ネットの中立性で大論争のアメリカ
2014/12
ニューヨークの Time Warner Cable(以下TWC)で視聴可能なチャンネル数は約2000。言語毎、フットボールとベースボールのチーム毎、自治体毎にチャンネルが割り当てられ、その数は膨らむ一方です。そんなケーブルテレビを上回る勢いでVOD(ビデオオンデマンド)の視聴が伸びています。
アメリカでは今、通信ネットワーク事業者とコンテンツプロバイダに大きな変革が訪れています。100社以上存在していたケーブルテレビ事業者はComcast とTWCの二大勢力に集約され、2014年10月Comcast がTWCを、同月にはAT&Tが衛星放送ナンバーワンの DirecTV を、それぞれ買収することで合意し、いずれも政府の承認を待っている段階です。
これら老舗事業者をおさえて、風雲児的な存在になっているのがVOD最大手 Netfrix 社です。契約は3600万世帯数を突破、視聴者は全米国民の四分の一を超えるとされ、独自製作の連続ドラマも目白押しです。私も契約していますが、月額8、9ドルで6万本の映画・ビデオが見放題、来年度に向けても二桁成長が確実視されています。最近販売されているスマートテレビには Netfrix が組み込まれていて、LANを接続し、リモコンのNetfrix ボタンを押して、画面でクレジットカード番号を入れるだけで視聴できます。
こうした変革のなか、アメリカでは「ネットの中立性」をめぐる論争が繰り広げられています。「ネットの中立性」とは、インターネットは社会共通の基盤であり、何人も恣意的に優先順位をつけられるものではない」という主旨ですが、「自社のネットワークには自社の利益につながる通信を優先しても良いか否か」ということが争点となっています。
これは裏を返せば、「自社に不利益なコンテンツには規制をかけてもいい」ということになり、その論争が過熱して「そうした情報の操作は言論の自由を奪い、インターネットの思想にも反する」という舌戦になっているのです。さらに、Comcast のネットワーク帯域不足を補うための投資に Netfrix が参加したところ、老舗の通信事業者から「不公平競争だ」と提訴されるといったことも起こっています。
こうして見ると、日本との違いは明白であり、世界ナンバーワンのハード(光ファイバ)を活かすソフト(コンテンツ)事業が諸処の規制もあって立ち上がらず、10年以上が経過してしまったということでしょうか。
IIJ America Inc. President & CEO 松本 光吉
本記事は、弊社広報誌のVol.125 (2014年12月発行)に掲載されています。
グローバルトレンド「ネットの中立性で大論争のアメリカ」
IIJ America Inc. President & CEO 松本 光吉
https://www.iij.ad.jp/news/iijnews/2014/pdf/vol125.pdf