Global Reachグローバル展開する企業を支援

MENU

コラム|Column

文化的には比較的似ていると言われる日本とタイですが、タイにも独自の商習慣やビジネス文化が多く存在します。タイに進出したばかりの企業は戸惑うことも多いかと思います。今回はその代表的な例をいくつかご紹介します。

サインは青色ボールペンで

筆者の会社の支払伝票。赤い囲み部分がサインを必要とする箇所、ここには青色ボールペンでサインをするのが慣例になっている。

日本では公的な書類には会社社印を捺印するのが一般的ですが、タイは欧米と同じくサインの文化です。タイでは代表取締役のサインを含めて、政府に提出する申請書類などは全て青色のボールペンを利用することとされています。この「青色のボールペンを使わなければならない」というルールは、ここ数年特に厳しくなりました。数年前までは黒色ボールペンでのサインも認められていましたが、青色でないとコピーと疑われるようになり、近年は公式の書類でもほとんどが青色でサインするようになっています。

タイで事業を行っている場合、タイ政府に申請する書類(ビザ、労働許可証、税金関連、会計処理など)の種類は非常に多く、様々な用紙に直筆のサインが求められます。黒色ボールペンでのサインでも、まれに政府系機関の申請が通ってしまうことがありますが、それはたまたま見逃されたケースに過ぎず、青色で再度書き直しを求められるケースがよくあります。

サインはパスポートと同じサイン・字体で

タイでは、支払小切手や各種更新手続きの書類から、社内向け広報書類、警告書や承認書などにいたるまで、あらゆる書類、ドキュメントにサインを求められますが、重要な申請書類、提出書類へのサインは、パスポートに書かれているものと同じサイン・字体で書き込む必要があります。

金融機関で法人口座を開設する際だけでなく、資金を引き出す際にもサインの確認があります。あまりにサインの字体が異なると、はねられてしまうケースもありますので、注意が必要です。

政府系機関への提出書類には仏歴を記載

日本では昭和、平成などの年号を使うように、タイでは仏暦を使用しています。

西暦2017年は、タイの仏暦だと「ポーソー2560年」となります。数が大きく増えるので混乱してしまうかもしれませんが、西暦の年数に543年をプラスすると仏暦になります。

公式書類はほとんど、仏暦表記となります。また一部、商品の賞味期限などでもこの仏暦を使う場合があります。

生活やビジネスに深く根付く仏教と厚い信仰

タイでは大型商業ビルやコンドミニアム、工場の敷地内など様々な場所で、神様が祀ってある祠があります。祠にはそれぞれ違いがあり、精霊を祀ったり、商業の神様を祀ったりとさまざまな種類が存在しています。タイ人は信心深い人が多く、祠の前を通る際には、数秒間手を合わせて祈っていく姿をよく目にします。

筆者のオフィス近くの祠(筆者撮影)

新しく会社を開く、工場を新設する前などの際には、お坊さんに現地へ来ていただき、祝福して戴く儀式(タンブン開所式)があります。日本でも家やビルを新しく建てる際には地鎮祭を行いますが、同じようにタイでも、新しい建築物が完成した際にその建物が良い建物であること、商売繁盛になること、怪我や事故が起こらないことなど、様々なことをお祈りするためにお坊さんを呼んで祈りを捧げます。

タイの生活やビジネスに根付いている仏教ですが、同様にタイ人は王様への敬愛の精神も非常に深いことで知られています。タイ国内で王様を侮辱したり、名誉を毀損したと判断されると不敬罪で罰せられることもあります。たとえ外国人であっても処罰の対象になることがありますので、注意が必要です。

また、毎日公共の場では朝8時と夕方6時にタイの国歌が放送され、タイ国民は原則、放送中その場に静止・直立して敬意を表さなければいけません。同じように映画館では、全ての映画の上映の前に「国王賛歌」が放送され、この時も観衆は全員起立することが求められます。

渋滞情報を有効に活用する

タイ、特にバンコクの交通渋滞はひどいことで有名です。
タイにおける自動車の登録台数は、2016年末時点で3733万台となっています(タイ陸運局統計値2017年1月データより引用) 。タイの道路は、区画整備や道路拡張の計画がとても少なく、特にバンコク都内中心地の大通りは一方通行で、抜け道が少ない上に袋小路になっている場所が多いのが特徴です。そのために、すべての車が幹線道路に集中し、ほぼ毎日大規模な渋滞を引き起こす原因となっています。

特に渋滞が激しい通りとして、ラマ4世通り、スクンビット通り、ペッブリー通り、ラチャダピセーク通りなどが挙げられます。スコールが降ったり、月末の給与支払日に重なったりする時期には1時間以上車が動かないことがよくあります。

深刻な渋滞の解消に向けて積極的に取り組んでいる企業や組織がある一方で、2010年代に入るとスマートフォン端末などに渋滞情報を配信するサービスが出始め、タイ国内でも広く利用されるようになりました。以下の2つはタイでよく利用されているアプリです。しかし、様々なスマートフォンアプリが配信されても、肝心の渋滞緩和についてはあまり効果が出ていない状況が続いています。

タイグーグルマップでの渋滞情報画面例(筆者のスマートフォンで撮影)。赤く示された道路で渋滞が激しいことを表示している。緑の道路は空いていることを示している。

①Google Maps
言わずと知れたGoogle Mapsで提供されている渋滞予測機能。地図は正確ですが、タイの渋滞情報を十分に加味出来ていないため、目的地に到着するまでに実際に掛かる時間が、Google Maps上で予想された時間よりも、2倍~3倍になってしまうことがよくあります。

②BMA LIVE Traffic
バンコク都庁(BMA)は通信大手トゥルー・コーポレーション(TRUE)社などと共同で、バンコク都内に設置された交通カメラの情報を分析し、渋滞情報として見ることが出来るアプリ"BMA LIVE Traffic"を2012年に開発し、公開しています。開発企業はiTIC Foundation社で、Thai Traffic Police(交通警察)、Expressway Authority of Thailand(EXATタイ高速道路)、Bangkok Metropolitan Administration(BMA)の各CCTVカメラから集められた情報を元に、サービスを提供しています。

異文化を理解することの重要性

以前、タイのバンコク日本人商工会議所が発表したレポートで 「怒りの誘因度が平均的に高い場面」を国別に取り上げていました。そのレポートによると、タイ人にとっては「時間に遅れる」「待たされる」ことによる怒りのレベルよりも、「タイ国王への侮辱」「家族が思い通り動かない」ことの方がより強く怒りを感じるということです。日本人から見ると、遅刻は社会的に非常識な行為と映るのですが、タイ人にとっては、期待が裏切られたと感じるのみにとどまるようです。

日本人から見れば当たり前な常識を押し付けがちなケースでも、じっくりと考えながら、異文化を踏まえた対処と注意の仕方が、タイ国内でのビジネスには重要になってくると考えられます。

アセアン ジャパン コンサルティング株式会社
代表取締役 阿部俊之

アセアンジャパンコンサルティング株式会社 代表取締役。
早稲田大学商学部卒業後、タイへ渡り、現在タイ国内で現地の経済情報を伝え、タイ企業のリサーチ、日系企業進出支援を行っている。タイ進出案件のコンサルティング、タイの企業支援、日系企業の海外進出支援等、精力的に活動中。アセアンの経済統合に備え、隣国の調査も開始している
『だからタイビジネスはやめられない!』等、タイ経済、タイ株式、タイ不動産に関する書籍5冊上梓。