今知っておきたいタイ最新事情(全6回)
最終回:タイで2017年に進んでいるビジネストレンド
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2017/07/31
2016年~2017年で進んでいるタイのビジネストレンドに関して、第1回コラムから続けているように、タイでは既に中進国レベルまで経済成長しているため、人件費コストや生産設備の海外進出だけを求めて展開する時代は既に終わろうとしています。
今後ターゲットとなるのは、増加する中間層、拡大する富裕層のサービス消費、体験型、無形資産の提供などが中心となっていくと予想します。
(1)バンコク首都圏以外の都市化現象が進む。地方都市の成長。
タイ高速鉄道計画、Thailand High Speed Rail Projectはタイ王国運輸省とタイ国有鉄道が進めている高速鉄道建設計画で2009年より数線からなる高速鉄道計画を発表しています。タイ政府が線路の敷設と構造物の建築を行い、運営を民間に委託する官設民営方式を適用するとしていて、中国、日本、韓国などの高速鉄道システムの営業・提案がされている状況です。
これまで、バンコクと地方都市では所得格差が2倍~3倍という数字も出ていましたが地方でも近代的な商業施設が建つようになっています。バンコク中心部の大規模商業施設の開発が一巡し、パタヤ、チェンマイ、ホアヒン、コーンケンなどの地方の商業施設開発が進むようになりました。
タイの高級不動産開発大手ランド&ハウス(Land and Houses(LH))は140億バーツを掛けてパタヤ地区とプーケット地区でターミナル21ショッピングセンターの開発を進める計画を明らかにしました。バンコクのアソーク地区中心部で開発した商業施設の成功を皮切りに、地方での展開を目指します。
タイ東北部で開発するターミナル21コラートは別のプロジェクトとして2016年に開業。またこれまでは地方の文化とバンコクの生活スタイルでは分けて考えられていましたが、近年は低層のコンドミニアムなども次々と開発され生活水準が上がってきています。
(2)IT技術の普及と共に決済手段の多様化と変化
プロンプトペイシステム(Prompt Pay System)は、インターネット利用者が増加していることを背景に、2016年7月、タイにおける銀行口座、国民IDカード番号、保有携帯電話の番号の情報をリンクさせ、支払などをより便利にさせるサービスを発表しています。同サービスは、タイ政府財務省とタイの銀行が主導して発表したもので、タイ国民が全員保有するID番号・個人所有の携帯電話番号を紐づけて使用し、お金の支払い・送金・残金確認などを行えます。「PROMPT PAY(プロンプトペイ)」の名称で17年度から導入されました。送金手数料の安さが魅力で5000バーツまでは無料。10万バーツで手数料が10バーツしかかからないのが特徴です。2017年現在、他銀行の送金手数料の相場は25バーツ程度です。
(※)1タイバーツ=約3.3円(2017年7月現在)
近年、中国ではシェアリングサービスの普及が進み、車や自転車、スマホバッテリーや雨傘まで、アプリを通じた様々なサービスが登場していますが、タイのコンビニエンスストア大手のCPオール(CPALL)社では既に中国アプリのアリペイ、ウィーチャットペイの決済が可能になっています。また、CPオール社ではQRコード決済を導入しています。2016年にはCPグループ傘下のAscend Money社とアリババ・グループ傘下Ant Financial社が提携を発表し、CPオールが展開するコンビニエンスストアで決済導入を開始しました。これらは訪タイ中国人観光旅行者向けに利用しやすい決済方法を導入したとしています。
2017年6月には銀聯カードのユニオンペイ、クレジットカードのマスターカード、ビザ・インターナショナルの3社はタイ国内でQRコード決済"QR Code Standard"を発表しました。携帯電話、スマートフォンをQRコードにかざして決済が出来る共通システムを導入していくとしています。同プログラムにはタイ中央銀行も立ち会いました。今回発表された"QR Code Standard"は小規模の小売店、スーパー、コンビニなどでQRコード画像を読み取り、同時に決済が可能になる仕組みです。利用者、消費者は決済システムを探すことなく利用できるとしています。今後タイの銀行協会でも2017年から開始したPrompt Payのプログラムに採用していくことを検討しています。
タイ政府はThailand4.0の下でキャッシュレス社会の実現を目標としています。金融機関、小売店、消費者にとってより簡便、迅速、安全な決済手段になると期待しています。QRコード決済では既に中国でアリペイ、ウィーチャットペイが先行していますが、タイではまだ現金支払いが多いため、現金を必要としない社会へのシフトを目指しています。
(3)健康志向の高まりとスポーツ業界の成長・発展
タイでも健康志向が高まっています。特に女性を中心にオーガニック食品、添加物の少ない食品を選ぶ傾向が強まっていて、健康食品のデリバリーやヘルシーフードの専門店も増加中です。また、その健康志向から、ヨガ教室へ通ったり、ランニング、ジョギング、ウォーキング、自転車なども流行しています。オーガニックフードを選んだり、砂糖を控える人も増え、タイ人の間でも天然酵母パン作りなどのワークショップ、環境に配慮した雑貨やオーガニックコスメ購入などが若者の間で話題になっています。
これまでも、大型商業施設、小売スーパーの前でダンス教室、エクササイズイベントはあったものの、近年はフィットネスジムへ通う、サイクリングに出掛けるような習慣・大型イベント等も増えています。
スポーツ用品最大手スーパースポーツ社はタイの流通大手セントラルグループ子会社です。タイで有数のスポーツチェーンを展開していてタイ全土に70店舗以上のネットワークを持っており、スポーツで扱うアイテムがほとんど揃っています。大手スポーツシューズブランド、オニツカタイガー、アディダス、ナイキ、プーマ等が人気でスポーツ利用と同時に、ファッションとして履いている層も増えています。
同社のユーザーはセントラルのThe 1 Card利用者、アッパーミドル層が中心で、売上は82億バーツ(2015年)。利用者は自宅、オフィス、スマートフォンなどから注文しています。
またタイ国内ではサッカー、フットボールに関する人気が高く、タイの富豪が英国などのプロチームの買収などを行うケースも多くあります。英国プレミアリーグの2016年優勝チームはタイの免税店最大手キングパワー社がスポンサーになっているLeicester Cityでした。タイの古くからのサッカー愛好家の間では欧州サッカーリーグ、特に英国プレミアリーグの人気が高いのが特徴です。
(4)IT技術の成長と、スマートフォンの普及による新しいサービスの登場
タイのスマートフォンの普及率は70%を越えてきています(2016年)。メインOSはアンドロイドがシェアトップ、iPhoneは富裕層を中心に人気で、富裕層とアッパー中間層が欲しがるアイテムになっています。
Ericsson Mobility Report2016の最新レポートではタイのスマートフォンユーザー数は2015年の4000万人から2021年までに8000万人になると予想されています。スマートフォンユーザー増加により、スマートフォンからの買い物、スマートフォンを利用した移動サービスなどが爆発的に伸びています。
2016年、タイ国内で大きく展開しEC大手の一角を占めていたLazadaは中国ECアリババに買収されました。ファッションEC販売のZalora もセントラルに買収されるなど各EC企業の合従連衡の勢いが強まっています。一方で撤退を決定した企業もあり、楽天タイランド、トランスコスモスのオークビーなどが事業閉鎖を決定しています。決済周りではアリペイが進出するなど中国系企業のタイ国内参入が広がりを見せています。
Uber Thailand、Grab Taxiなどのタクシー呼び寄せアプリが急速に広まっています。これまで乗車拒否、遠回り、ぼったくり、サービス態度が悪いなどユーザー側にはデメリットが多かったタイのタクシー業界に風穴を開けるサービスが一気に広がりました。
同様に、荷物を自宅やオフィスまで届ける宅配サービス、EC小売サービスも広がっています。これまでもバイク便などの配送サービスはありましたが、遅延や自社の従業員でも追跡機能はありませんでしたので、時間内に早く届ける、外部評価が出来る仕組みつくりによって人気が高まっています。
レストラン外食宅配デリバリーサービス、Food Panda、Uber Eats、LINE Man、小切手・書類配送のSkootar、Banana Bike、Go Bike などラストワンマイルのデリバリーサービスは、トラックよりも渋滞に巻き込まれにくいこともあり急速に成長しています。
(5)家族構成の変化と高齢者介護問題に関して
タイ国内では家族形態として共働きが一般的です。タイの地方から出てきている若い夫婦は子供を田舎に預けてバンコクで勤務するケースもあります。富裕層の家庭では子供を大切にする傾向、悪く言えば甘やかす傾向が強いのも特徴です。そのため食事を食べさせるだけ食べさせてしまい、肥満の子供が多くなっているのも社会問題となっています。
そしてタイ国内高齢者の増加もあり、介護福祉用具の不足、家庭内介護の問題が顕在化し始めています。2015年時点で既に平均年齢は30歳を超えているのがタイの人口構成で、高齢者人口は700万~800万人規模になっています。タイは社会福祉制度がまだ十分とは言えず、家庭内で介護をするのが一般的です。日本のような介護福祉施設はこれから増えていくことが予想されています。タイ国内で日系介護事業者が数社進出しているのが現状です。
タイの一部の大手企業も高齢化へ対応する市場拡大を進めています。介護医療や高齢者向け衛生用品市場も成長しており、オムツ製品を手掛けるタイ証券取引所(SET)上場のオムツメーカーのDSGインターナショナル(DSGT)は、東南アジアで展開する代表的なメーカーです。同社はタイ、マレーシア、インドネシア、シンガポールの4か国に市場を広げていて、主なブランドはBabylove、PetPet、Fittiなどですが、この他にCertaintyブランドと言う高齢者向けオムツも販売しています。
主な大手企業として、タイ国内介護関連で進出している日系企業(2017年6月時点)は
・介護用ベッド販売会社:パラマウントタイランド社
・介護用車椅子販売会社:松永製作所タイ社
・日本式介護施設Riei Nursing Home Ladprao:株式会社リエイ現地法人Thai Riei & Elderly Care Recruitment Co., Ltd.
などです。
- 第1回 中進国となったタイ、2016年度のタイの経済動向
- 第2回 近年のタイ消費者トレンド動向、健康志向
- 第3回 タイで普及するスマートフォン向けアプリケーションの動向
- 第4回 タイの商習慣とビジネス文化を理解する
- 第5回 タイ進出前の現地調査ポイント 初級編
- 最終回:タイで2017年に進んでいるビジネストレンド
アセアン ジャパン コンサルティング株式会社
代表取締役 阿部俊之
アセアンジャパンコンサルティング株式会社 代表取締役。
早稲田大学商学部卒業後、タイへ渡り、現在タイ国内で現地の経済情報を伝え、タイ企業のリサーチ、日系企業進出支援を行っている。タイ進出案件のコンサルティング、タイの企業支援、日系企業の海外進出支援等、精力的に活動中。アセアンの経済統合に備え、隣国の調査も開始している
『だからタイビジネスはやめられない!』等、タイ経済、タイ株式、タイ不動産に関する書籍5冊上梓。