【山谷剛史の中国デジタル化レポート(全5回)】
第1回:IoTの中国の政策、動き
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2018/10/03
中国でIoTといえば、各都市に多数配置された監視カメラほか、「支付宝(アリペイ)」や「微信支付(ウィーチャットペイ)」といった電子決済対応の自動販売機、それに「Mobike」や「Ofo」などのシェアサイクルや、モバイルバッテリーを貸し出すシェアバッテリーなどのシェアサービスに関するハードウェアなどが目立つ。
またスマートフォンで知られる小米(シャオミ)の店舗では、スマートフォンでコントロールできるコンセントや家電などが売られている。小企業の意欲的な製品については、ショッピングモールのデジタル製品販売店や、オンラインショッピングサイトの「淘宝網」「天猫」「京東」などで売られているほか、京東などのクラウドファンディングで購入ができる。これが今、中国人にとっての身近なIoTだ(コネクテッドカーはまだ普及していない)。街歩きでは気づきにくいが、このほかに製造の現場でIoT導入によるスマート製造の普及が進んでいる。
IoT普及を見据えた中国の5G計画
先月深センで開催されたIoTに関する展示会「国際物聯網展(IOTE)」を参観したところ、RFIDや自動販売機や無人販売に関する展示が目立って多く見られた。無人販売といっても、ガラス張りの無人コンビニは下火だ。むしろレジスタッフの削減を目的とした有人店舗での様々な形のセルフレジが多かったのだ。IoTを活用したソリューションのほうが多く展示されていた。また商品販売だけでなく、水道メーターなどに取り付けてメーターの写真を定期的に撮影し、クラウドにアップするといった様々な製品があった。実際にそれほど普及はしていないので、まだIoT機器は密ではないが、近い将来を見据えるといよいよ5Gが必須となってくる。
IoTの本格普及の実現には5Gの整備が不可欠だ。5Gは「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」が特徴だが、特にIoTが絡む超低遅延については1ミリ秒程度とし、また多数同時接続については、基地局から1キロ以内に100万台のデバイスがつながるものとしている。
中国における5Gについては、中国の3大通信キャリアである中国移動(ChinaMobile)と中国電信(ChinaTelecom)と中国聯通(ChinaUnicom)は、それぞれ以下の都市で5Gのテストを行うとしている。
- 中国聯通は、北京、推安新区、瀋陽、天津、青島、南京、上海、杭州、福州、深セン、鄭州、成都、重慶、武漢、貴陽、広州の16都市
- 中国移動は、杭州、上海、広州、蘇州、武漢の5都市
- 中国電信は、推安新区、深セン、上海、成都、蘭州の5都市
つまり上海は全キャリアがテストをおこなう都市ということになる。
5Gネットワーク展開に向けた政策
さて中国では、大きく2018年までと2020年までを目途に国家計画で、IoTを一定のレベルまで普及させようとしている。5Gが商用化していない2018年の段階では、密でないにしろ一定規模のIoTの普及やR&Dのレベルアップが目標とされている一方、2020年では5Gの商用化も考慮したIoTの普及が意識されるわけだ。2020年以降も5か年計画により、密な普及が目標値として定められるであろう。
政策においては、まず2013年に国会にあたる国務院が、「2015年までに、コア技術を掌握し、各社会領域で広く応用され、産業体系で国際競争力を持つこと」を目標とする「国務院関于推進物聯網有序健康発展的指導意見」を発表した。その後2015年に長期的な製造強国を目指した産業政策「中国制造2025」で、「工業の基礎能力を強化する」という大きな指針が示される。2017年の全人代における政府報告で中国製造2025を進めるために、ビッグデータ、クラウド、IoTについてスピーディーに強化するよう書かれている。
国務院は2016年から2020年までの全体での国家情報化計画の大きな指針として「“十三五”国家信息化計画」も発表している。ここでIoTが積極的に発展を推進すべく、IoTに関する様々な計画を発表し、重要なモデルプロジェクトをたて、テストエリアを推進するとしている。
2016年には情報産業省にあたる工業和信息化部が「信息通信行業発展規劃物聯網分冊(2016-2020年)」を発表する。この目標は、数値的には2015年のIoTの接続数を1億から2020年には17億に、IoT産業規模について2015年の7500億元から2020年1兆5000億元にし、また技術革新、標準制定、アプリケーション、IoT産業重点地域と骨幹企業の育成、IoTセキュリティの向上を進めるというもの。
また5か年計画の中間地点である、2018年までを目標としたIoTに関する計画「智能硬件産業創新発展専項行動(2016~2018年)」もある。こちらは家庭用製品が中心で、スマート製品とサービス市場規模を5000億元規模にするという方針だ。
国際標準化に向けた中国政府のサポート
いずれの計画においても、中国全体でみた研究体制、業界団体の確立や、海外有力企業との提携、国際的な特許戦略や標準化戦略などを政府がサポートし、研究開発を推進していくものだ。中国での技術標準については、工業インターネットについて中国WIA聯盟の「WIA-PA/FA」が国際標準化されたほか、センサーなど様々なジャンルで中国標準を制定し、それを国際標準化しようとしている。
地域的には、北京、上海、無錫、杭州、広州、深セン、武漢、重慶にIoTに関する産業のアライアンスや、R&Dセンターがある。また各産業の発展重点地域は以下のようになっている。特に江蘇省無錫は、中国政府による「中国IoT研究発展センター(中国物聯網研究発展中心)」や、「センサー中国(感知中国)センター」などがあるほか、「世界IoT博覧会(世界物聯網博覧会)」の開催地となるなど、特に注目すべき都市だ。
- チップ製造:江蘇、上海、北京、四川、重慶、広東
- センサー:上海、北京、広東、福建、湖北
- ラベル完成品:北京、広東、福建、湖北
- リーダー:江蘇、北京、広東、福建
- システムIC:北京、江蘇、広東、四川、浙江
- ネット―ワークサービス:北京、上海、広東、江蘇、山東
- アプリケーション:北京、上海、広東、江蘇、福建、重慶、湖北、山東
小売りを牽引するアリババの次の動き
中国のキャリア各社やBATと呼ばれるネット大手や、ファーウェイなどの通信機器大手もIoTに取り組んでいる。特にアリババ(阿里巴巴)の会長ジャック・マー(馬雲)氏はたびたびインターネットを活用した新しいモノづくりの「新制造」という言葉を訴えている。
アリババは「新零售(ニューリテール)」という言葉を提唱して、インターネットテクノロジーを導入した新しい小売りの形態を提案した。旗艦店として現場で楽しめてスマホで決済できて迅速に配達してくれる新しいスーパー「盒馬鮮生」や、来店が楽しいショッピングモール「親橙里」をオープンした。さらにアリババに負けじと、ライバルのテンセント(騰訊)や、EC大手の京東や蘇寧易購など様々な企業が新零售を提案した店舗やサービスをスタートさせた。新零售の言葉にネット業界全体が踊ったといっていい。そのアリババが「新制造」という言葉でネット業界、さらに製造業界を動かそうとしているわけだ。アリババの影響力は大きいので、今後の同社の動きには注目だ。
- 第1回:IoTの中国の政策、動き
- 第2回:中国でクラウドを時限的に利用するユーザーの真意とは
- 第3回:個人情報流出に敏感になった中国
- 第4回:微信は筒抜け?中国サイバーセキュリティ法により企業のセキュリティの再点検を
- 最終回:中国のブラック勤務問題「996」の反応と今後~中国企業はグレーな問題にどう対処したか~
山谷 剛史
1976年東京都生まれ。中国アジアITジャーナリスト。
現地の情報を生々しく、日本人に読みやすくわかりやすくをモットーとし、中国やインドなどアジア諸国のIT事情をルポする。2002年より中国雲南省昆明を拠点とし、現地一般市民の状況を解説するIT記事や経済記事やトレンド記事を執筆講演。日本だけでなく中国の媒体でも多数記事を連載。