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株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長 鈴木幸一
日々忙殺――20年を超えて、そんな過ごし方を続けていると、過ぎた時間の記憶がますます希薄になってしまうようだ。師走に入るとすぐに創業記念日である。12月3日が創業記念日だったのだが、その日を記憶している社員も少なくなった。
創業時、数人だった社員も今では2000人を超えるようになった。解体が迫ったビルの一階、ショウルームとして使われていた、天井ばかりが高く、ブラインドもなく、寒々しいという表現しか浮かばない不必要に広い空間に機器をならべて、創業した当時のことなど、思い起こせというほうが無理である。ほんとうは、思い出したくもない苦い日々なのだが、時の経過が懐かしさという柔らかい衣で包んでくれるようになって、ふと、その頃の仲間と懐旧談をしたりする。
技術革新の先端を走ろうという企業が過去を振り返ることはないと、「社史くらいつくりましょう」という声を封じてきたのだが、この頃は、忘れないうちに過去の事実を書き留めておこうかとも思う。ただし、それを公表するのは30周年の時にしようかと、依怙地になっている。時間を経て書く事実が、ほんとうの事実になるのかどうか、いささか疑問なのだが、放っておくとますます事実から離れたものになるのではないかと、正月休みに少しずつでもメモを記そうかと。
組織の規模が大きくなると、事業を成長させてきたエンジンである企業カルチャーが、少しずつ変わってくるのは致し方のないことなのだが、その変化を致し方のないことと傍観しているのも、将来を考えると、極めて深刻な話になりかねない。まして、日々、先端を走る緊張感がなくなってくると、社名である"イニシアティブ"をとり続けることが難しくなるのは目に見えている。かといって、給与もなしにインターネットを商用ベースで使えるようにしたいという思いだけを共有して集まってきた初期の頃とは違い、社員に過酷なプレッシャーを掛ければいいのかというと、それがうまくいくとも思えない。従業員が700人くらいの頃までは、社員全員を知っていて、給与もすべて私が決めていた。「それでは組織とは言えない」と揶揄され、曲がりなりにも人事制度ができて、15年になる。あらゆる制度は、いずれ制度の枠内で物事を図るようになるという危惧が、杞憂に終わらなくなってしまった気もする。今更ながらだが、組織運営というのは難しいものである。
「会社は自己実現の場である」。そんな社是を見た人に驚かれることもある。「会社は四半期ごとに経営をしているわけではない」と啖呵を切ってみたいのだが、それでも四半期ごとの数字が気になることもある。長期的な視点から、どんな論理的な説明をしても、四半期ごとの決算を無視することができないのも事実である。年の暮れになると、妙な思いが脳裏をめぐることがあって、今年の年末も、ぶつぶつと独り言を記す気になってしまった。
産業革命以降、技術が人々の暮らし方を凄い速さで変え続けている。それが人間にとって幸せなのかどうかはさて置き、世界中、変化のスピードが加速し続ける状況だけは変わらないようだ。
皆様、どうぞ良い年をお迎えください。
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