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  3. 「5G」とはいったい何なのか。携帯電話のこれまでと様々な無線の種類からひも解く。

「5G」とはいったい何なのか。
携帯電話のこれまでと
様々な無線の種類からひも解く。

2020年の通信業界の話題をさらったのは「5G」でした。5Gは携帯電話・スマートフォンの高性能化に留まらず、「世界を変える」とまでもてはやされています。5Gとはいったい何なのでしょうか、そして、5Gは世界を変えるのでしょうか。本日は、IIJ MVNO事業部 兼 広報部の堂前さんにお話しいただきました。

携帯電話のこれまで

携帯電話やその前身となる自動車電話が一般に利用され始めたのが1980年前後です。以降、携帯電話にまつわる改良は常に続けられており、新しい機能の追加や小型化が進められています。そうした技術開発のなかで、概ね10年ごとに携帯電話のシステムがガラッと入れ替わるタイミングがありました。これを、携帯電話システムの「世代」と呼んでいます。いま話題になっている「5G」の「G」はGeneration(世代)の「G」。つまり、携帯電話システムの第5世代目だと言うことです。

携帯電話のシステムが変わるというのはどういうことでしょうか。世代が変わると、町中にあるアンテナや、携帯電話会社のビルにある交換機といったものをひととおり新しくすると考えれば良いでしょう。もちろん、日本中の設備をすぐに交換することはできませんので、現在使っている世代の機材を残したまま、徐々に新しい設備を設置して回ることになります。新しい世代の設備が十分に広がれば、いずれ古い世代の設備は撤去され、廃止されることになります。

携帯電話 世代(Generation)の違い

第1世代~第4世代まで携帯電話システムに様々な改良が加えられてきましたが、これらはあくまで「携帯電話」とそれをベースにしたスマートフォンなどのためのシステムでした。これに対して、5G、第5世代は、携帯電話・スマートフォン以外でも利用することを最初から考えたシステムだというところが大きな違いです。

様々な無線と5Gが目指す世界

日本では様々な無線システムが利用されています

携帯電話・スマートフォンは「無線」を使った通信システムの一つです。私たちが普段生活している中では、携帯電話・スマートフォン以外にも様々な無線システムが使われています。たとえば、飛行機が飛行場の管制官などと連絡を取るために使っている航空無線、警察官が持っている警察無線。居酒屋でアルバイトをした人は、店員同士の連絡のためのインカム無線機を使ったことがあるかもしれません。

また人間同士の連絡以外にも、川の水位を自動的に計測して役所に通知するセンサーや、災害発生時に街頭のスピーカーから緊急放送を流す仕組みなど、直接人が使うものではありませんが、無線が使われています。これらの無線システムは、携帯電話とは全く異なる仕組みで動いています。たとえば、警察無線は警察無線専用の基地局がありますし、居酒屋のインカムはインカム同士が直接通信しています。

無線システムには、通信距離や速度、バッテリーの持ち、同時に通信できる台数などの制約があります。たとえば、通信距離が長くて速度が速いシステムではバッテリーの持ちが悪くなる、バッテリーの持ちを長くしようとすると速度が遅くなるなど、すべてを両立させることは不可能です。このため、これまでは無線の用途に合わせて別々にシステムを設計する必要がありました。

5Gは、こうした様々な用途の無線をすべてカバーすることを目指して設計されました。「用途によって無線システムを使い分けなくてもすべて5Gを使えばいい」というのが5Gの目指す姿です。

このために5Gで用意されたのが、あたかも複数の無線システムがあるようにみせかける「スライス」という仕組みです。5Gでは一つの無線システムの中に、速度を優先するスライス、通信の確実性を優先するスライスなど、別々の特徴を持ったスライスを作ることができます。そして、これらのスライスは別の無線システムのように利用することができるのです。
このスライスは、無線システムを作るときにあらかじめ決めるものではなく、無線システムの利用中に後から追加したり削除したりすることができます。つまり、5Gの無線システムをつかって様々な用途のための無線システムを作ったり、なくしたりできるということなのです。

「世界を変える」とは?

さて、よく言われている「5Gが世界を変える」というのはどういうことでしょうか。
ここまで紹介してきたとおり、5Gは「携帯電話以外でも利用する事が考えられた無線システム」です。しかし、従来あった数々の無線のシステムを一つに統合しただけででは「世界を変える」ということは難しいでしょう。

私は、5Gの登場は、20世紀末に登場したインターネットと同じような意味があるのではないかと考えています。

インターネットは離れた場所にあるコンピュータを繋ぐネットワークで、1990年代に急速に普及しました。そして、2000年代になるとインターネットを舞台に様々なサービスが提供されるようになり、まさに「世界を変えた」といえる革新をもたらしました。
ですが、インターネット以前にもコンピュータ同士を繋ぐネットワークは存在しました。これらのネットワークとインターネットは何が違うのでしょうか。私は、インターネットは「何にでも使える」ネットワークだったという点に注目しています。

インターネット以前のネットワークは、例えば気象情報の伝達のために気象情報専用のネットワーク、株式の注文のためには株注文専用のネットワークと、それぞれの目的のためだけにネットワークを敷設する必要がありました。これは大変高コストであると同時に、「専用ネットワークを敷設してでも利益が得られること」にしか、ネットワークが利用できないということでもありました。

たとえば、TwitterやFacebookに代表されるSNSは、いまでこそ大きなビジネスになっていますが、登場した当初、これほどまでに成長するとは誰も予測していませんでした。つまり、TwitterやFacebookが誕生する段階でそれらのための専用のネットワークの敷設に投資するという判断はできなかったでしょう。

インターネットは、気象情報の配信にも、株の注文にも使えます。さらに、今はまだ姿も形もない新しい使い方も、インターネットは受け入れられるようにできています。こうした「何にでも使える」ネットワークが全世界規模で存在したからこそ、SNSを始めとした「世界を変える」新しい何かが誕生したと考えられるのです。

先ほど5Gは「携帯電話・スマートフォン以外の用途も想定した無線システムだ」と言うことを述べました。そして、「スライス」という機能を使うことで、新しい用途を5Gの中に追加できることを説明しました。5Gはインターネットと同様、まだ姿も形もない新しい使い方を受け入れられるように作られているのです。

いま存在する無線システムを置き換えるだけでは、「5Gが世界を変える」と言うことはないでしょう。しかし、5Gの無線システムが世界中に広がり、だれもがそれを利用できるようになれば、それが「世界を変える」サービスを生み出す土壌になるかもしれないのです。インターネットを黎明期から支えてきた我々IIJも、この5Gを基盤とした様々なサービスの開発を検討していきたいと思います。


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