ち着いた知的の場」を提供するカフェを併設した書店が全土の大都市で続々と登場し、復活を遂げている。
「美容院」「ネイルサロン」「マッサージ」などのボディケアの店も、O2Oブームの中で登場し、専用アプリから依頼を受けたらネイリストやマッサージ師が出向いて施術を行うというサービスが登場した。しかし誰でも利用したくような名だたるカリスマが登場したら話は別だろうが、施術師の技術の良し悪しの物差しがなかった。結局施術師のサービス提供範囲は各人の近所にとどまり、普及せず利用者は増えることなく、オンライン化、O2O化は進まなかった。「フィットネスジム」も同様に、結局設備の整った場に客が足を運ぶことから実店舗が必要だ。近年の中国健康ブーム(市民ランナーが増えている)の中で、実店舗をよく見るようになった。
最後に挙げた元気な「モバイルショップ」に注目したい。「キャリアショップ」は契約変更などで訪れることもあるが、パソコンショップが閑古鳥の中で、端末を売るメーカー代理店が多数あり、商売が成り立っているのだ。パソコンより元気とはいえ、ECで最も競合が起きそうな商品ジャンルであり、ECショップのほうが安ければそちらに流れるはずである。
家電は実店舗で触って体験してもらう
近年販売台数を急激に伸ばし、ファーウェイの次のポジションまで来た「OPPO」「vivo」が、スマートフォンのオンライン購入の動きを変えた。実店舗を展開する事でデジタル製品にさほど詳しくない層を取り込み、2016年に四半期ベースの出荷台数で対前年比2倍を記録した。OPPOやvivoは、実店舗とネットの販売価格を同じにして、中国全土の大都市はもちろん地方都市にも代理店を隅々まで展開した。また自撮り性能がさらに綺麗になることや急速充電などライトユーザーにわかりやすい言葉で訴求することで、実店舗にスマートフォンに詳しくない多くのライトユーザーの足を運ばせることに成功した。2社は日本円で5万円以上する高性能高価格なフラッグシップ機種をアピールし販売した(OPPOは「R9」、vivoは「X9」)。丁寧なつくりで、実際に利用していてストレスが少ない素晴らしい機種で、消費者の心をつかみ口コミでその良さが拡散された。
このOPPO、vivoの成功モデルから、スマートフォンシェアNo1の華為(ファーウェイ)が地方の小行政区画「県」に続々と販売代理店を出店しようとする「1000県計画」を発表したほか、オンラインでの販売に強い小米(シャオミ)も年内に300店舗まで増やすと発表している。
加えてEC大手で元々家電に強い「京東」も実店舗「京東之家」「京東専売店」を中国全土で展開し始めた。オンラインと同価格、ないしはキャンペーンでそれ以上に安い価格で販売している。しかし、筆者自身店舗を訪問したことがあるが、まだ手探り状態で、魅力的な店になっているとは言い難い状態だった。ただすぐに閉じるかというと、実店舗で触って体験してもらうというトレンドの中で、すぐに閉じることはないだろう。
その京東を追いかけるのが、家電量販店大手でEC販売で復活を遂げた蘇寧電器だ。京東や天猫に負けない価格で競った蘇寧電器もまた、実店舗でECサイトと同価格で各商品を販売。様々な家電商品を実際に触れてみることができて、ECサイトの製品を店頭で注文できるようにしている。蘇寧電器の攻勢の中で京東がひくことは難しい。
さらに家電以外の業界でもアンテナショップ的な実店舗を中国各地に開設する動きがある。オンライン専業で一部のネットユーザーの間で支持されているお菓子・おつまみブランドの「三只松鼠」は湖北省武漢市に実店舗をオープン。また同様にオンラインで強い中国酒(白酒)の「江小白」も様々な食堂やレストランで導入されている。中国においておつまみや酒は伝統的なジャンルで昔ながらの企業が強いものの、新興の両社は若者向けのデザインでインターネットで人気を得た後、実店舗に進出しさらなる普及に努める。
アパレルブランドはビッグデータを活用
アパレルショップにおいてはユニクロ、無印良品、ZALA、H&Mなどのブランドが人気を占める中で進出しようとする阿里巴巴(Alibaba)系の新しいアパレルブランド「5m5a」も面白い。OPPOやvivoのように、地価が高い大都市の繁華街を避け中都市にさほど大きくない敷地面積の店舗を設ける。そしてビッグデータを活用し、店舗のある地域のファッション趣向にあわせた服装を、最適な在庫数で販売し、極力在庫を減らす。これにより実店舗でありながら、ビッグデータを活用したコスト削減と顧客への魅力ある商品販売の両立を行っていく。
中国においてEC伸長の中で復活している実店舗の傾向を挙げた。インターネットを取り込みつつ、インターネットと同価格であるとともに、実際に体験してもらうというのがポイントだ。ビッグデータを活用するとニーズに応えながら在庫を極力減らせる店づくりもできそうだ。
- 第1回:中国網絡安全法(中国サイバーセキュリティ法)で何が変わるのか
- 第2回:高齢者と子供の間でネット普及率上昇。そこにビジネスチャンスはある
- 第3回:中国のECの勢い高まる中で復活する路面店に学ぶこと
- 第4回:中国のシェアブームとO2Oブームを考える
- 第5回:中国主要ネット企業は数年内に何をするのか
- 最終回:中国人の日々の生活から近未来を予測する
山谷 剛史
1976年東京都生まれ。中国アジアITジャーナリスト。
現地の情報を生々しく、日本人に読みやすくわかりやすくをモットーとし、中国やインドなどアジア諸国のIT事情をルポする。2002年より中国雲南省昆明を拠点とし、現地一般市民の状況を解説するIT記事や経済記事やトレンド記事を執筆講演。日本だけでなく中国の媒体でも多数記事を連載。