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社会人事始め

株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役社長 鈴木幸一

 春の嵐ならぬ、春の暴風雨が週に一度は襲う。年ごとに、季節の移り変わりが、激しくなっているようだ。桜の蕾がふくらんで、春の嵐に桜の花びらが吹き飛ばされて、一夜にして葉桜になるこの季節、私は二足の草鞋というか、「東京・春・音楽祭」を主宰するという道楽で、寝る暇もない。いい歳をして、日々、三時間程度の睡眠で済ますので、土日のいずれかは、昼まで眠り続けることになる。

 中毒症状の本を読む時間は、起き掛けの午前三時から四時までの長湯の時間に限られて、身体を洗うのも無意識のまま。その天罰が当たったのか、風呂の流し場の椅子に座ろうとして、床に尻から落ちて、したたか尾骶骨を打つ。三週間ほど経ったのに、まだ痛みが取れない。「そのうち痛みも治まる。時間を待つしかない」と、医者に言い渡され、我慢するほかない。

 入社式も、背筋をまっすぐに伸ばし、ダークスーツに身を固めた新入社員の前で、尾骶骨が椅子に当たらないように、身をねじった姿で座る。「IIJの印象は、冬でもクールビズ」、そんな評判の会社には、まるで似つかわしくない式になってしまった。「来年からダークスーツは禁止にしようか」と言ったら、「年に一度くらい、真面目な儀式を経験した方がいいのだ」と、式を仕切る人事部に叱られてしまった。そういえば、二、三ヵ月の研修期間を終えて、勤務が始まる頃には、すっかりいい加減な服装で出社する若者になってしまう。楽になるという安易なカルチャーだけは、しっかり残っていくようだ。

 創業のころは、誰も「IIJという会社に勤める」という意識などなく、インターネットを商用化しようという場がIIJしかなかったから集まっただけで、役所とか資金の問題で、始めようにも始められない状況が長く続いてしまい、籠城のような形で頑張っているうちに、集団としてのきずなが生まれて、そのうちだんだん会社らしくなってきたのである。たぶん、彼らには「社会人として……」といったことは、眼中になかったはずである。

 「学生と社会人の違いはなにかといえば、学生でいる限り、その行動に対する責任は、ほとんど個人に帰することで完結するのだが、社会人になると、社員としての行動になるわけで、その行動に対する結果は、会社、あるいはユーザといった社会的な広がりを持ち、個人で完結することはなくなる。それは、想定するよりも大変な違いなのだということを、まず理解してほしい」、入社式では、そんな話をした。

 風呂の流し場でひっくり返って、尾骶骨を痛めるというのは、痛みだけなら私個人の迂闊な行為が招いたもので、私個人でその責任は完結するのだが、痛みがひどくて会社を休むような事態になると、私個人の問題では完結しなくなる。当たり前のことだが、日常的なことについては、ふと、社会的な存在であることを忘れてしまうことが多い。会社の仕事も同じで、ミスを犯して、サービスに支障をきたしたりすると、お客さまにどんな迷惑がかかる事態になるのかについて、イマジネーションがなくなってしまいがちである。個人のミスが個人にとどまらない。社会人になった途端、責任の範囲が変わってしまうのである。そうはいっても、いつもその重荷を意識していたら、息が詰まって疲れてしまうのだが、社会人という重しについて、最低限の意識を持ってほしいと、自らの若い時代を棚に置いて、願うのである。

 やりたいことができる場でしかなかったIIJも、会社の選択という学生さんのスクリーニングを経て、入社してくれたわけだから、会社としては、社員の様々な才能を見極めて、羽ばたくことができるように努力をしないといけない。若者が一緒になってくれるこの時期は嬉しくもあり、改めて会社としての責任の重さがずっしりと身に染みる時期でもある。

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