海外現地法人の会計業務構築と会計システムの活用
2016/02/08
日本企業の海外進出にあたり、海外に法人を設立するとともに絶対に不可欠である「会計」。状況により企業が直面する課題も大きく異なる。日系企業の会計システム開発の草の根的な存在であり、日本の海外進出企業へ会計システムを数多く導入した実績をもつ株式会社ビジネス・アソシエイツ営業部部門長の野田健太郎氏に課題解決の糸口を聴いた。
IIJ:
海外現地法人では、まず会社の運営を軌道にのせるためにも会計業務を確立しなければなりません。会計業務を円滑に行うためには、会計管理の方法を決める必要がありますが、このとき、必ず考慮すべきことを教えてください。
野田氏:
何よりもまず優先して行うべきことは、その会社がどの「ステージ」にいるのかを見定めることです。
1.初めての海外進出で、調査・マーケティング目的であり収益のないステージ
2.営業活動をメインに行っており、会計の専門家を置いていないステージ
3.社員数が増え、会社として円熟し始めて社内管理体制を整備しているステージ
4.複数の海外拠点をもち、ワールドワイドに展開を進めているステージ
上記の4つのステージのどのステージに当てはまるかにより、誰が、どのように、会計業務を行うのかを決定していく必要があります。例えば、ステージ1の会社では、現地の日系の会計会社へアウトソースするのが最も効率的と言えるでしょう。ステージ2では、アウトソースをするのか、自計化するのかを決めること、自計化する際に日本から会計担当者を派遣するのか、現地で採用するのかが鍵になります。ステージ3に行くにつれて表計算ソフトウェアの手作業では管理が追いつかなくなってくるため、会計システムをうまく活用していただきたいと思います。ステージ4では、迅速な経営判断を行うために、会計システムは必須となり、日本本社や地域統括拠点での会計データの連結、ひいてはシステム統合といった課題が浮上してきます。ステージに合わない会計業務を行うことは、無駄な投資や管理不足を招きます。会計システムに飛びつかず、状況の整理を行い、どこにコストをかけるかを決めることが大切と言えます。
IIJ:
海外進出のステージが進んだ日本企業の海外現地法人に、「日本の」会計システムを導入する最も大きな効用とは、何でしょうか?
野田氏:
端的にいうと「タイムリーに海外現地法人のことを把握できる」という日本の親会社側のメリットです。若いステージ段階(ステージ1,2)にある企業で、マーケティング活動と営業活動だけを行っている場合、本国への報告はコストがメインであることが多いため、表計算ソフトウェアでも十分対応可能です。現地の会計事務所に管理を依頼することもできます。ステージが進み、ある程度「収益」や「予算」の管理が求められるようになると会計システムが必要になってきます。企業によっては、初期進出ステージを飛ばしてステージ3から入ることもありますが、こういう企業は日本本社側の管理体制や内部統制の意識が高いと言えます。このような場合には日本の会計システムの導入が必要になります。本社が財務諸表、損益、財務状況を報告する義務がある場合は会計システムを導入するべきですし、会計システムを導入する意義が十分あると言えます。さらに内部統制が求められる場合は、現地の会計システムでは不十分で日本の会計システムを使わせたいという意向が強いようです。
IIJ:
海外現地での会計業務マネジメントに、本社側はどの程度かかわるべきでしょうか?逆に現地に任せるときの留意点を教えてください。
野田氏:
ここでもステージ毎に分けて考えることが重要です。現地では、現地の会計パッケージから出された財務諸表しか受け付けてくれないことがあり、現地の会計パッケージを使わざるを得ないのですが、ひとつ言えることは、現地の会計パッケージは日本にいる親会社の担当者が見てもさっぱりわからないことがある、ということです。会計の数字が間違っているならまだしも、その数字が何を指しているのかわからない、担当者に質問をしても応答がない、現地に行って説明をうけてもまだわからないことすらあるのです。そのため、どの取引先に何をいくら支払っているのか、相場は合っているのかわかりません。しかも、往々にして遅れがちです。そのため、ステージ1,2にある企業では、現地の会計事務所にまかせるべきでしょう。そこからステージ3に進むにつれて、現地へ管理者を赴任させて会計業務を確立し、その次は現地のアカウンタントマネージャーを雇ってトレーニングし業務を委譲していくステップとなります。このとき、最後の承認は必ず親会社側が信頼できる担当者が行う、レビューを実施する、期日を守らせることが重要で、きっちり締めるべきところだと思います。
IIJ:
海外現地会社に日本の会計システムを導入する上でよくでてくる課題があれば教えてください。
野田氏:
海外現地での税務申告と日本本社へのレポートが1つのシステムではできないという問題があります。日本の会計システムを導入しようとしても、外貨の非対応、会計基準の違い、付加価値税の取り扱い、現地言語の非対応、商慣習(例えば小切手の取り扱い)の違い、現地スタッフの抵抗から現実的ではないこともあります。とはいえ、当該国以外で使うことを想定されていない現地パッケージだと、日本の担当者では理解が難しいでしょう。税務申告フォーマットの規定として、現地の会計パッケージに限定される場合、現地のアカウンタントを雇用する費用がまだまだ安いなら、現地会計パッケージと日本の会計システムの両方へダブルで入力をさせるという、人海戦術的な手法が使えます。ダブル入力まで人員をさけないなら、日本の会計システムを正とし、このデータを現地の会計パッケージへ流し込み、現地での財務報告を行うことをおすすめします。
IIJ:
日本の会計システムが海外現地で利用できない事例はありますか。その場合にはどうするのがよいでしょうか?その理由も併せて教えてください。
野田氏:
大きく分けると2つの大きな要因があります。ひとつはITインフラです。もうひとつは、前述にもあります通り、日本のほとんどの会計システムの海外導入対応の不備です。海外現地子会社に日本の会計システムを導入する理由は、タイムリーな管理と内部統制対策ですが、タイムリーな報告のためにはネットワークインフラは不可欠です。しかし、このようなインフラさえまだ整っていない地域に進出されるお客様もいますので、その場合には、スタンドアローンの会計システムをご利用いただきます。内部統制対応のために、出力したデータを改ざんできないようにする、アクションログをとれるようにし、そのログをチェックできるようにするといった工夫が必要です。
IIJ:
海外現地会社で陥りやすい会計的な問題を教えてください。また、それらの問題に対する防止策を教えてください。
野田氏:
不正や使い込みといった紙面をにぎわすような「事件」が起きることよりも「なんとなくわからない」という状況が多いと言えます。なんとなく利益が出ていて、なんとなく会社として成長している。それは言い換えれば問題を正しく把握できていないということであり、一番の問題です。昨今成長著しいASEANでは特に意思決定を早く行う必要がありますが、経営指標が明確でないままでは迅速かつ正確な意思決定ができません。現地のスタッフがまじめに会計業務に取り組んでくれたとしても、まじめということと、それが日本本社側の求める迅速性・正確性に通じることは、残念ながら異なるのです。だからこそ、ステージに合った会計業務フローの確立が最大の防止策となります。
野田 健太郎 氏
株式会社ビジネス・アソシエイツ 営業部部門長
入社以来、外資系企業のお客様や海外に拠点をもつ日系企業のお客様、海外と取引をするお客様を中心に、500社を越えるお客様へ提案を行ってきた。ビジネス・アソシエイツは一昨年からシンガポールに子会社を設立し、昨年は案件の1/3が海外案件。中堅・中小企業のコアビジネスをITを使ってサポートする、業務とITのブリッジ(橋渡し)をすることがビジネス・アソシエイツのモットー。